第五十二幕!雪山の思惑
文字数 7,528文字
その大軍勢は、迫撃砲で帯広市街を爆撃。今すぐにでも、軍勢が街へと押し寄せようとしていた。
慌てふためくAIM本軍。イソンノアシは、この状況を打破すべく、策を求めて先生の元へとやってくる。彼の表情には、焦りと同時に申し訳なさも出ていた。
「真。お主の案を採用しなかったワシの判断ミスじゃった。すまぬ。」
焦る彼に対して、先生はいたって冷静だ。
「顔をあげてください。私も本当に軍が大雪山に潜んでいるとは思いませんでしたので。」
「帯広を守っておるのは、ごく少数の守備兵とお主ら革命団の配下の部隊のみ。早く戻らねば大変なことになる。」
「首長、ご安心ください。もうすでに勝ちは確定しております。」
「何を言っておる。守るだけでも精一杯なんじゃぞ!」
しかし、先生の目からは揺るがぬ勝利を確信させるかのごとき自信が伝わってくる。それを見たイソンノアシは冷静を少しばかり取り戻した。そして笑みを浮かべる。
「真がそこまで言うのであれば、AIMが負けることはまずないようじゃな。」
先生がそれを聞いて笑った。そして表情を真面目に戻す。
「さようでございます。 敵の奇襲を逆手にとって、大雪山を攻略してみせましょう。」
2人が空を見上げると、太陽が燦々と照りつけ始めている。
イソンノアシは、本陣に本軍12万を集結させ、占冠村への囮部隊以外を率いて、一挙に帯広まで引き返し始めた。
◇
帯広市郊外。札幌官軍陣営は、敵の本拠地への爆撃に成功して歓喜に沸いていた。
総大将の土方は、付き人と共に小高い山を登り、パニックでどよめく帯広の街を勝ち誇った顔で見下ろしていた。
帯広を陥落させれば、後は富良野に進駐しているAIM軍を追撃して、旭川の官軍と挟み撃ちにして迎撃するだけである。彼の心境は、もう少しで戦いを終わらせることができるという安堵感と、諸葛真がまだ健在であるという恐怖。これらが入り乱れた複雑な気持ちだ。それ故に、自らは歓喜の和から外れ、1人で諸葛真の胸中を考えていた。
この状況で彼ならどのように動くのだろうか。もしかしたら、この展開すらも彼の手の内なのではないか。そんな不安ばかりが頭をよぎっていく。そして、その不安はすぐに現実の物となるのであった。
土方の軍用携帯に着信が入る。軍の左翼に布陣していた仙台官軍の応援部隊からだ。
報告によれば、側面に突如として現れたAIM軍から奇襲を受け、仙台官軍部隊がほぼ壊滅状態に至ったのだという。
そんなこと有り得ない。土方はそう思いたかった。 情報によれば、敵の数は1200人程の極小部隊。それに対して仙台官軍の応援軍は3万。物理的にも、奇襲だけで壊滅させるなど不可能に近い。 一体どういうことなのだろうか。
そうこうしているうちに、左翼から押し寄せ始めた動揺は、徐々に軍全体に広がった。土方は、全軍にAIM伏兵の討伐を命じ、自らも側近とともに最前線へと向かった。
◇
17万の大軍勢を目前にしても、ひるむことなく突撃していく部隊がある。龍二、典一、長治率いる青の革命団直属の部隊だ。
紋別騎兵隊との戦いを中心とした道東攻略戦で鍛え上げられた彼らは勇ましく、臆することなく風を切るように官軍陣営を破壊していった。
典一は、先頭を切る龍二を畏敬の眼差しで見つめる。
「龍二。お前がいなかったら、足がすくんでたぜ。」
「意外だな。一番ビビらなそうなのに。」
「そうか?この大軍勢を見たら、どんな強者だって足元すくむぞ。」
「まあ、こんな烏合の衆は、紋別騎兵隊と比べたら大したことないだろう。」
そう豪語する龍二に、典一が水をさす。
「油断するなよ。あれでも敵は本物の軍隊なんだから。」
「ああ。わかってる。」
その会話に長治も入ってきた。
「誰が一番先に山の入り口に到達できるか競争しないか?」
龍二が彼を冷静な目で見た。
「お前が一番余裕そうだな。」
「はっはっは。こういう時こそ平然を保たないとな。」
すると龍二は、笑みを浮かべつつ前を見る。
「そうだな。だが、すでに勝負は始まっているようだぜ。」
長治が何のことやらと前方を見ると、スノーモービルに跨った典一とその部隊が、一足先に敵陣へと突入していくのが見えた。
「あ、あの野郎抜け駆けしやがって!!」
長治は、文句を言おうと隣を見た。するといつの間にか、龍二も突撃を始めていた。
先を取られた長治は、負けてたまるかと配下を激励。スノーモービルのエンジンをフル回転させると、猛スピードで敵陣に突っ込んだ。
◇
龍二は、長治が付いてきているのかを確認しつつ典一を追いかける。四方八方から飛び交う鉛弾の暴風が、3人の部隊へと襲い掛かる。次々と撃ち殺されていく味方を横目に、目的地である大雪山国立自然公園の入り口を目指した。
なぜそこを目指すのかというと、入り口を抑え込むことで、敵が山に籠城することを阻止する狙いがあるのだ。
敵陣は、中央へ行けば行くほど油断に満ち溢れていたのか、激しい動揺の渦が巻き起こっていた。
龍二は、好機を逃さず一挙に敵の核心部まで突撃。烏合の集と呼んでも過言でない官軍の指揮系統をズタズタに崩壊させる。
そんな突如として現れた龍二達を見て、官軍は山への撤退を開始する。それを追撃するように、龍二が部隊を率いて山の入り口へと駆け抜ける。しかし、ここで事態は再び官軍の優勢へと動く。
AIMの奇襲を知った土方が、山の入り口付近に機関銃部隊を配備。攻め込もうとする龍二らに対して一斉に火を噴いたのだ。官軍の最新式機関銃の威力は凄まじく、AIMの軍用スノーモービルをことごとく貫通させ爆破していった。
このままでは敗北すると悟った龍二は、長治と典一に声をかけ、軍をひとまず帯広まで退却させた。そして、先生にすぐさま電話で戦況を報告すると、意外な答えが返ってきた。
「お見事です。よくぞ山を落としてくれました。」
龍二の頭上にクエッションマークが浮かぶ。
「それはどういうことですか?」
「時期にわかります。ですが今は、またすぐにでも再起できるようなアピールを敵にしてください。それで奴らの目を釘付けにするのです。」
「承知いたしました。」
龍二には、先生の考えがわからなかった。しかし、先生が何も考えずに指示を出すはずがない。
彼は、言われた通りに部隊を立て直し、官軍陣営に発砲するなど交戦の姿勢を見せつけた。更に巨大な音響設備を持って来させて、官軍を煽るような文言を連発してみせた。
現状だと、官軍に攻め込まれれば帯広は間違いなく陥落してしまう。だから、この龍二の行為に不安を覚える部下も多くいた。しかし、龍二は先生を信じていた。
先生ならきっと、勝利を掴みとる策を立てている。だから俺たちにこんな指示を出したんだと。
◇
1時間くらい経過した頃、体勢を立て直した官軍がついに動き出した。奴らは一斉に陣を出ると、怒涛の勢いで帯広の街へ迫ってくる。
イソンノアシら本軍は、いまだに返ってくる気配がしない。時間がない。そう考えた龍二は、急ぎ部隊を集結させると、死を覚悟して打って出た。
こうなってしまえば、少しでも時間を稼いで本軍が到着する奇跡にかける意外ない。その為にはどうすれば良いか。龍二は戦場をぐるりと見渡した。それからとんでもない作戦を思いつき、長治と典一を呼び出した。
「2人に頼みたいことがある。」
龍二の目は真剣だ。2人は息を飲んで彼の言葉を待った。彼は、一呼吸おいて口を開く。
「それぞれ選りすぐりの50人を率いて、あの大軍勢の両翼を攻撃して欲しい。」
典一は、驚きを隠せない。
「おい、正気か!それはさすがに無謀だ!!」
「これは、2人の武勇を信頼した上でのお願いなんだ。」
長治は、目を瞑って考え事をしているようだ。
典一が龍二に尋ねる。
「なんか策があるのか?」
「時間稼ぎだ。」
「何の?」
「置かれた状況考えろ。」
すると、典一は何かに気づいたようだ。それを見た龍二が言う。
「そう言うことだ。先生には考えがある。だからこんな無茶苦茶な策を提案してこられたんだ。そして彼は、敵の目を釘付けにして欲しいと言った。つまり時間を稼げば、策が発動して勝機が来るってことだ。」
それを聞いた典一は、納得のいった顔をしていた。
「なるほど。了解だ。」
すると長治も目を見開いた。
「承知。何万の大群だか知らねえが、俺の手で食い止めてやるよ。」
龍二は、奇跡を信じろとしか言えない命令に対して、意気揚々と受け入れてくれた2人に感謝した。
こうして龍二の策は実行に移される。武闘派の2人で両翼を脅かしつつ、敵の狙いを分散させ、自らは中央で敵の大部分を受け止める。それから大いに時間を稼ぎ、何か起こるであろう先生の策を待つ。
龍二達3人と札幌官軍の根比べが幕を開けたのである。
◇
龍二達が激闘を繰り広げている中、カネスケは官軍の背後へと密かに迫っていた。配下の兵士は500人。先生は、よくもまあこの人数でこの大役をやらせようと考えたな。カネスケはそう思った。
部隊は少しずつ雪山をかき分けながら、官軍の本営を目指した。札幌官軍は、まさかAIMの伏兵が背後を突こうとしているなど考えていないのか、守りが全くと言っていいほど手薄である。
敵の本営らしき天幕が薄ら確認できたころ、先生から連絡が入る。
『龍二らが官軍を引きつけています。急ぎ拠点を奪いなさい。』
カネスケは、先生に返信を返す。それからもう一度敵の本営を確認する。すると、どうやら本当に全軍で帯広を攻略するつもりのようだ。ごく少数の兵隊を残して、全軍が十勝平野へと降りていた。
カネスケが配下の兵士に檄を飛ばす。そして、敵の本営へと襲いかかった。
官軍守備兵は、不意に現れた軍隊に腰を抜かしてことごとく降伏。カネスケ率いる部隊は、それからあっという間に官軍の拠点を占拠した。
彼は、官軍が残した物見櫓へと登り、十勝平野を見渡した。平野では、17万の大群が龍二率いる約1000人の兵隊に振り回されていた。そして目を西側へ向けると、AIMの本軍がいつの間にか官軍の側面を衝くかのように攻め込む準備を始めていた。
◇
十勝平野を飲み込むような官軍の大群。先生はそれを見て、ただただ笑みをこぼすだけだ。
「袋のネズミとはこのことだ。」
そんなことを言っている先生の余裕な姿に、その場にいた全員が感服している。
「札幌官軍もあっけないな。」
「いえ、そう言うわけにもいかないでしょう。あの軍を率いているのは、札幌官軍三将の筆頭である土方なのですから。」
「土方は、そんなに凄い将軍なのか?」
「ええ。彼も私と同じく国連軍に在籍していたことがあるそうです。武術にも長けていて統率力も高い。侮ってはならぬ相手です。」
「なるほど。ではどうする?」
「リーダーならどうしますか?」
俺は迷わずこう答えた。
「龍二達を救出する!!」
こうしてAIM軍は、官軍の側面に総攻撃を展開。不意をつかれた官軍は、体勢を整える為に退却を始める。
しかし、然別火山群近辺がカネスケによって占領されていることを知り、更に奥地にあるウペペサンケ山まで退却を余儀なくされたのであった。
初戦で官軍に勝利を収めたAIM軍は、一部を帯広復興部隊として街へ派遣。残りの総勢13万は、官軍を追いかけて大雪山国立自然公園へと進軍した。
◇
大雪山を進軍する13万のAIM軍は、5つの部隊に分かれ、敵の拠点を並行して攻略する作戦にでた。
先生は、この作戦を『アリの巣崩し』と命名。アイヌ民族の土地勘と鍛え抜かれた精鋭兵があるからこそ可能な技である。
それぞれの部隊を率いる将は、俺、サク、龍二、イタクニップ、アイトゥレである。
イソンノアシは、先にウペペサンケの奥にある丸山に辿り着いた者には、恩賜を与えると言った条件を提示。負けず嫌いの俺たち5人は、こぞって官軍を追いかけた。
一方の札幌官軍は、体勢を戻す前に至る所から攻め立てられて敗走を続け、ついにはウペペサンケ山までも奪われることになった。
俺は、典一、そして長治とともに敵を追撃。他の4人よりも早くウペペサンケ山を下山。サクやイタクニップなど、アイヌ勢よりも迅速に行動したことは、配下の兵士から大変驚かれた。
だがこの異常な迅速性は、俺1人の力で成せた技ではない。先生のバックアップと、配下に置いたイカシリの土地勘もあっての結果である。
山を降りた俺の部隊は、そのまま丸山へと侵攻。ウペペサンケ山から敗走してきた兵隊により、パニックに陥る官軍の守備隊をことごとく殺戮。丸山の頂上に、AIMの軍旗を打ち立てた。
背後を振り返ると、サク隊、イタクニップ隊、アイトゥレ隊、そして龍二隊の順で次々と山を駆け上ってくるのが確認できた。
それを見た典一が大声で叫ぶ。
「遅いぞー!!我らがリーダーが一番だ!!」
「バカ。そんな大声出したら雪崩が起こるだろ。」
「も、申し訳ございません。」
典一が少しばかりしょげていた。
「こんな場所じゃなければ、俺も叫びたかった。」
それを聞いた彼は、なんだか嬉しそうであった。
しかしながら、喜ぶのはまだ早いようだ。丸山の前にそびえ立つニペソツ山には、体勢を立て直した札幌官軍が、堅牢な要塞を構築して待ち構えていたのである。
◇
3月の北海道大雪山。春の気配すら見せぬこの山地は、未だに極寒の真冬だ。ニペソツ山の官軍は、なかなか動く気配を見せず、1週間にも及ぶ両者の睨み合いが続いている。
そんな中で雪愛は、土方と綿密に連携を取りながら、先生を消す策略を少しずつ動かそうとしていた。
7日目の夜。先生が執務をしている天幕へ雪愛が訪れた。
「先生!遅くまでご苦労様です!!」
先生は、いつもの元気なテンションで入ってくる雪愛を笑顔で受け入れる。
「雪愛ですか。こんな真夜中にどうしましたか。」
「うーん、先生とゆっくり話したことないなーって思いまして。訪ねちゃいました!」
「ははははは。そうでしたか。確かに2人で語り合ったことはないかもしれませんね。」
「良ければ話しませんか?」
「良いでしょう。丁度仕事が片付いたところでした。」
雪愛の口角が一瞬上向いたかのようだったが、先生は特に気にすることはなかった。
「コーヒーは飲めますか?」
「微糖なら。」
すると先生は、炊きたてのコーヒーを美咲にご馳走した。
「すぐに飲めるように常備しているんですよ。」
「コーヒー好きなんですね。」
「ええ。思えば今日は、コーヒーしか飲んでません。」
「寝れるんですか?」
「寝ないつもりで仕事をしてました。」
「凄っっっ!」
「おかげでニペソツ山を落とす段取りも立てられました。」
「おお!では明日にでもって感じですか?」
「さあ...。」
「また勿体ぶって。」
「楽しみにしておいてください。」
そう言うと彼は、話題を横へとずらしてたわいもない昔話を語り出す。雪愛が何度か探りをいれるものの、先生は用心深いため、いっさい彼女の口車に乗せられることはなかった。
会話もお開きに近づいた頃だ。
「先生、後ろを向いてください。頭に埃がついてます。」
「これはこれは、仕事に没頭していたのでうっかりしてました。」
先生が後ろを向くと、雪愛はさらっと頭を払った。そして彼女はニッコリ笑う。
「少し休んだ方が良いですよ。」
「では、今宵は仮眠くらい取らせて頂きます。」
こうして会話は終わりを告げた。
雪愛は、コーヒーを飲み干して天幕を出る。それから、何かを摘んだ手をポケットから出して天にかざした。月の光に照らされた2本の糸の様な物が、風に揺られてゆらゆらと靡いている。
「任務完了...。」
それをチャック付きの小さい袋へと入れ、月明かりに照らされながら自らの天幕へと引き返す。彼女が去った後、薄い雲が夜空を覆っていくのだった。
◇
翌朝。雪愛は、スナイパー部隊のミーティングを終えて天幕に戻ろうとしていた。すると、天幕の近くで、猫と戯れる紗宙の姿があった。
彼女が猫に向かって何か話しかけている。その姿があまりにもほのぼのしていて、雪愛はつい見とれてしまっていた。
「こんな雪山に猫?」
紗宙がこちらを振り返る。猫は驚いて彼女の後ろへと身をひそめた。
「この子、帯広でたまたま見つけて仲良くなったの。司令部に預けてきたはずだったのについて来ちゃった見たい。」
「ははは。めっちゃ懐かれてんね。」
「そうなのかな。」
「そうだと思うよ。紗宙は人間だけでなく、動物からもモテるんだね。」
「またそうやって。そんなことないから。」
「えーそうかな。その子は絶対に紗宙のファンだよ。」
「だといいけどね。」
「動物は好きなん?」
「うん。特に猫が好き。雪愛は?」
「私は犬派かな。」
「そうなんだ。犬も可愛いよね。」
「そうなんだよ。実家で犬飼ってて、たまーに写真送られてくるよ。」
「えーいいなー。私の実家はマンションだったから、動物飼えなかった。だからよく野良猫と遊んでたよ。」
「意外だけど、想像できる。」
「雪愛の実家の犬は、なんて名前なの?」
「ペギー!」
「可愛い名前だね。ちなみにこの子はレオンって言うんだ。」
「紗宙が付けたの?」
「そうだよ。かっこよくない?」
紗宙は、レオンと名付けた猫の頭を撫でた。レオンも彼女に懐いている様で、嬉しそうに尾を振っている。
雪愛は、実家の愛犬ペギー以外の動物には興味が湧かなかった。しかし、紗宙とレオンがじゃれ合う姿を見て平和を感じ、これから自分が行おうとしている策謀に、少しばかり引け目を覚えていた。
「ねえ雪愛。戦争が終わったら、一緒に遊びに行きたいね。」
こちらの正体も知らず、そんなことを言ってくる紗宙。彼女に対して嘘をつき続けている自分に罪悪感を覚えるが、変に感情を出したら怪しまれてしまう。
「うん!行こうよ!どこにする?北海道?東京?」
「どっちもだよ。」
紗宙は、真っ白な言葉でそう言ってくれる。それに対して、濁った言葉しか返せない状況が辛かった。
「じゃあどっちも行こう!その為にも早く先へ進まないとね!」
そう言い残して、雪愛はそそくさとその場を去る。それから、ポケットに入れていた昨夜の押収物を握りしめ、揺れる気持ちを押し殺した。
『私は札幌官軍の将。与えられた役目は全うする。』
雪愛は、再び覚悟を決め、次なるステップへと手を染めていった。
(第五十二幕.完)