その二

文字数 1,733文字

 アイハラが行方不明になって二ヶ月。私はまだ彼の後を追うことができなかった。
 予定を済ませたあの日の翌日、私は荷物とチケットを持って電車を使い、近くの港まで出てきた。しかしそこでハプニングが起きた予期せぬ出来事があった。私を待つ船など一隻もなかった上、そんなチケットなど見たことがないと近くの窓口で言われたのだ。
 私はすぐにアイハラにトラブルが起きた旨を伝えようとした。しかし彼は一度も私の電話に出なかった。繋がりさえしなかった。そうした一方的なやり取りが一週間続き、さすがの私も心配になった。
 書籍や新聞、インターネット。あらゆる情報手段を用いて私は六稜島について調べた。しかしろくな情報は一つも見つからない。島の所在すらまともに出てこない。私は旅行の計画の全てをアイハラに任せきりにしていた。「俺に任せとけ!」と彼に言われたからだ。その当人は一体どこへ消えてしまったのか。
 何日経過してもアイハラの携帯電話は繋がらなかった。家族親戚にも聞いてはみたが「ここ二年は音信不通だ」と言われた。その時の私は非常に驚いた。アイハラ本人の口から、そんな話を一度も聞いたことがなかったからだ。
 知人友人にもわざわざ連絡を取って尋ねた。すると「サクマと共に謎解き旅行に行く」と張り切っていた記憶が最新のものだった。最後に彼に会ったのは私以降、誰もいなかったのである。
 アイハラの行方を探そうと躍起になった行動は全て空振りに終わった。今では警察も少しずつ静かにであるが動き始めているらしい。しかし今現在も彼は見つかっていない。港へ向かうまでの形跡すら掴めていないらしい。
 私は途方に暮れた。最後に残された手掛かりは六稜島、これしかなかった。しかし存在するかどうかも未だはっきりしていない。片っ端からあの島について取り上げていた編集社数社に問い合わせたこともあったが、それも上手くいかなかった。
 しかしその一週間後、突然に私の行動は身を結んだのだ。
 突如掛かってきた携帯電話を、急いで私は手に取った。しかし表示されたのは私の望む相手ではなかった。
「非通知」という冷たい文字を見つめ、ため息混じりに私はその電話に出た。
「……はい」
「佐久間稜一さんのお電話番号で?」
「ええ、まあ……そうですけど」
 聞いたことのない声だ。
「ええっと……どなたですか」
 私は無駄に口を開くことも億劫になっていた。相手の要件を伺うまでは。
「私、アイハラさんを六稜島へ案内した犬飼という者ですが」
「ええ!?それは本当ですか!」
 私は思わず自分の携帯を耳に押し当てて尋ねた。男の声はとても低く、聞き取りにくかったからだ。
「はい。あなたは佐久間稜一さん本人ですか?」
「ええ!そうです!あの、アイハラは今どこにいるんですか!」
「六稜島におりますよ」
「携帯が全く繋がらないんです!もう二ヶ月以上も経っているのに!」
「向こうは電波が悪いのでねえ。特に本土と島を結ぶにはちょっと」
 電波が悪い?よほど辺境の島なのか。しかしそれなら他の連絡手段を取ればいいはずだ。
「電波が悪いなら手紙の一枚でも出すはずだ!一週間もあれば届く」
「それはアイハラさんの勝手なんでねえ。私がどうこうできる問題ではないでしょう」
 確かにその通りだ。しかし何故アイハラは手紙すら寄越さない?
「私も忙しいのでね、手短に話させて頂きますよ。二日後の八月十三日の午前零時。あなた、阿部ノ港へ来ることは可能ですか?」
 阿部ノ港は私の住む場所から最も近い港だった。
「電車は確かあったはずだから…行けるには行けますが」
「貴方様を六稜島へ案内します」
「え……」
 私は思わず声を上げた。あまりにも突然のことだったからだ。加えて犬飼と名乗る男の口調は、「案内する」と言うよりも「お前を連行する」と言っているようでもあった。
「では八月十三日の午前零時、阿部ノ港でお待ちしておりますので」
「ちょ、ちょっと待ってください!まだ行くと決めたわけじゃあ」
「アイハラさんのことが心配なんでしょう?貴方様から出向かない限り、状況は何一つ変わらないと思いますが」
 そう言い切って電話は切れた。私は呆然として思わずその場に立ち尽くす。

 果たしてアイハラは本当に、六稜島にいるのだろうか。
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