第4話 第4章
文字数 2,048文字
十月に入ると、園の行事もたけなわ。秋の遠足、運動会。僕は園の役員だとついこの間知らされた優馬ママに頼まれて、運動会の準備に奔走する。園庭の整備、使用する道具の準備、借り物競争に必要なグッズの買い出し、などなど。同じく役員の花音ママ、翔大ママと連絡を取り合い、毎日都内を駆けずり回っていた。
有能な優馬ママの指示と指導のお陰で、運動会の準備は万端。あとは気象衛星ひまわり九号に当日の快晴を祈るばかりとなる。
「気象衛星にお祈りって… 澪ちゃんパパ、可笑しい」
と数名のママさんに笑われるが、当日。見事快晴と相成り。
「これからは神様じゃなくて、機械に祈る時代なんですね… さすが澪パパ!」
と何故か尊敬されてしまう。
競技では園児に特に怪我人もなく、恙無く終了の筈だったのだが。例年、親の負傷者が後を絶たないと聞いてはいたが。今年はなんと、お父さん途競争で肉離れ二名、お母さん綱引き大会で転倒による擦り傷、捻挫、更には骨折者まででるという、正に『戦場』と化してしまった。
まさか綱引きでこれ程負傷者が続出するとは夢にも思わず、救急箱を抱えて走り回ったり旦那さんに開いている病院を調べて伝えたりと、正に救護兵としてかけずり回っていたのだ。
それにしても綱引きがこれ程危険な競技とは知らなかった。来年の申し送りには、綱引き競技の禁止もしくは救急車の待機要請を含めようと決意する。
それらの負傷者のケアに振り回されたお陰で、澪の勇姿を全くみることができず相当凹んだ。宴の、いや戦の後片付けをしながら溜め息をついていると、
「澪ちゃんの写真撮ったから送りますね」
「動画撮りましたよ、LINEで送りまーす」
などの嬉しい言葉を多々いただき、ああお手伝いをして本当に報われた、と目頭が潤んでしまう。すっかりご機嫌になり、ゴミを裏に捨てに行く途中。
「やっほー、なんかメチャ忙しそうだから、声かけられんかったー」
ゆっきーがやや疲れ顔で僕に笑顔を送る。
もうすぐ澪の幼稚園の運動会があって、その準備でメチャ忙しい、と愚痴を送ったら、
「絶対行く! 絶対観に行く!」
とは言っていたが、イラスト制作に忙しいらしく、本当に来れるか謎だったのだが。
ゆっきーに会うのは十月に入って初めてだった、以前よりも大分げっそりし、多分片手で持てるくらい軽くなっている様子に、
「ちゃんとご飯食べてるかー?」
「んーーー、ちょこっと…」
「駄目じゃないか。ちゃんとご飯は食べて、たまには運動でもしないと。」
「それなー。でもさ、今ちょっと楽しすぎて…」
そうなのだ、ゆっきーは投稿サイトにデビューし、瞬く間にとんでもないフォロワー数を獲得し、今やサイトでも注目の新人となっているのだ。
「仕事の話とか、来ているの?」
「うーーん、幾つかあるんだけどさ。それがねえー ああそうだ、今夜澪ちゃんとウチ来れるよね? そん時話すわー」
運動会の後、澪と遊びに行く話になっていた。澪はそれをメチャ楽しみにしていたので、ゆっきーが作成に没頭し運動会を忘れてないか、ちょっと心配だったのだが杞憂だったようだ。
「じゃ、これ片付けたら澪と行くから。七時前には行けると思う」
「おけ。待ってるよーん」
久しぶりのゆっきーの後ろ姿。疲れた身体が生き返った気がする。
日が暮れかかり綺麗な夕焼けがその後ろ姿を照らす。兵どもが夢の跡、園庭には誰一人残っておらず、ただ暮れなずむ夕陽が優しく木々の影を作っている。
片付けを全て済ませ、役員のママさん達と労いあっていると、
「今度、打ち上げをしましょうよ!」
という話になり、当然の流れで僕も参加することとなる。井戸端会議からのランチなどですっかりママさん達とのコミュニケーションは苦ではなくなっていたので、逆にちょっと楽しみである。
場所はどこにしようかと相談している中、前にチーム・ランドリーで行った駅近のイタリアンを提案すると、
「澪パパ、すっかり変わったよねー」
と翔大ママに感心されてしまう。皆もそれに深く同意を示し、
「こんなに積極的に色々手伝ってくれて。ほんと大助かりですよ。」
「ねえ、前はちょっと話しかけずらかったけど。今はすっかり頼りになる素敵なパパさん、って感じよねえ、うちの主人も澪パパぐらいー」
なんて僕のアゲアゲ話で盛り上がってしまい、煉獄さんのように耳から炎が出る程照れてしまう。
その流れで各々の子供を呼び出し帰宅の途につく。僕と澪はゆっきーの家に行くので駅の方面に向かおうとすると、
「あら、真田さんの家はこちらでしょ」
「ああ、今夜は知人の家で食事会なので」
と言うと、優馬ママがニヤリと笑い、
「ああ、ゆっきーさん、と言う方のお家に行くのですよね」
って… へ? 何故それを?
ママ連が、おおおと唸り声を上げるので、澪の手を引いて一足先にお邪魔する。ああびっくらこいた、なんで優馬ママが知ってんの…
「ああ、ユウマがさ、こんやうちでごはんたべないかってうるさいから、そう言ったよ」
…おまえか、犯人は…
有能な優馬ママの指示と指導のお陰で、運動会の準備は万端。あとは気象衛星ひまわり九号に当日の快晴を祈るばかりとなる。
「気象衛星にお祈りって… 澪ちゃんパパ、可笑しい」
と数名のママさんに笑われるが、当日。見事快晴と相成り。
「これからは神様じゃなくて、機械に祈る時代なんですね… さすが澪パパ!」
と何故か尊敬されてしまう。
競技では園児に特に怪我人もなく、恙無く終了の筈だったのだが。例年、親の負傷者が後を絶たないと聞いてはいたが。今年はなんと、お父さん途競争で肉離れ二名、お母さん綱引き大会で転倒による擦り傷、捻挫、更には骨折者まででるという、正に『戦場』と化してしまった。
まさか綱引きでこれ程負傷者が続出するとは夢にも思わず、救急箱を抱えて走り回ったり旦那さんに開いている病院を調べて伝えたりと、正に救護兵としてかけずり回っていたのだ。
それにしても綱引きがこれ程危険な競技とは知らなかった。来年の申し送りには、綱引き競技の禁止もしくは救急車の待機要請を含めようと決意する。
それらの負傷者のケアに振り回されたお陰で、澪の勇姿を全くみることができず相当凹んだ。宴の、いや戦の後片付けをしながら溜め息をついていると、
「澪ちゃんの写真撮ったから送りますね」
「動画撮りましたよ、LINEで送りまーす」
などの嬉しい言葉を多々いただき、ああお手伝いをして本当に報われた、と目頭が潤んでしまう。すっかりご機嫌になり、ゴミを裏に捨てに行く途中。
「やっほー、なんかメチャ忙しそうだから、声かけられんかったー」
ゆっきーがやや疲れ顔で僕に笑顔を送る。
もうすぐ澪の幼稚園の運動会があって、その準備でメチャ忙しい、と愚痴を送ったら、
「絶対行く! 絶対観に行く!」
とは言っていたが、イラスト制作に忙しいらしく、本当に来れるか謎だったのだが。
ゆっきーに会うのは十月に入って初めてだった、以前よりも大分げっそりし、多分片手で持てるくらい軽くなっている様子に、
「ちゃんとご飯食べてるかー?」
「んーーー、ちょこっと…」
「駄目じゃないか。ちゃんとご飯は食べて、たまには運動でもしないと。」
「それなー。でもさ、今ちょっと楽しすぎて…」
そうなのだ、ゆっきーは投稿サイトにデビューし、瞬く間にとんでもないフォロワー数を獲得し、今やサイトでも注目の新人となっているのだ。
「仕事の話とか、来ているの?」
「うーーん、幾つかあるんだけどさ。それがねえー ああそうだ、今夜澪ちゃんとウチ来れるよね? そん時話すわー」
運動会の後、澪と遊びに行く話になっていた。澪はそれをメチャ楽しみにしていたので、ゆっきーが作成に没頭し運動会を忘れてないか、ちょっと心配だったのだが杞憂だったようだ。
「じゃ、これ片付けたら澪と行くから。七時前には行けると思う」
「おけ。待ってるよーん」
久しぶりのゆっきーの後ろ姿。疲れた身体が生き返った気がする。
日が暮れかかり綺麗な夕焼けがその後ろ姿を照らす。兵どもが夢の跡、園庭には誰一人残っておらず、ただ暮れなずむ夕陽が優しく木々の影を作っている。
片付けを全て済ませ、役員のママさん達と労いあっていると、
「今度、打ち上げをしましょうよ!」
という話になり、当然の流れで僕も参加することとなる。井戸端会議からのランチなどですっかりママさん達とのコミュニケーションは苦ではなくなっていたので、逆にちょっと楽しみである。
場所はどこにしようかと相談している中、前にチーム・ランドリーで行った駅近のイタリアンを提案すると、
「澪パパ、すっかり変わったよねー」
と翔大ママに感心されてしまう。皆もそれに深く同意を示し、
「こんなに積極的に色々手伝ってくれて。ほんと大助かりですよ。」
「ねえ、前はちょっと話しかけずらかったけど。今はすっかり頼りになる素敵なパパさん、って感じよねえ、うちの主人も澪パパぐらいー」
なんて僕のアゲアゲ話で盛り上がってしまい、煉獄さんのように耳から炎が出る程照れてしまう。
その流れで各々の子供を呼び出し帰宅の途につく。僕と澪はゆっきーの家に行くので駅の方面に向かおうとすると、
「あら、真田さんの家はこちらでしょ」
「ああ、今夜は知人の家で食事会なので」
と言うと、優馬ママがニヤリと笑い、
「ああ、ゆっきーさん、と言う方のお家に行くのですよね」
って… へ? 何故それを?
ママ連が、おおおと唸り声を上げるので、澪の手を引いて一足先にお邪魔する。ああびっくらこいた、なんで優馬ママが知ってんの…
「ああ、ユウマがさ、こんやうちでごはんたべないかってうるさいから、そう言ったよ」
…おまえか、犯人は…