第1話 血塗られた急襲①

文字数 2,863文字

 「へー、そうなんですねー。お兄さん物知りぃ。んじゃ、この問題って解けます?… ……ちょっと。あんたも黙ってないで、聞きたいことあるんなら聞きなさいよ。いっつも課題で困ってるんでしょ。……ごめんね、この娘ちょっと内気で。」
 「…… ……。……此方については、どういった見解がおありでしょうか。… ……」
 俺は現在、地元の大学のおーぷんきゃんぱす、というものに出向いていた。大学に入って勉強でもしてみるかと突然思い立ったのがつい先週だったのだ。
 組を破門にされてからかれこれ一年が過ぎていた。時の過ぎるのは早い。時の過ぎゆくままに、なんて流行歌を口ずさんでちんたらしていたら時間がこの上無くマッハに過ぎていることに気づき、俺は自室のカレンダーを二度見した。此の侭では如何ん、という自身への意思表示であった。そのように思いついてからインターネットで色々と検索していると、丁度ご近所の大学で見学会をやっているという情報を発見するにつけ、次の土日にはさっそく相まみえたろうかしらんと画策していたのである。画策していたのであるが、日常との兼ね合いで実際に実行したのは火曜日であった。
 俺はまさに年甲斐も無く目を煌めかせながら、彼方此方の青春に目を奪われて見学会を謳歌しているところであった。まさか、四六時中デーモンの脅威に晒されたり、人間の屑のような債務者のけつ拭きをしたりする生活に骨の髄まで浸かっていた俺の中にも、人並みに青春に浮足立つ気持ちなんてものが存在していたことは驚嘆すべきことだった。
 俺は生きていく為の知識については身に着ける必要があった。何故かといえば、俺が生きていく環境では無知は死を意味していたからだ。だから必要な知識については貪欲に吸収して理論武装していったのである。そうやって例えば法律の穴を探し、穴が発見できれば其処を突破口として債務者を追い込んでいく。ちんけな法律家共にはそうやって対抗してきたのだ。只、そういう知識は歪に偏っているのも認識しており、もっと広く物を知りたい、と思った。それが大学に通いたいと思った動機なのである。
 「ホントお兄さん物知りだね!尊敬しちゃう。なんか、私、年上のダンセイって興味があるんだぁ。ねぇ、あんたもそうでしょ?!」
 「… ………」
 「ねぇ!」
 「… …そう、かも」
 そういう訳で、俺は本当にまさしくこれは、そんじょそこらの大学生なんかよりはよっぽど大学に対する純然たる動機を有する、所謂、学習意欲を胸に、このおーぷんきゃんぱすに来させて頂いているのであるが、それではこの辺でそろそろ、先ほどから俺に向かって語り掛けてる不自然なガール二人組について話の焦点を移そう。
 一人は金髪でボブ、目鼻立ちはくっきりした派手な可愛い顔立ちだが、何故かべったりと塗った口紅と妙にスカートの丈が長いセーラー服。分かりやすくいうとひと昔前に生息した女番(スケバン)という出で立ちのガール。もう一人はそれとは対照的に、眼鏡でおさげ、足首できっちりと折られたニーソックスという、此方も絵にかいたような冬服セーラ服姿の女学生といった感じ。只、眼鏡の奥に見える一重で切れ長の目が綺麗なガールだった。そんなアンバランスな二人組に俺が何故先ほどから話しかけられているかというと、その出会いは酷く強引なものであった。彼女らが体当たりでぶつかってきたのである。
 つい30分ほど前の出来事だ。俺が目をきらきらさせながら、大学の別の棟に移動しようと屋外を歩いていた時、それこそ突然、背中から彼女たちがぶつかってきたのである。
 「わきゃぁ」
 俺は日本猿のような叫び声を上げながら道に倒れ込んだ。そして、ぶつかってきた彼女らは俺に対して謝罪の言葉をとってつけたように発した後、それから何故か話題はおーぷんきゃんぱすの話へ。私たち高校生で、見学に来てるんですう、等と言いながら自身らの勉学の話題にもっていきいの、分からないところを教えてえの。そのような加減で成し崩し的に持っていかれたのが件の現状だった。あまりにも雑すぎてぱりぴのナンパかと思った。それでは何故ガール共はそのようなナンパを強行したのか。それは、つまり俺の寝首を掻きたかったからだ。
 俺はどうやら何処までいっても殺伐から抜け出ることはできないようだ。
 まぁ、それはそうだろう。おーぷんきゃんばすでの青春で少し我を忘れてしまっていたが、デーモンとの闘いは未だに続いているし、その他にも数多くの因縁にまつわる刺客がこれでもかと俺の元を訪れる。そして、このガールらはそういった刺客なのであった。
 絶姉妹(ぜつしまい)。本人たちは引き続き偽装が功を奏していると思っているらしく、無垢で純真な女子高生を演じているが、何を言う、奴らは高校等というものには通ってもいない。それどころか、幼少の頃から殺人教育機関でありとあらゆる人殺しの術を学び心身共に殺人マシンとして生まれてきたような奴らなのである。奴らは俺に面が割れているとは思ってもいないらしいが、俺のような人種は其処彼処に色々な情報網を持っているから、そういった情報には敏感なのだ。何せ命に係わる情報だからだ。
 先ほど奴らの成りを説明したが、女番の方が『絶マキコ』、おさげの方が『絶ヨウコ』という。こいつらが面倒なのは、一通りの殺人教育を受けているのみならず、超能力も使えるということだ。それだけ殺しの幅が広がる。マキコの方は炎を操り、ヨウコの方は氷を操る。そこまで情報が割れているのだ。愚かなり絶姉妹。
 そして更に本日は火曜日であった。俺の能力は火曜日に発揮される落雷の能力である。ここまでの情報で絶姉妹は此方の情報をちっとも調べていないことが分かった。それだけ自分たちの力に自信があるということか?
 「ねぇねぇ、お兄さん。お兄さんの名前は、なんて言うの?あたし、お兄さんと友達になりたいなぁ。ねぇ、あんたも聞きたいでしょ?あんたからもお願いしなさいよ。」
 マキコがヨウコの肩にそっと手を置いて笑い掛ける。その時、ヨウコの眼鏡の奥の切れ長の眼が鋭く光った。
 「… ………教えてほしいです。」
 そう言葉が聞こえるや否やのタイミングで、俺はガール共の頭上目掛けて1億ボルトの落雷をお見舞いしてやった。辺りに強烈な大爆音が響き渡る。目の前の何もかもが真っ白になった後、目が慣れてくるに従って辺りの草木が焦げるような煤けた匂いがした。
 流石、というべきか、既に絶姉妹は遥か向こうに避け落雷から逃れていた。辺りには逃げ遅れた焼死体が3体ほどあった。
 「くっくっく。やるな、竹田」
 マキコが谷よりも深いシワを眉間に作って此方を睨む。両手の平を猫の爪のように尖らせて構え戦闘態勢をとっていた。そのすぐ隣にいるヨウコは相変わらずの無表情だが、その眼はまさに氷のように透き通っていた。眼鏡を外して右手に持っていた。
 「絶姉妹。火曜日に襲ってくるなんて愚かな奴らだ。この俺が、返り討ちにしてくれる」
 俺は絶姉妹を消し炭にしようと決心して奴らを睨みつけた。

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