その五

文字数 1,382文字

 ……いつまでその体制でいたことだろう。眩い光が消え去ったと共に私は目元を隠した腕を下ろし、恐る恐る様子を伺った。
「そんなに恐れなくても大丈夫。もう終わったから」
 隣の紫帆はすでに立ち上がっていた。足についた細かい砂を払い、その表情はやや疲れて見える。
「しばらく力を使うのは無理。あーあ、いつぶりだろう。ちゃんとした理由でここまで頑張るのは」
 大きく伸びをして独り言を言っている。そんな様子を見たあと私は、驚く光景に目を見張った。先程までのバラバラ死体が、くっついているのだ。関節ごとの縫合の跡はあるものの、先程まで死体だった男は仰向けに寝ている。
「……本当に、生き返ったのか?」
「生き返ったね、息しているから。……じゃあ、私はここで」
「え、あ、ちょっと!」
 呆然としているうちに紫帆は一本道の方へ戻っていく。
「この人、このままにしていいんですか!」
「声掛けたいのは山々なんだけど、彼に嫌われているから」
 嫌われているのに生き返らせたとは、また意味が分からない。
「待ってください!せめて、最後に一つだけ教えてください!」
 背中を向けて手を振る女に、私はあらん限りの声で尋ねた。
「この島で、アイハラと名乗る男を見ませんでしたか!私は彼を探しに来たんです!」
 せめて何か一つでも、彼に対する手がかりが欲しかった。
 すると……紫帆の足が止まり、そして振り向いて言った。
「見たよ。……なかなか面白い人だった」
 どこか慈愛に満ちた、微笑みを浮かべて。

 その時の私の心は、驚きと同時に喜びで満ち溢れた。
 この二ヶ月探し求めた友は、この島にいるのだ。
 この六稜島に。

「堂島さん!」
 私は荷物を手に持ち、再び歩き出した彼女の後を追った。
「お願いです!もし彼の居場所を知っているのなら、案内してくれませんか!この二ヶ月間、私は調べに調べて六稜島まで来たんです!」
「敬語なんて使わなくていいよ。それに紫帆でいい。……うーん、そうだなあ」
「手伝えることならなんでもします!だからお願いします。アイハラを見つけて、共に帰りたいんです!」
 この時の私は藁にもすがる思いだった。だから「なんでもする」だなんて言ってしまった。今思うとそれは、私の今後の人生を大きく変えるものだった。
「あはは、ほんと?なんでもしてくれるんだ?」
「え……ああ勿論!男に二言はない!」
「あ、いい感じだねその口調。ただ男に二言はないってのは久々に聞いたかも」
 笑いながら紫帆は言った。
「じゃあ今日一日、そこの彼と一緒に過ごしてあげて」
「え」
 予期せぬ頼みに、思わず私は荷物をどさりと落とした。
「そこの彼って……そこの?」
 私は愕然としながら指差す。そこには先程までバラバラだったはずの男がまだ横たわっている。
「そう、そこの人。ひねくれ者だけど仲良くしてあげて。約束守ってくれたら、今日の夜に必ず案内するから。大切な友達のいる場所」
 私は改めて横たわった男を見つめた。だがここで考えを改める訳にもいかない。紫帆の言うことは未だにさっぱり分からなかったが、ひとまず従うほかなかった。
「……分かった。その代わり、本当に案内してくれるんだな?」
「案内する。……というより夜までには調べ上げる。一人一人の居場所を知っている訳じゃないから、簡単じゃないけど」
 早速作業に取り掛かるからと言って、紫帆はそそくさと浜辺を去って行った。
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