第13話 追及①

文字数 1,676文字

 「何の用でしょう、ってさぁ。そりゃ、あんたが一番良く分かってるんじゃないの?俺、時間が掛かる詰まんない駆け引きとか、面倒臭いから大キライなんだ。単純な話、しましょうよ。」
 「… ……。」
 俄然原の視線が外れ、テーブルに落ちる。何か考え込んでいるようだ。
 「俺が知りたいのは、一体誰が、俺に濡れ衣を着せたってことだけなんだ。つまり、絶姉妹の両親を俺が殺したって言うデマの出どころが何処かってことだ。」
 「そうよ!さっさと吐きなさいよ!!」
 右ポケットの奥底からゲルニカマキコが声を荒げる。が、ポケットのフラップが閉じたままの為、姿が見えない。大声だけが突然室内に響いたことで、俄然原は身体を強張らせ、周囲をせわしなく見回して警戒した。
 「な、何の声…?!」
 「あぁ、気にしないでくれ。まぁ、何と言うか…、俺の連れだ。」
 そう言って、俺はポケットから二体の木像を取り出してテーブルの上に置いた。途端に木像達が、テーブルの縁まで移動して俄然原に詰め寄る。
 「さぁ、白状しなさい!?」
 「…あなたが、デマを流したのですか?」
 「ひ、ひい!」
 得体の知れないものからの突然の追及にいよいよ俄然原は頭が混乱したようで、テーブルから瞬時に身体を起こし、ソファに深く寄りかかりながら頭を抱えて震え出した。
 「な、なな何ですか、…この不吉な人形は… …」
 「彼女らは、絶姉妹だよ。お前がこいつらに殺しの依頼をしたんだろう?」
 「絶姉妹?!… …まさか、そんな…」
 頭を抱えた腕の間から、恐る恐る俄然原が木像達を覗き見た。絶姉妹が生きているということが意外だったというような反応だ。おそらく姉妹が俺に殺されたことは、一早く俄然原の耳に入っていたものと思われる。
 「細かい事はどうでもいいわ!私たちはお父さんとお母さんの仇を探しているの。怪しいのは、竹田雷電が両親殺しだなんてデマで私たちを釣ったあんたよ!」
 「ひ、ひいい!… …そ、それは誤解だ!私は依頼書の通りに発注しただけだ。あなた達も知っているだろう?私は只の事務員の一人だ。それ以上でも以下でも無いよ。それがサラリーマンである私の仕事なんだ。決して其処に思惑なんて入り込まない。だが、知っての通り、依頼主の個人情報は厳守せねばならん。わ、分かるだろ?」
 「ほう。と言うことは、その依頼主が果てしなくクロに近いのな。じゃあ、とっととソイツの名前を言いな。」
 俺はソファに座ったまま左腕を伸ばし、銀の指輪の嵌った中指と親指を擦り付ける。
 -ヒュウウウウウウウウ---
 ドヒュウッ
 絶姉妹がテーブルの上の木像から突如飛び出し、俄然原の頭上に素早く移動する。絶マキコが両手をカギヅメに構え、今にも八つ裂きにしそうな勢いで眼を見開いた顔面を俄然原の頭に近づけている。絶ヨウコも涼しい顔をしながら、凍った両手の平を俄然原に向け、今にも凍結させる勢いだ。二人のセーラ服のスカートが、空中で小さく揺らめいている。
 「……!!!… …」
 細い目をめいっぱい広げ頭上の惨劇を見上げながら、俄然原は額に大きな汗粒を作っていた。いよいよもって、全身がガタガタと震え始めている。絶姉妹は今にも俄然原を殺してしまいそうだ。
 「俄然原さん、早く言わないと、あんたマジで死んじゃうよ?あんたの身体は獄炎に燃やされて、氷結に晒されて、それこそ塵になってしまうかも知れんね。」
 「ヒイッッ!わ、分かった!!分かった、い、言う。言うよ!!」
 「おう。それで良い。」
 「… …赤龍会の芥次郎(あくたじろう)だよ!」
 「何?」
 これまた、懐かしい名前が出てきた。
 「芥次郎って、誰?」
 絶マキコが顔だけ此方に向けて言う。
 「芥次郎。俺が元居た組のボスザルだよ。」
 「… …そいつが犯人…」
 ははぁ。そうすると、分かりやすい。単純に私怨ってことか。俺が組を好き放題荒らして辞めたことをまだ根に持ってるってわけだ。相変わらずネチネチと面倒臭い野郎だ。だが、事の元凶が分かった今、この際しっかりと掃除した方が良いのかも知れない。そう考えて、俺は渇いた上唇をべろりと舌で潤した。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み