第21話 赤龍会事務所①
文字数 2,103文字
肩で押して扉を開けると目の前には薄暗い廊下が奥まで続いており、最奥には上階へ通じる階段があった。廊下の蛍光灯は既に切れかけていて、瞬きをするようにチカチカと点滅していた。壁は薄黒く汚れているし、下に目を向けると床はゴミが散乱して荒れ放題だ。この有様だけでこの組の現状が垣間見れる。
芥次郎はおそらく組を立て直すのに失敗したのだろう。最早、今では看板だけがある状態で、内臓はボロボロなのかもしれない。だがそうなると昨日デンが云っていた、芥がヤバい奴を雇い入れているという話も信ぴょう性があるのかもしれない。
俺が廊下に入った時、絶姉妹は丁度脇にある部屋に入っていった。それから少し争うような物音がした後静かになった。俺は床のゴミを避けながら慎重にドアを開ける。
部屋の中は組員の詰所のような所で、テーブルとそれを取り囲むパイプ椅子があるだけの簡素なものだった。テーブルの上に一人と、其れからドアのすぐ近くに一人が倒れていた。絶姉妹がその死体を無表情で見下ろしている。
「おう、サンキュー。殺 っててくれて助かるよ。」
俺が何の気無く声を掛けるが、姉妹の返事が何故か遅い。何か思うところがあるようだった。
「… ……。竹田。」
「うん?」
「こいつら、やってんね。」
「……!」
絶マキコが呟きながら見つめるその目線の先を辿ると、テーブルの上に注射器と幾つかのカラの小瓶が転がっていた。
「… …ブーストか。」
「ぽいね。」
ブースト。裏社会 で流行っている違法ドラッグである。
違法ドラックは数あれど、このドラッグは強烈な副作用と引き換えに文字通り芥次郎 は能力者を大量に組員に雇い入れているという事だ。何故なら1階の雑魚組員でさえ能力者だったからだ。そしてもう一つ分かった事は、俺の懸念通り、雇い入れた連中は外道の輩だという事だった。
「こいつら完全に眼がイッちゃってるよ。気持ち悪ッ」
テーブルの上に倒れている雑魚組員をしゃがんで眺めながら絶マキコが云う。雑魚組員はこめかみに苦無をぶっ刺しながら絶命していたが、その表情は青白くドクロのように醜悪で、瞳孔は開き口から涎を垂れ流している状態だった。
「そりゃ、ブーストなんてやってる奴はそんなモンだよ。普通の神経の連中じゃ無い。芥の野郎、外道共を雇い入れてやがる。いよいよ、あいつもヤキが回ったかもな。」
「特に見るべきものはありませんね… …。あるとしたら…、こんなものくらい。」
絶ヨウコが壁際の机に置いてあった大量の紙を両手ですくってヒラヒラと床に落とす。どうやら光熱費の請求書のようだ。
「ふーん。ほんとに潰れかけだね、ここ。あんた、こんな所に居たの?」
「なんか、古巣を見られたようで恥ずかしい気持ちになるんだが…。いや、俺が居た一年ほど前までは、もっとマトモだったんだよ。いやマジで。」
「アハ。どーだかね。あんたが居たような組、どうせ六でもないような組に決まってる。」
「な、何をッ!」
「あんたもこの外道みたく、バカみたいな顔してドラッグキメまくってたんじゃ無いの?」
「やってねーし。てめー、好い加減にその口閉めやがれよッ」
「何よ、殺 るの?いいわよ、私は。」
「おお。俺もかまわんがな。お前が消えても、俺は何の支障もねーし。」
「アハッ。誰が誰を消すって?ウケル。大丈夫。ぎりぎりの状態で人を生かす方法も、私、幾つも知ってるから。任せておいて。」
絶マキコが憎たらしい笑顔を浮かべながら腕を組んで答える。
「よっしゃ。今の遺言って事で良いんだな。」
俺が赤龍短刀を強く握りしめたその時、
「ちょっと、二人とも!!軽口は後ッ」
睨み合った俺と絶マキコの間に入って、絶ヨウコが小さく戒めた。俺たちは不図我に返る。
「すみません」「ごめんなさい。」
正直、血が頭に上っていた。本来の目的を忘れる所だった。今大事なのは、芥次郎の息の根を速やかに絶 める事であって、絶マキコとじゃれ合う事では無い。
「ちっ。突然ケンカ煽ってきやがって。ムカつく野郎だぜ。」
「フンッ。また今度相手してあげるわ。」
絶マキコも気を取り直してスカートを手で軽く払った。
「もう。マキコも変なタイミングで突っかかるんじゃ無いの!」
「だぁって。なんだか、イラっとしちゃったんだもの。」
「どゆこと?」
「竹田がなんだかグズグズしてるから。」
絶マキコが金髪ボブ頭の後ろに手を組んで、此方を見ながら云った。
「あ?俺がなんだってんだよ。」
「カンワキュウダイ、行くよッ。」
そう云うと、絶マキコがまたしても先行して部屋を出ていく。俺は絶マキコの云ってる事が良く分からなかった。ボケっと立っていると、絶ヨウコが俺の方をマジマジと見ながら、行きますよ、と一言掛けて絶マキコの後に続いた。
「おい!あんまりガンガン行くんじゃねーよ。もうちょっと慎重に行けっての… …って。なんなんだよ、ったく。」
若さゆえのイケイケ具合にかなりイラつきながら、俺は1階の部屋を出て上階への階段をゆっくりと上って行った。
芥次郎はおそらく組を立て直すのに失敗したのだろう。最早、今では看板だけがある状態で、内臓はボロボロなのかもしれない。だがそうなると昨日デンが云っていた、芥がヤバい奴を雇い入れているという話も信ぴょう性があるのかもしれない。
俺が廊下に入った時、絶姉妹は丁度脇にある部屋に入っていった。それから少し争うような物音がした後静かになった。俺は床のゴミを避けながら慎重にドアを開ける。
部屋の中は組員の詰所のような所で、テーブルとそれを取り囲むパイプ椅子があるだけの簡素なものだった。テーブルの上に一人と、其れからドアのすぐ近くに一人が倒れていた。絶姉妹がその死体を無表情で見下ろしている。
「おう、サンキュー。
俺が何の気無く声を掛けるが、姉妹の返事が何故か遅い。何か思うところがあるようだった。
「… ……。竹田。」
「うん?」
「こいつら、やってんね。」
「……!」
絶マキコが呟きながら見つめるその目線の先を辿ると、テーブルの上に注射器と幾つかのカラの小瓶が転がっていた。
「… …ブーストか。」
「ぽいね。」
ブースト。
違法ドラックは数あれど、このドラッグは強烈な副作用と引き換えに文字通り
能力を押し上げて
くれるものだ。そして能力とは勿論、超能力。此の事から読み解ける事は「こいつら完全に眼がイッちゃってるよ。気持ち悪ッ」
テーブルの上に倒れている雑魚組員をしゃがんで眺めながら絶マキコが云う。雑魚組員はこめかみに苦無をぶっ刺しながら絶命していたが、その表情は青白くドクロのように醜悪で、瞳孔は開き口から涎を垂れ流している状態だった。
「そりゃ、ブーストなんてやってる奴はそんなモンだよ。普通の神経の連中じゃ無い。芥の野郎、外道共を雇い入れてやがる。いよいよ、あいつもヤキが回ったかもな。」
「特に見るべきものはありませんね… …。あるとしたら…、こんなものくらい。」
絶ヨウコが壁際の机に置いてあった大量の紙を両手ですくってヒラヒラと床に落とす。どうやら光熱費の請求書のようだ。
「ふーん。ほんとに潰れかけだね、ここ。あんた、こんな所に居たの?」
「なんか、古巣を見られたようで恥ずかしい気持ちになるんだが…。いや、俺が居た一年ほど前までは、もっとマトモだったんだよ。いやマジで。」
「アハ。どーだかね。あんたが居たような組、どうせ六でもないような組に決まってる。」
「な、何をッ!」
「あんたもこの外道みたく、バカみたいな顔してドラッグキメまくってたんじゃ無いの?」
「やってねーし。てめー、好い加減にその口閉めやがれよッ」
「何よ、
「おお。俺もかまわんがな。お前が消えても、俺は何の支障もねーし。」
「アハッ。誰が誰を消すって?ウケル。大丈夫。ぎりぎりの状態で人を生かす方法も、私、幾つも知ってるから。任せておいて。」
絶マキコが憎たらしい笑顔を浮かべながら腕を組んで答える。
「よっしゃ。今の遺言って事で良いんだな。」
俺が赤龍短刀を強く握りしめたその時、
「ちょっと、二人とも!!軽口は後ッ」
睨み合った俺と絶マキコの間に入って、絶ヨウコが小さく戒めた。俺たちは不図我に返る。
「すみません」「ごめんなさい。」
正直、血が頭に上っていた。本来の目的を忘れる所だった。今大事なのは、芥次郎の息の根を速やかに
「ちっ。突然ケンカ煽ってきやがって。ムカつく野郎だぜ。」
「フンッ。また今度相手してあげるわ。」
絶マキコも気を取り直してスカートを手で軽く払った。
「もう。マキコも変なタイミングで突っかかるんじゃ無いの!」
「だぁって。なんだか、イラっとしちゃったんだもの。」
「どゆこと?」
「竹田がなんだかグズグズしてるから。」
絶マキコが金髪ボブ頭の後ろに手を組んで、此方を見ながら云った。
「あ?俺がなんだってんだよ。」
「カンワキュウダイ、行くよッ。」
そう云うと、絶マキコがまたしても先行して部屋を出ていく。俺は絶マキコの云ってる事が良く分からなかった。ボケっと立っていると、絶ヨウコが俺の方をマジマジと見ながら、行きますよ、と一言掛けて絶マキコの後に続いた。
「おい!あんまりガンガン行くんじゃねーよ。もうちょっと慎重に行けっての… …って。なんなんだよ、ったく。」
若さゆえのイケイケ具合にかなりイラつきながら、俺は1階の部屋を出て上階への階段をゆっくりと上って行った。