第四十四幕!崩れゆく街で

文字数 14,839文字

曇り空が天を覆う朝。灯恵は、紗宙に手紙を渡してから1人で買い物に出かけていた。頼まれていたパンを買って帰る予定だ。
北見市は、帯広に継ぐ道東地方の主要都市であり、そこそこひらけた街である。焼肉屋が多いことが有名で、そこら中から香ばしい誘惑の匂いが漂ってくる。彼女は、ふらりふらりと店の看板をチラ見しながら、誘惑に負けじとAIM寮まで向かって歩く。
目当てのパン屋は寮からそこそこ距離があり、行って帰って来るだけで一苦労だが、ずっと寮の中に居て身体が鈍っていたのでちょうど良い運動になった。
道中で大きな公園に差し掛かり、ここを横切れば寮への近道になりそうだ。公園には、座り心地の良さそうなベンチもある。彼女は、休憩とショートカットの両方の意味を込めて公園に入った。
公園は一面雪で覆われていて、木々には落ちた葉っぱの代わりに雪が乗っかっている。広場では、子供達が雪合戦をしたり雪だるまを作ったりしていて、まるで戦争なんてなかったかのような、かつての現実がそこにはあった。
彼女はベンチに座り込むと、自販機で買ったばかりのコンポタを頰に当てた。ずっと歩いていて身体は温まっているとはいえ、北国の風のせいで今だに指がかじかんでいた。
それから無邪気な子供たちを眺めながめていると、ふと自分の過去の光景が頭によぎってくる。





あれは6歳くらいだったのだろうか。その年は、異例の大雪が降った年だった。
普段は仕事で家にいない母親が珍しく家にいて、妹と3人で雪だるまを作りに近所の広場へ遊びに行った。父親がいない自分にとって、母とたまに関われる時間は数少ない楽しみだった。
それにどちらかと言えばインドアで、寒い冬なんて特に部屋にこもっては、親代わりといっても過言ではないネットやアニメに入り浸っていた。だから、冬に外出して家族と遊んだ記憶は、特に脳裏に焼き付いている。
10歳が終わりを迎えるあたりで、母親の再婚が決まる。相手はとても優しそうな男性で、よく一緒にテレビゲームをして遊んでもらった。しかし、一年後に母親とその継父は、何者かによって殺害される。友達と夕方まで遊んでから、帰宅した時の出来事だ。
あまりにも残酷な光景。そして、水たまりのような赤い液体から発せられた鉄の匂いは、強烈なものだった。妹は、この日たまたま親戚の家にいたため、この光景を見ることはなかった。それは今でも、唯一の救いだったのではないかと思っている。
それからすぐに警察に保護され、親戚の家に預けられた。継父の親戚の家は特に裕福な家庭ではなかった為、新しく家族が2人増えることに対して否定的だった。叔父と叔母は、灯恵が殺人現場の第一発見者であることを理由に虐待を加えてくる。彼女1人を攻撃することによって、当時反抗期であったという実の息子や娘の牙をこちらへ向けさせようと考えていたのだ。そして挙げ句の果てには、金のために彼女を教団へ売ろうと画策する。
ヒドゥラ教団は、当時勢力を拡大するために、子供の買取を積極的に行っていた。なぜ、彼らが子供に狙いを定めていたのかと言うと、幼い頃から洗脳をして教団への忠誠心が強い信者を作り上げる狙いがあったからだと言われている。それ故に子供たちは、高額な金銭と引き換えに買い取られていくのだ。
灯恵は、自分が売り飛ばされることを知った日の夜、実の妹に最後の別れを告げた。本当は妹も一緒に連れ出したかった。しかし彼女には、一緒に家出して妹を食わせていける自信がなかった。それに叔父と叔母は、灯恵とは対照的に妹のことを可愛がっていた。だから、この場に残しておいたほうが良いと判断したのだ。
でも、今では一緒に連れ出せばよかったと深く後悔している。
それから数日後。渋谷センター街の裏路地で、空腹のあまりに生き倒れになっているところを、結夏によって拾われた。
たまたま通りかかったのが結夏で、本当にツイていたと今でも思う。もしあれが、例の親戚夫婦のような邪悪な人間だったら、お金のために教団に売り飛ばされていたかもしれない。
それから約3年。決して長い年月とは言えないが、非常に濃い毎日だった。結夏の影響もあってなのか、性格も明るさを取り戻せて人への恐怖も和らぎ、少しは過去のトラウマと向き合えるようにはなった。
しかし、思い出すとやっぱり寂しさが溢れかえってくるのだ。





ボーッとしていると、公園の隅っこで1人で泣いている4歳くらいの少女がいた。灯恵は、ベンチを立つと、少女のそばへ寄り添う。そして彼女に声をかけると、少女は今にも泣き出しそうな声で言う。


「せっかくつくったのに...。」


彼女の目の前には、崩された雪だるまが無残な姿を晒している。そして、ケラケラと笑う意地悪そうな少年たちが、遠くからこちらを見ていた。少女は悔しそうに涙を浮かべる。
灯恵は、彼女の背中を優しくさすってあげた。すると、灯恵の背中に雪玉が飛んでくる。振り返ると、少年たちがこっちを指差してガッツポーズしていた。
少女は、怯えた顔で彼らのことを見つめている。灯恵は立ち上がると、少年たちめがけて雪玉を投げた。その雪玉は、上手く少年たちにヒット。少年軍団VS一恵の雪合戦は、灯恵の圧勝に終わる。彼らが、悔しそうな顔をしながら去っていくと、彼女は再び女の子と向き合う。


「もう大丈夫だからね。」


少女は、目を擦りながら言う。


「おねえちゃんありがとう。」


すると、少女は持っていた石ころをお礼に差し出した。灯恵は、その何の変哲も無い石ころをありがたく受け取る。


「ねえ、1人で雪だるま作ってたの?」


「うん。ママはいそがしくてあそんでくれないから。それにパパは家からいなくなっちゃったの。だからいつも1人であそんでるの。」


それを聞いた灯恵は、自分の過去とその子の面影が重なって見えたのだった。


「わかった。じゃあ一緒に遊ぼうか!」


すると、少女はすごく嬉しそうにはしゃいだ。
2人は一緒に雪だるまを作って遊ぶことになり、しばらくして3体の雪だるまが完成。
少女は、灯恵に尋ねる。


「これだれだとおもう?」


「えー誰だろー。」


すると少女は笑顔で言った。


「ママだよ。それでとなりがパパ。ちっちゃいのがわたしだよ!」


灯恵は、そんな無邪気な彼女の姿を見てささやかな感動を覚えていた。すると。彼女の母親らしき人物がこちらへやってくる。彼女は、少女を叱る。


「こんなところで遊んでたのね!家にいないから心配したじゃない!」


少女は母親の顔を見ると、目をウルウルさせる。


「だってママ遊んでくれないんだもん。」


「忙しいのわかるでしょ。余計な心配させないで。」


少女は不満そうに母親の顔を見ていた。その母親らしき人物は、困った表情をしながらも灯恵の顔を見る。


「うちの娘が迷惑かけて、本当に申し訳無いです。」


「気にしないでください。子供と遊ぶの好きなので。」


母親は、少女の方を振り返り彼女を抱きしめた。少女が雪だるまを指差してさっきの話をしてあげると、母親はとても嬉しそうな顔をしている。
灯恵は、その光景を微笑ましく眺めていた。それから少女は、母親に手を引かれながら公園を去っていく。
別れ際に、彼女は言った。


「おねえちゃんの名前なんていうの?」


「ともえ、だよ。」


「ともえおねえちゃん、あそんでくれてありがとう。」


灯恵は少女に手を振った。少女は手を振り返しながら言う。


「わたしは恋白(こはく)っていうの。またこんどあそぼうね!」


恋白という少女と母親は、西の方角へと姿を消した。灯恵はしばらくの間、雪だるまの前で立ち尽くして、自分の両親との思い出に浸っていた。





あと20分ほどで寮にたどり着ける場所へ差し掛かった時、少しずつ町の様子がおかしくなっていくことに気がつく。遥か西の方角から聞こえる、人々の悲鳴と銃撃音。周囲を歩いていた人々も、突如として巻き起こったこれらの事例に、驚きと恐怖を覚えていた。
近くにいたAIMの兵隊に事情を聞いて事実を知った時、生きた心地がしなかった。どうやら、紋別騎兵隊が突如西の平原に姿を現して、北見へ攻撃を開始したそうだ。彼らは、兵隊だろうが一般人だろうが、容赦なく殺害しながらこちらへ向かってきているという。
灯恵は、ふとさっきの親子のことが気がかりになるが、今はそれどころでは無い。彼女は全速力で寮までの道を突っ走る。
しかし、西から迫り来る悪魔たちの攻撃は凄まじい。上空から黒い何かが降り注いできたかと思うと、地上で破裂。爆風によって次々と人や車を吹き飛ばし、ビルすらも破壊し尽くしていく。
騎兵隊の目標地点は、おそらくAIM司令部と物資倉庫、そしてAIMの寮であろう。
灯恵は、大通りを避けて裏路地を進んだ。しかし、爆撃によって倒壊したコンクリートやガラスの破片が、雨のように降り注いでくる。路地を抜けて十字路へ差し掛かった時、目の前の家屋に砲弾が直撃。爆風と瓦礫によって吹き飛ばされ、意識はあったが腕や足にコンクリートや瓦礫が直撃して負傷。あまりの恐ろしさに涙すら出なかった。
今まで革命団と共に、様々な戦いに参加してきたが、戦場の表舞台へと足を運んだことはない。だからこそ、目の前で人や建物が滅びゆく光景があまりにも怖かった。
しかし、こんなところで震えている暇もない。痛みをこらえながら立ち上がると、また寮の方角をめがけて走り始める。街の至る所で火の手が上がり、振り返れば建物の下敷きになっている死体や、焼夷弾で焼かれた何かが転がっていく。そしてさらには、騎兵隊らしき馬のヒズメの音と軍用スノーモービルの爆音も聞こえてくる。
それだけではない、少しばかり離れたあたりで奇妙な雨も降り注いでいて、その雨が地上に落ちるとそこら辺から人々の悲痛な叫びが聞こえてくるのだ。
今度は大通りへ出た。そこは、騎兵隊という津波から逃げるように、人々が東へと流れていく光景があり、まるで河口に向かって流れゆく大河川である。中には恐怖のあまりに、前の歩行者を轢き殺してまで逃げようとする乗用車の姿もあった。
しかし、気持ちはわからなくもないのだ。なぜなら、逃げなければ殺されることは明らかだからだ。
以前、先生から紋別騎兵隊についての話を聞いたことがあった。彼らの隊長である北広島氷帝(きたひろしまひょうてい)という男は、『絶滅』というものを美学だと考えているようだ。これは、戦争の傷跡を後世に残さないように、戦いに関わった敵兵と一般市民を全員殺害するという考え方だ。
灯恵は気づかぬうちに、全身が汗で覆い尽くされている。まさか、この北国でこんなに汗を掻くとは思いもよらなかった。さっきの傷で張り裂けそうな足を抑え、人ごみをかき分けて寮までの道を進む。
あと少しで到達できる。しかし、現実は甘くはない。AIM寮の前には、すでに紋別騎兵隊の銃騎兵たちが到着してしまっていた。彼らは、寮の管理人や警備の衛兵をいとも簡単に銃殺。そして1人が、その死体を火炎放射器のようなもので焼いて灰に変えているところも見えた。
殺し方が徹底的である。
灯恵は物陰に体をひそめると、恐ろしさのあまりに腰を抜かして膝をついた。いくら度胸のある彼女でも、騎兵隊による殺戮の現場は恐怖でしかなかった。





寮の一室では、結夏と紗宙が灯恵の帰りを待っている。 不安を募らせる結夏は、そわそわしていてもたってもいられない。


「紗宙、やっぱり私が灯恵を探しに行く!」


紗宙は、焦る気持ちを抑えつつ、冷静に彼女を諭す。


「それはダメ。灯恵は携帯を持って行かなかったから、いざ行き違いになったら大変。今はここで、彼女が帰ってくるのを信じて待つしかない。」


「でも、ここで待ってても、結局奴らは攻めてくるじゃん!」


彼女の言う通りではあるが、灯恵の性格を考えると必ずここへ戻ってくるだろう。行き違いになってしまえば元も子もないのだ。


「いつも通りなら、10分もしたら戻ってくるはず。それでも戻ってこなければ探しに行こう。」


結夏は不安で押しつぶされそうである。紗宙もカーテンの隙間から外を眺めながら、震える手足を抑えていた。見慣れた雪国の町並みに火の手が上がり、いつの間にか地獄へと変貌していく。恐怖以外何者でもない。昨日まで暖かさに溢れていたこの部屋も、一瞬のうちに戦慄とかしていた。
それから2人は、しばらくじっと待っていたが、一向に灯恵は帰ってこない。
結夏は、痺れを切らす。


「行こう!もうこれ以上待てない!」


紗宙は黙って頷くと、もう一度外の様子を確認する。 街が少しずつ戦場に変わっていっているようだ。敵の砲撃によって、あらゆるところから噴煙と火の手が上がる。
だが、それ以上に恐ろしいものが彼女の目には飛び込んできた。AIM寮の目の前の通りに、迫ってくる紋別騎兵隊の姿があったのだ。十数人の銃騎兵たちは、馬を降りると家屋へ押し入り激しい銃声をあげた。どうやら市民を殺害しているようだ。


「外には出れない。」


後ろで準備をしていた結夏が苛立つ。


「は?なんで??」


だが、紗宙の顔が青ざめていくのを見て彼女も察したようだった。
結夏もカーテンの隙間から外の様子を見渡した。すると今度は、AIMの兵隊が縄で縛られてリンチを受けていた。挙げ句の果てには口に銃口をくわえさせられ、体内から貫かれる形で射殺されている。
さっきまでせかせかしていた結夏も全身が凍りついた。殺し方があまりにも非人道的すぎた。そして間も無く寮の入り口から途轍もない爆破音が響き渡る。2人はあまりの恐ろしさに膠着して、しばらくその場を動けなかった。入り口の方から騎兵隊の兵士たちの声が響いてくる。
それからもう一つ恐ろしかったのは、その数が徐々に増え続けていたことだ。騎兵隊にとってこの施設は、いわば敵兵の根城。どの部屋に兵士が潜んでいるかわからない上に、兵士となればとにかく殺さなくてはならない相手。
奴らも本気なのだ。
紗宙は、我を取り戻すと壁に耳を傾ける。この寮の壁は特に防音壁でもないので、耳を澄ませれば外の声を拾えなくもない。
結夏は、不安そうに尋ねる。


「ねえ、何か聞こえるの?」


紗宙は、冷静に答える。


「あいつらのリーダーらしき人物が到着したらしい。」


結夏は、その一言を聞いて美幌峠で対峙したあの男のことを思い出す。


「悔しいけど、もうダメかもしれない。」


すると紗宙が天井を指差した。


「そこの天井の板が外れるって知ってた?」


「知るわけないよ。」


「灯恵が見つけたんだけど、大人1人が隠れられるスペースがあるの。」 


彼女は結夏にそこへ隠れるよう促した。


「え、なに言ってるの?
それじゃあ紗宙が...。」


「私なら大丈夫。」


そう言った彼女の目は真剣で、死を覚悟しているようだ。


「そんなことできるわけない。紗宙を犠牲にしてまで、私は生きられない。」


すると、彼女の口調がきつくなる。


「血は繋がってなくても、灯恵のお母さんなんでしょ。私を置いて彼女の元へ行くべきだよ。」


結夏は黙って紗宙の顔を見つめた。彼女は、結夏を力強く見つめる。


「安心して。私は革命家『北生蒼』の彼女。あんな奴らに殺されるほど、ヤワな女じゃないから。」


そういうと彼女は、結夏の肩を手で軽く押す。彼女を何度も説得しようと試みるが、頑として意見を変えようとしない。結夏は、苦し紛れにごめんねと言い残すと机によじ登り天井裏へと隠れた。
紗宙は、天井の板が確実に閉まったことを見届けると、震える気持ちを押し殺して、ベットの横のカバンから一丁の拳銃を取り出した。





AIM寮に到着した神威と寿言は、配下の騎兵隊兵士と共に中へ侵入を開始した。隊長である北広島氷帝が参戦したことで、軍の統率は彼に任せることができる。神威と寿言は、思うがままに殺戮を楽しめるというわけだ。
寿言は、ワクワクして胸が踊る。


「どこから敵が出てくるかわからない緊迫感。気分はまるで池田屋事件だねえ兄貴。」


神威は、弟のよくわからない例えを軽く受け流す。


「そんなことよりも、とっとと片付けて町の女で遊びてえもんだ。」


寿言は、流されたことに気分を害することなく、自らの欲望を赤裸々に語る。


「敵兵の嫁とか回せたら気分爽快だねえ。」


神威は大笑いした。


「フハハハハ、たまんねえなそれ。」


2人を筆頭にした騎兵隊は、次々と部屋の扉を開けていく。ここに残っているのは、非番の兵士と負傷した兵士。それから、紗宙たちのようなAIMの関係者である。
廊下を進むと、まだ戦える兵士が飛び出してきて、拳銃やナイフなんかで襲いかかってくる。しかし、神威はそれをやすやすと受け止めると、まるで豆腐を踏み潰すかのごとく殺していった。
そして、2階の一番奥の部屋にたどり着くのである。その部屋は扉が閉まっている。下の方から明かりがもれることもなく、中は真っ暗なのだろう。


「兄貴、誰もいないのかねえ?」


神威は配下の兵隊に命じる。


「おい、やれ!」


配下の兵士は、思い切り扉を蹴り開けた。するとそこには、銃を構えた紗宙が仁王立ちしていた。
騎兵隊の兵士は、びっくりして膠着する。
すると、待ち伏せていた紗宙は、まるで恐怖を押し殺すかの如く食いしばった声で叫ぶ。


「こっちへきたら殺す!早くこの場から立ち去って!!」


兵士は銃を構えるのが出遅れて、動けば撃たれるといった状況だ。すると神威が、その兵士を有無を言わさずに撃ち殺した。


「任務、大失敗だな。」


紗宙は、その銃音に驚いて少しばかり怯む。これを神威が計算していないわけがない。彼はすかさず部屋へ入ると、逆に彼女へ銃口を突きつける。


「お前ごときに殺されるほど、俺たち騎兵隊は甘くねえよ。」


紗宙は、そのあまりに威圧的な雰囲気の前で屈せずに銃を構える。


「同士討ちくらい、覚悟してるわ。」


かつて蒼は、死ぬ覚悟でヒドゥラ教団のアジトから助け出してくれた。だから彼女も命をかけて結夏を守ると心に誓っていた。
それを見た神威は、汚い笑みを浮かべる。


「面白い女だが俺のタイプじゃねえ。さあ寿言、どうしようか?」


寿言は扉から顔を出すと目を見開く。


「え、めっちゃ美人。犯したいぞ兄貴。俺がめちゃくちゃにしてやりたいぞ。」


神威は高らかに笑う。


「ハハハハハ。というわけだ女。お前はこれから、この偉大な俺の弟の遊び道具になるのだ。」


紗宙は、不快な顔で2人を見つめる。


「ふざけないでよ!これ以上近づいたら本当に撃つ!」


神威は、そんな彼女の言葉を無視して近づいていく。


「まあそんなこと言わずに俺たちと遊ぼうぜ。どうせ人なんて殺したことないんだろ?あ??」


神威は、彼女の拳銃に手を伸ばした。
紗宙は、震える腕を必死で抑えて、最後の力を振り絞って引き金を引く。室内に真っ直ぐな銃声が鳴り響き、寿言は唖然としていた。
しかし、神威はほくそ笑みながら、気味の悪い笑い顔を浮かべていた。


「ふー危なかったぜ。俺が紋別騎兵隊じゃなかったら即死してたわ。」


銃弾は確かに彼の心臓部にクリンヒットしていた。しかし、彼含む紋別騎兵隊が着ている鎧は、銃弾を通さない特殊な作りをしていて貫通をさせることができない。紗宙は、もはや燃え尽きたように呆然と立ち尽くしていた。
神威はゆっくりと体勢を整えてから、彼女の拳銃を奪い取る。そして、思い切りビンタしてベットへ倒れこませると銃口を向け返した。


「寿言、こいつに死ぬこと以上の恐ろしさを教え込んでやれ。そして最後にはちゃんと殺してやれよ。」


寿言は、飛び跳ねるように彼女へと接近する。しかし、あることに気づいた1人の騎兵隊兵士が神威に言う。


「副隊長待ってください。この女、例の革命団のメンバーではありませんか??」


神威は、寿言にストップをかけさせる。そして紗宙の顔を凝視した。


「おお、まさにその通りだ。あの忌々しい小伏竜が所属する、青の革命団とやらの女ではないか。」


寿言は、指をくわえながら言う。


「だからなんなの?
俺は早くスッキリしたいぞ。」


欲に忠実な弟に対して神威は語る。


「バーカ。一時の欲に振り回されるほど愚かなことはない。青の革命団と言ったら、日本政府が数千万の懸賞金をかけてでも、捕まえたいと考えているテロ集団だ。売り飛ばせば膨大な利益につながる。そしたらその金で、お前の大好きなギャルを、何人もススキノのソープで買ってくることができる。」


寿言は、さっきと手のひらを返したようにニヤニヤしていた。


「それに青の革命団には、官軍にとって目の上のコブでもある、諸葛真が所属する団体でもある。こいつを人質にして諸葛真を言いなりにできれば、官軍の勝利は間違いない。そして俺たち騎兵隊の評価も飛躍的に伸びる。つまりはこの女は、汚しすぎるとデメリットが多いってことだ。」


俯きながら身体を震わせている紗宙を目の前に、寿言は痛ぶりたい欲求を堪えている。


「だからさっきの発言は撤回だ。しかし...。」


寿言は、その続きの言葉を息を飲んで待った。神威は、気持ち悪い憎悪に満ちた顔をする。


「俺の目はそう誤魔化せないぞ。袖ノ海紗宙。」


彼は、ベットに落ちていたオレンジの長い髪の毛をつまんだ。そして、彼女の目の前に突き出す。


「隠れているんだろ。女がもう1人。」


紗宙は、動揺を隠すかのように真顔で答える。


「残念だけど、昨日出て行ったわ。」


神威は髪の毛の匂いを嗅ぐと気持ち悪い笑みを浮かべる。そして、紗宙の頰を硬い腕で握りつけた。
紗宙が苦痛の顔を浮かべると、寿言はウハウハ笑っている。
神威は彼女へ追求する。


「この透き通った甘い香り、まだそんなに時間が経ってないなあ。どこに隠れてるんだ?」


紗宙は、泣きそうになるのをグッとこらえて平常心を保っていた。
すると神威は寿言に命令する。


「こいつの首を電気コードで締めろ。死なない程度にな。」


寿言は、待ってましたとばかりに電気コードを持ってきて、紗宙の首を絞めて気を失う寸前で止めて、また繰り返すと言う拷問を繰り広げた。
紗宙の苦痛の声は部屋中に響き渡る。もちろん天井裏にも。
寿言は、拷問を楽しみながら言う。


「こいつが苦しんでる声を聞いても出てこないとなると、本当にいないのか、仲間を見捨てるクソ野郎なのかのどっちかだね。」


「ふっ、あの女は出てくるはずだ。それとも...。」


神威は、紗宙の悶え苦しむ声をBGMにしばらく室内を見渡した。それから窓の方を見て一瞬ニヤけると寿言に拷問をやめさせる。
それから、紗宙の首を今一度コードで絞めて気を失わせると、寿言に彼女を担がせて部屋から出て行かせた。
そして一言つぶやく。


「結夏、必ずお前を俺の玩具にしてやる。楽しみにしておけよ。」


そう言って、彼も部屋を後にした。
誰もいなくなった一室の天井裏。結夏は、1人大粒の悔し涙を流した。





足の震えが収まらず、なかなかうまく立ち上がることができない。灯恵は、寮の近くの建物の陰で、1人座り込んでいた。
動けば見つかって、どんな殺され方をするのだろうか。考えたくもないものが頭の中を駆け巡る。
それにしても、これからどうすれば良いのだろうか。寮の中にはまだ2人はいるのだろうか。いるとすればそこに向かうべきなのだろうか。向かったところで殺されるだけなのではないか。
悩んでいる間に、騎兵隊の兵士の足音が近づいてくる。 彼女は、ありったけの力で立ち上がると、ゴミステーションの中に身を潜めてやり過ごした。
早く逃げないとまずい事は分かっている。だけど、2人のところへ行かないと、見捨てたような気がして心の収まりが効かない。
しばらくしてから、彼女はもう一度建物の陰から寮の様子を確認した。すると、騎兵隊の姿が見当たらない。これはチャンスかも、そう思った彼女は周囲に注意を配りながら寮へと近づいた。
あたりは静まり返っていて、見渡す限り瓦礫と人の死体ばかりだ。
死体をまじまじと見ていると、両親が殺された日の夜を思い出してしまい気分が悪くなった。
灯恵が、破壊された入り口から寮の中へと入ると、顔面を串刺しにされた管理人の男性の死体が掲示物のように壁に貼り付けられている。まるで、戻ってくる誰かへの見せしめのごとく。
もうここには、現実という何かが存在しないようだ。
彼女は、悪夢の中を彷徨うように紗宙がいるはずの部屋の前までたどり着く。しかしそこで見た光景は、銃で撃ち抜かれた騎兵隊隊員であった。紗宙と結夏は、上手く逃げ出したのだろうか。死体をまたいで部屋へ入る。
部屋の中は散乱していて、ベットの上で誰かが争った形跡と血の跡が残っていた。あまりの戦慄した雰囲気に気を失いそうになるが、ここで倒れるわけにはいかない。彼女は目を凝らして部屋をくまなく見渡した。
もしかしたら、2人がどこかに身を潜めてるとも考えられたからだ。
キョロキョロしている時、天井の板が外れているのが目に入った。それと窓の鍵が開いていることも判明する。
2人はもしかしたら、脱出に成功したのかもしれない。しかし結夏のことである。きっと町のどこかで、私のことを探しているに違いない。
彼女は窓を開けて外を見渡す。そして、結夏たちが脱出したであろうルートで寮から外へ出た。
表の通りに出て、騎兵隊がいないのを確認しながら、結夏が探しそうな場所を考えて歩き出すが、そう簡単には行くはずがない。どうやら、気づかぬ場所から見られていたようだ。
騎兵隊の奴らの声が聞こえてくる。


「ガキが寮から出てきたぞ。血祭りに上げろ!!」


すると、3騎ほどの槍騎兵が後方から迫ってくる。彼女は精一杯走るが、もちろん逃げ切れるはずもない。すぐに槍騎兵に取り囲まれてしまった。
槍騎兵たちは、何か液体のようなものが塗りたくられた鋭い刃を持つ槍を彼女に向けた。


「小娘、残念だったな。」


もう終わった。これ以上何をやっても無駄だろう。そう思った彼女は、声を張って叫んだ。


「結夏、助けて!!!」


槍騎兵たちは、容赦無く槍を振りかざす。そして勢いよく、三方向から彼女めがけて槍を突き出そうとした。
死んだ。そう思った束の間であった。騎兵の1人が、首から血が吹き出して馬から転落した。それに動揺した2人は、槍を引っ込めて周囲を確認する。
灯恵は、初めは一体何が起きたのかわからなかったが、死んだ騎兵の首を見ると見覚えのある投げナイフが喉に突き刺さっていた。
彼女が放心状態でそのナイフを見つめていると、1人の女性がこちらへ走ってきて手を握るとまた走り出す。灯恵も引っ張られるように走った。
彼女の方を見上げると、長身でオレンジ色のロングヘアー。
まさしく結夏であった。


「あ、ありがとう。」


「とにかく走って!!」


残った騎兵たちは、我に帰るとこちらへ追撃を仕掛けてくる。結夏は、馬が通り抜けられないような路地を見つけ出すと素早くその中へ灯恵を連れ込み、回り込まれる前になんとか距離を離そうと路地を一気にかけ抜ける。
それから大通りを横断。大通りでは、騎兵隊砲兵部隊がビルに砲撃をして、中に隠れてる一般人を殺戮しているところであった。
結夏は、上手い具合に彼らの視線をかわして次なる路地へと足を進める。灯恵は足が早い方ではあるが結夏は更に足が早い。ついていくのに精一杯で、一時的に先の惨劇を忘れることができた。





とある広場まで来ると結夏は足を止めた。いくら運動神経が良くて体力があっても、限界というものが存在する。
彼女は灯恵を引っ張ると、噴水の陰に隠れるように座り込んだ。
そして、灯恵を抱きしめる。


「心配しないで...。もう、大丈夫だから。」


噴水がまるで自分たちを包み隠すかのように音を立てている。
灯恵は、ここが現実なのか夢なのかまたわからなくなり、頭の中がむちゃくちゃに乱れた。だが、身体に熱く触れている結夏の体温だけは確かに本物のようだ。


「怖かった。」


いつもなら絶対に発することのない弱音をついつい吐いてしまう。結夏は、さらに強く彼女を抱きしめると涙ぐんでいた。灯恵も緊張が解けて涙が溢れだし、 気持ちが落ち着くまでの間はそのまま義理の母の体温に浸っていた。
結夏は、ずっと怪我の様子とか騎兵隊に何かされてないかとか聞いてくる。だけど灯恵は、彼女を不安にさせないためにも、怖い風景のこととか爆風で死にかけたことは何も話さなかった。
そんなやりとりが済んだ後で灯恵は尋ねる。


「ねえ、紗宙は??」


結夏の顔が暗くなっていく。


「え、なんだよ。何かあったの?」


すると結夏は重い口を開く。


「紋別騎兵隊に連れさらわれた...。私を...守るために...。」


灯恵は愕然して、無力で何もできないことに悔しさがこみ上げてくる。結夏も悔しそうに拳を握りしめていた。


「騎兵隊は、紗宙を日本政府に売却して金にすると言ってた。殺されることはないと思うけど、何をされるかわからない。早くこのことを蒼たちに伝えないと。」


灯恵は、ため息混じりにボヤく。


「私たちだけじゃ、何もできないのが悔しいよ。」


結夏は、少しヤケになっていた。


「そんなことはわかってる。私だって悔しい。でも今はとにかくこの街を出て、蒼たちの元へどう戻るかを考えないと。」


灯恵は、寮があった方角を悔しそうに睨んだ。


「そうだね。とにかく、網走へ向かわないと何も始まらない。」


立ち上がろうとしたが、どうやらアドレナリンが落ち着いてしまったようだ。足の傷が急に痛み出した。歯を食いしばって堪えているが、痛すぎて足がふらついてしまう。結夏は、急いでカバンから傷薬と包帯を出すと、応急措置をしてくれた。


「いつもそんなの持ち歩いてたっけ?」


「部屋から逃げ出す時に、紗宙のカバンの中から持ってきたの。」


そういえば紗宙は、いつもそういうグッズをカバンに入れていた気がした。
結夏は、慣れてないのに手際が良く、すぐに措置は終わった。痛みが少し和らいだとはいえ、まだ痛いことに変わりはないが、ここにいてもむざむざと殺されるだけである。結夏は、周囲を確認してから手招きをする。どうやら、広場には騎兵隊の姿がないようだ。
灯恵は、結夏についていくように広場を抜けた。しかし彼女たちは、すでに騎兵隊によってマークされていたのである。





しばらく走っていると、オニオン道路というでかい通りに出た。この道の先には大きな橋がかかっていて、それを超えれば森林地帯に逃げ込むこともできる。しかし、この大きな橋には身を潜められる場所もない。もし見つかれば、この直線道路において騎兵から逃げ切れるわけがない。それに両サイドは凍てつく冬の川だ。飛び込んで逃げようにも水中で凍え死ぬだけである。
結夏は灯恵に言う。


「ここからは隠れる場所は何もない。大変だけどとにかく走って。」


灯恵がコクリと頷くと、2人は騎兵隊がいない隙を見計らって全速力で走り出した。
それから運が良かったのだろうか。何事もなかったように橋の途中まで進むことができた。だが、一瞬でも気を抜けば敵に見つけられてしまう。何と言っても橋は周りに高い建物がないから人が通ると異様に目立つ。休む時、2人は橋の柵に隠れるようにしゃがみ込んだ。
そして、何十秒か休むとまた全力で橋を駆け抜ける。途中、灯恵が凍った雪によって転倒したが、腕の打撲程度でなんと済んだ。
ようやく反対側の岸まで到達して一安心できると思っていたけど、どうやら甘かったようである。 対岸には、騎兵隊の銃騎兵が10騎待機していて、町から逃げ出そうとする人間をことごとく地獄へ送っていた。死体は川へ投げ捨てられ、無念の表情を浮かべながら底へ沈んでいく。
結夏は、その騎兵を率いているのが神威だと気がついた時、絶望のあまりにその場で足を止めてしまう。そして、自分たちは最初から彼の手の中を泳がされていたことに気づいた。
すでに時は遅い。
神威は、こちらへ向かってきた2人の姿を確認すると、ニヤリと笑みを浮かべながら近づいてくる。結夏は、恐怖のあまりに身体が動かない。


「来ると思ってたぞ。市ヶ谷結夏。」


結夏は、神威を嫌悪感の溢れた顔で見つめると、持ち前の勝気な性格で恐怖を押し殺ろす。


「そこ、退いてくれる?」


神威は、結夏を舐め回すように見る。


「ああ退いてやるさ。お前を俺の物にして、そのガキを血祭りに上げてからな。」


灯恵は、結夏の影に隠れながら神威を睨む。
神威は唾を吐き捨てる。


「ガキのくせに、この俺にそんな眼差しを向けるあたり気に入らねえ。」


彼は所持していたライフル銃を彼女に向ける。灯恵はそれでもなお、彼のことを睨んだ。
すると結夏は、灯恵を庇うように前へ出た。


「お願い。この子の命だけは見逃して。」


騎兵隊は鬼畜のような集団だ。そんなことを言っても、無理なことは誰もがわかっている。しかし、結夏はダメ元でも神威に頭を下げた。
神威はニヤける。


「それが人に物を頼む態度か??」


結夏は、神威が気持ち悪い顔をしながらこちらを舐め回すように見ていることはわかっていた。しかし、義娘の為である。神威の目をまっすぐ見つめると、潔く土下座をした。


「お願い。この子にだけは、手を出さないで。」


土下座する彼女に対して灯恵は言う。


「ねえ、やめてよ!そんなことしないでよ!結夏!」


しかし、結夏はやめなかった。神威の部下たちが、その光景を見てヒソヒソと指をさしながらあざ笑っている。灯恵は、屈辱的すぎる光景に怒りが抑えられず、敵を怒鳴りつけようとしたが結夏に止められた。
それを神威が、バカにした目つきで見てくる。


「おいガキ。言いたいことあるんなら、言ったほうがいいぞ。そうしたらこいつらがすぐに楽にしてくれるからなあ。」


反撃のできない彼女を神威は煽った。
このままでは灯恵が殺される。結夏がそう思った時、神威は言う。


「おい結夏。あと一回でもこのガキが気に食わない行動取れば殺すぜ。」


結夏の頭の中は真っ白になる。そして、何度も何度も雪と氷で覆われた冷たい地面に頭を擦り付けて懇願した。足も腕も低温火傷したかのように痛い。
神威は馬から降りると、結夏の目の前に立ち尽くす。
灯恵は、神威が何かをしようとしていることは明白なので、彼に向かって体当たりをしようとしたが、結夏にそれを止められた。


「来ちゃだめ!何もしないでそこにいて!」


神威は、ニヤつきながら結夏を見る。


「バカなガキだなあ。そんなに殺して欲しいのか。」


結夏は、神威のズボンの裾を掴んで訴える。


「辞めて。本当にそれだけは辞めて。」


神威はさらに調子に乗る。


「それだけじゃ、誰にお願いしてるかわからねえ。それに忠誠心が見えて来ねえな。」


結夏は、悔しさに声を震わせる。


「あなたのためなら、どんなことだってする。だからどうか、灯恵の命だけは助けてあげて。」


神威は、必死にすがってくる結夏を見て大笑いしていた。
そして更に彼女を追い詰める。


「声が聞こえなかったなあ。本当は、そのガキのことなんて救う気ないんだろ?」


結夏は、神威に縋り付いて叫ぶ。


「お願いします。神威様に私の全てを捧げます。だから、だからその子だけは見逃して。」


灯恵は、手足の震えが収まりそうにもなかった。神威はしゃがみ込み、結夏の髪を鷲掴みにして揺さぶった。


「ちゃんと言えるじゃねえか。」


結夏は、悔しそうな顔で神威を睨んだ。神威は顔を近づけると、満足そうな顔で彼女を見つめる。 そして、部下に命じて結夏の所持品を全て川へと捨てさせた。もちろんナイフもだ。


「これでもう抵抗しないってわかったでしょ。早く灯恵を解放して。」


神威は不敵な笑みを浮かべる。


「仕方がない。10分だけ猶予を与えてやろう。」


「それどういうこと。灯恵は見逃すって...。」


「見逃すとは言ったが、殺さないとは言ってないぞ。」


灯恵はどうすることもできず、ただ呆然と目の前の光景を見ながら立ち尽くす。
結夏は一度俯いてから、顔を上げると灯恵を見る。


「早く逃げて!こいつらは本気であなたを殺そうとしている!」


「嫌だ!結夏を見捨てて逃げるなんて嫌だよ!!」


「聞いて!私のことなんてほっといて、早くこの北見の惨劇をAIMに伝えて。それが今のあなたの役目よ。」


「わかってるって。でも目の前で義母が囚われているのにそれを助けないなんてそんな...。」


神威が腕時計を見ながら言う。


「タイムリミットは始まっているぞ。」


結夏は声を張る。


「早く行って!私は大丈夫だから!それに、私たちを助けだせるのは灯恵しかいないの!」


彼女の必死な言葉に、これ以上返す言葉が出なかった。
今年で15歳になった自分はもう十分大人だ。いつまでも駄々をこねている訳にもいかない。必ず生きて彼女を助けだす。
結夏は、まるで心配するなと言わんばかりのキリッとした目でこちらを見ていた。


「わかったよ。絶対に助けを呼んでくるから。」


彼女は、騎兵隊の兵士たちの間を抜けて森へ向かって走り出す。ある程度進んだあたりで後ろを振り返ると、遠くで騎兵隊の銃騎兵が追撃しようと馬に乗り込んでいた。
灯恵は、悔し涙と恐怖からくる焦りをこらえながら、森に向かってかけて行った。







(第四十四幕.完)
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登場人物紹介

・北生 蒼(きたき そう)

本作シリーズの主人公であり、青の革命団のリーダー。

劣悪な家庭環境と冴えない人生から、社会に恨みを抱いている。

革命家に憧れて、この国を変えようと立ち上がる。

登場時は、大手商社の窓際族で、野心家の陰キャラサラリーマン。

深い闇を抱えており、猜疑心が強い。

自身や仲間を守るためになら手段を選ばず、敵に残忍な制裁を加えて仲間から咎められることも多い。

非常に癖のある性格の持ち主ではあるが、仲間に支えられながら成長していく。

仙台にて潜伏生活中に、恋心を抱いていた紗宙に告白。

無事に彼女と恋人関係になった。



・袖ノ海 紗宙(そでのうみ さら)

青の革命団メンバー。

蒼の地元の先輩であり、幼馴染でもある。

婚約者と別れたことがきっかけで、有名大学病院の医療事務を退社。

地元に戻ってコンビニでバイトをしていた。

頭も良くて普段はクールだが、弟や仲間思いの優しい性格。

絶世の美人で、とにかくモテる。

ある事件がきっかけで、蒼と共に旅をすることになる。

旅の途中でヒドゥラ教団に拉致監禁されるが、蒼たち青の革命団によって無事救出される。

そして蒼からの告白を受け入れ、彼とは恋人同士の関係になった。


・直江 鐘ノ助(なおえ かねのすけ)

青の革命団メンバー。

蒼の大学時代の親友で、愛称はカネスケ。

登場時は、大手商社の営業マン。

学生時代は、陰キャラグループに所属する陽キャラという謎の立ち位置。

テンションが高くノリが良い。

仕事が好きで、かつては出世コースにいたこともある。

プライベートではお調子者ではあるが、仕事になると本領を発揮するタイプ。

蒼の誘いに乗って、共に旅をすることになる。

結夏に好意を抱いており、典一とは恋のライバルである。


・諸葛 真(しょかつ しん)

青の革命団メンバー。

蒼が通っていた自己啓発セミナーの講師。

かつては国連軍の軍事顧問を務めていた天才。

蒼とカネスケに新しい国を作るべきだと提唱した人。

冷静でポジティブな性格。

どんな状況に陥っても、革命団に勝機をもたらす策を打ち出す。

蒼の説得により、共に旅をすることになる。

彼のおかげで今の革命団があると言っても良いくらい、その存在感と功績は大きい。

革命団のメンバーからは、先生と呼ばれ親しまれている。


・河北 典一(かほく てんいち)

青の革命団メンバー。

沼田の町で、格闘技の道場を開いていた格闘家。

ヒドゥラ教団の信者に殺されかけたところを蒼に助けられる。

それがきっかけで、青の革命団に入団。

自動車整備士の資格を持っている。

抜けているところもあるが、革命団1の腕っ節の持ち主。

忠誠心も強く、仲間思いで頼りになる存在でもある。

カネスケとは結夏を巡って争うことがあるが、喧嘩するほど仲が良いと言った関係である。


・市ヶ谷 結夏(いちがや ゆな)

青の革命団メンバー。

山形の美容院で働いていたギャル美容師。

勝気でハツラツとしているが、娘思いで感情的になることもある。

手先が器用で運動神経が良い。

灯恵の義理の母だが、どちらかといえば姉のような存在。

元は東京に住んでいたが、教団から命を狙われたことがきっかけで山形まで逃れる。

流姫乃と灯恵の救出作戦がきっかけで、革命団と行動を共にするようになる。

山寺の修行で投げナイフの技術を取得。持ち前のセンスを活かして、革命団の危機を何度も救った。

蒼や先生は、彼女のことを天才肌だと高評価している。

革命団のムードメーカー的存在でもある。


・市ヶ谷 灯恵(いちがや ともえ)

青の革命団メンバー。

結夏の義理の娘。

家出をして生き倒れになっていたところを結夏に助けられた。

15歳とは思えない度胸の持ち主。

コミュ力が高い。

少々やんちゃではあるが、芯の通った強い優しさも兼ね備えている。

秋田公国に拉致されたところ、革命団に助けれる。

それがきっかけで、共に行動することになる。

戦場では戦えないものの、交友関係を作ったりと、陰ながら革命団を支えている。

先生から才を認められ、彼の弟子のような存在になりつつもある。


・関戸 龍二(せきど りゅうじ)

青の革命団メンバー。

『奥州の龍』という異名で恐れられた伝説の不良。

達也に親族を人質に取られ、止むを得ず暴走天使に従っていた。

蒼と刃を交えた時、彼のことを認める。

革命団が達也から両親を救出してくれたことに恩を感じ、青の革命団への加入を決める。

寡黙で一見怖そうだが意外と真面目。

そして、人の話を親身になって聞ける優しさを兼ね備えている。

蒼にとって、カネスケと同等に真面目な相談ができる存在となる。

真冬の北海道でもバイクを乗り回すほどのバイク好き。


・酒々井 雪路 (しすい ゆきじ)

青の革命団メンバー。

かつては政治家を目指して、東京の大学で法律を学んでいたが、少数民族の為に戦いたいという思いから北海道へ渡り、AIMに参加する。

ツーリングが趣味で、それ故に機動部隊へと配属されてしまう。

だが、そこで龍二と出会い、彼の紹介で青の革命団へと加入。蒼や先生とともに、新国家の憲法作成することになった。



※第三十八幕から登場

・イカシリ

青の革命団メンバー。

AIM軍の腕利きのスナイパーで、アイヒカンの部隊に所属していた。

射撃の腕は一流で、雪愛(美咲)から密かにライバル視されている。

南富良野で蒼と一緒に戦った時、彼に才能を認められ、次第と行動を共にすることが多くなる。そしていつの間にか、蒼の配下のスナイパーとなり、彼の元で官軍と壮絶な銃撃戦を行う。

服が好きで、アイヌの伝統衣装を自分でアレンジして作った服を着こなしている。



※第三十六幕から登場

・間宮 恋白 (まみや こはく)

青の革命団メンバー。

麟太郎の娘で、年齢は4歳。

生まれたばかりの頃、麟太郎が官軍に捕えられてしまい、母子家庭で育つ。

紋別騎兵隊が街に侵攻した時、母親を殺され、更には自分も命を狙われるが、サクの手により助けられた。

それから灯恵の力により、北見の街を脱出して、一命を取り留める。

命の恩人でもある灯恵のことを慕っている。また彼女から実の妹のように可愛がられており、「こはきゅ」という愛称で呼ばれている。



※第四十四幕から登場

・間宮 麟太郎 (まみや りんたろう)

青の革命団メンバー。

恋白の父親で、元銀行員。

網走監獄に捕らえられていたが、AIMの手により助け出された。

娘が灯恵により助けられたことを知り、何か恩返しがしたいと青の革命団に参加する。

経済について詳しく、蒼からは次期経済担当大臣として、重宝されることになる。

また長治とは、監獄で共に生活していたので仲が良い。



※第五十一幕から登場

・許原 長治 (ゆるしはら ちょうじ)

青の革命団メンバー。

元力士。北海道を武者修行していた時、AIMに協力したことがきっかけで、網走監獄に捕らえられていた。

囚人達からの人望が熱く、彼らをまとめ上げる役を担っていた。

AIMに助けられた後は、青の革命団に興味を持ち、自ら志願する。

典一と互角にやりあうほど喧嘩が強く、蒼や先生からの期待は厚い。

監獄を共に生き抜いた間宮と、その娘の恋白とは仲が良い。



※第四十三幕から登場

・レオン

紗宙が飼っている茶白猫。

元は帯広市内にいた野良猫であったが、紗宙と出会い、彼女に懐いてAIM軍の軍用車に忍び込む。

大雪山のAIM陣で紗宙と再会して、彼女の飼い猫になった。



※第五十二幕から登場

・石井 重也 (いしい しげや)

青の革命団メンバーであり、日本の国会議員。

矢口宗介率いる野党最大の政党、平和の党の幹事長を勤めている。

党首である矢口から命を受け、用心棒の奥平とともに北海道へ渡航。先生の紹介で蒼と会い、革命団への加入を果たす。

政治に詳しい貴重な人材として重宝され。雪路とともに、新国家の憲法作成に携わっていくこととなる。

頑固で曲がったことが嫌いな熱い性格だが、子供には優しいので、恋白から慕われている。

元青の革命党の党員でもあり、革命家の江戸清太郎と親しい関係にあった為、革命家を志す蒼に強く共感していく。



※第五十四幕から登場

・奥平 睦夫 (おくだいら むつお)

青の革命団メンバー。

平和の党の幹事長である石井の用心棒として、共に北海道へ渡航。先生の紹介で蒼と会い、革命団への加入を果たす。

石井とは青の革命党時代からの知人で、かつて彼の事務所で勤務をしていた。その頃、江戸清太郎の演説を聞きに来ていた蒼にたまたま遭遇している。

普段は物静かだが、心の中に熱い思いを持った性格。



※第五十四幕から登場

羽幌 雪愛(はほろ ゆあ)

札幌官軍三将の豊泉美咲が、AIMに潜入する為の仮の姿。

青の革命団について調査する為に、蒼や先生に探りを入れたり、時には彼らの命を狙う。

その一方で、スナイパーとしてAIM側で戦に参戦。戦力として大いに貢献。紗宙や灯恵と仲良くなり、彼女らに銃の手解きをする。

また、その関わりの中で紗宙の優しさに触れ、スパイであることに後ろめたさも生まれてしまう。

性格はポジティブで明るいが、裏に冷酷さも兼ね備えている。



※第三十五幕から登場

・矢口 宗介 (やぐち そうすけ)

国会議員で、先生の旧友。

27歳の若さで初当選を果たし、33歳で野党最大の政党である平和の党の党首まで上り詰めた。

温厚で正義感が強く、日本国を腐敗させた神導党と激しく対立。神導党の後継団体であるヒドゥラ教団から、命を狙われている。

内からの力だけでは日本国を変えられないと判断して、旧友である先生が所属する革命団に未来を託すべく、石井と奥平を北海道へと派遣した。

蒼や先生にも負けず劣らずのロン毛が特徴。



※第五十四幕から登場

・イソンノアシ

AIMの首長であり、英雄シャクシャインの末裔。

サクの父親でもあり、温厚で息子思いの性格。それ故に、AIM軍や統治領域の民衆からの人望が厚い。

諸葛真が大学生の頃、遭難から救ったことがきっかけで、彼とは親友の仲になる。

サクの和人嫌いというトラウマを克服させる為に、彼を革命団の案内役に任命した。


・サク

イソンノアシの息子で、英雄シャクシャインの末裔。

毒舌で攻撃的な性格。

実行力と統率力、そして軍才があるので、AIM関係者からの人望が厚い。また父を尊敬していて、親子の関係は良好。

しかし、交戦的で容赦がないので、札幌官軍からはマークされている。

かつては、温厚かつ親しまれる毒舌キャラだったが、恋人を官軍に殺されたから変貌。和人を軽蔑して、見下すようになったという。

殺された恋人と瓜二つの紗宙へ、淡い好意を寄せる。



・ミナ

サクの元婚約者。

アイヌ民族の末裔で、自らの出自やアイヌの文化に誇りを持っており、北海道を愛していた。

2年前、裏切り者の手によってサクと共に捕らえられる。

そして、彼の目の前で、松前大坊に殺された。



※第三十三幕と第五十幕で登場

・ユワレ

サクの側近であり、幼馴染でもある。

正義感が強く、曲がったことが好きではない性格で、みんながサクを恐れて諌めようとしない中、唯一間違っていることは間違っていると言ってのける存在。

また忠義に熱く、蒼から何度も革命団への入団オファーを受けるが、全て断り続けている。



※第三十三幕から登場

・アイトゥレ

AIM幹部の筆頭格で、イソンノアシやサクの代わりに、軍の総大将を務めることも多々ある。

歴史ファンで、特に好きなのが戦国時代。お気に入りの武将は本多忠勝。

道東遠征で、共に戦うカネスケの才を見抜き、別働隊を任せるなど、彼に軍人としての経験をつませる。



※第三十八幕から登場

・京本 宗男(きょうもと むねお)

北海道知事であり、札幌官軍の代表。

日本政府の指示の元、北海道の平和を守る為に、AIMとの紛争に身を投じた。

政府に忠誠を尽くす一方で野心家でもあり、いつかは天下を取ろうと画策している。

それ故に、紛争を理由に軍備の増強を図る。

人の能力を的確に見抜き、公平な評価を下すことから、部下からの信頼は厚い。

公にはしていないがヒドゥラ教団の信者で、土龍金友のことを崇拝している。



※第三十二幕から登場

・土方 歳宗 (ひじかた とししゅう)

札幌官軍三将の筆頭で、身長190㎝超えの大男。

京本からの信頼も厚く、札幌官軍の総司令官の代理を務めることもある。

武術の達人で、国からも軍人として評価されており、一時期は先生と同じく国連軍に所属していた経験もある。

北海道の治安を守る為にAIMとの戦争で指揮を取るが、特にアイヌやAIMを憎んでいるわけではない。

部下からも慕われていて、特に美咲は彼のことを尊敬している。また彼女と同様に松前の残虐非道な行為をよく思ってはいない。



※第五十一幕から登場

・豊泉 美咲(とよいずみ みさき)

札幌官軍三将の1人。

セミロングの銀髪が特徴的なスナイパー。銃の腕前は、道内一と言われている。

性格はポジティブで、どんな相手にも気軽に話しかけられるコミュ力の持ち主。

京本からの指示を受け、青の革命団の実態調査の任務を引き受ける。

キレ者で冷酷な所もあるが、非道な行為を繰り返す同僚の松前を心底嫌っている。



※第三十ニ幕から登場

・松前 大坊(まつまえ だいぼう)

札幌官軍三将の1人。

人柄はさておき、能力を買われて三将の地位まで上り詰める。

サクの恋人を殺害した張本人。

類を見ない残忍性で、AIMおよびアイヌの人々を恐怖に陥れた。

再びAIM追討部隊の指揮官に任命され、AIMと革命団の前に立ち塞がる。



※第三十ニ幕から第五十幕まで登場

・エシャラ

イソンノアシの弟で、サクの叔父に当たる人物。

元AIMの幹部で、考え方の違いから、札幌官軍に内通して寝返る。

サクとミナを松前大坊へ引き渡し、ミナの殺害に少なからず加担した。

温厚だが、自分の信念を曲げない性格。

AIMをえりもへ追いやって以降は、松前の手先として帯広地域を統治していた。



※第三十三幕〜三十四幕で登場

・御堂尾 神威 (みどうお かむい)

紋別騎兵隊の副隊長。

日本最恐の軍隊と恐れられる騎兵隊の中でも、群を抜く武勇と統率力を誇る。

しかしその性格は、冷酷で自分勝手で俺様系。

人を恐怖で支配することに喜びを覚え、敵対した者は、1人残らず殺し、その家族や周りにいる者、全てを残忍な方法で殺害。

また、騎兵隊の支配地である紋別の町では、彼の気分次第で人が殺され、女が連れさらわれていた。

その残酷さは、松前大坊と匹敵するほど。

結夏に因縁があるのか、執拗に彼女のことを狙う。



※第四十一幕から登場


・御堂尾 寿言 (みどうお じゅごん)

神威の弟で、紋別騎兵隊の隊員。

兄と同じく残忍な性格。

兄弟揃って紋別の町にふんずりかえり、気分で町の人を殺したり、女性に乱暴なして過ごしている。

食べることが好きで、体重が100㎏を超えている大男。

兄の神威と違い、少し間抜けな所があるものの、他人を苦しめる遊びを考える天才。

大の女好き。



※第四十二幕から第四十八幕まで登場

・北広島 氷帝 (きたひろしま ひょうてい)

紋別騎兵隊の隊長で騎兵隊を最恐の殺戮集団に育て上げた男。

『絶滅主義』を掲げ、戦った相手の関係者全てをこの世から消すことを美学だと考えている。

松前大坊からの信頼も厚く、官軍での出世コースを狙っていた。



※第四十六幕から第四十九幕まで登場

・仁別 甚平 (にべつ じんべえ)

黒の系譜に選ばれた者の1人。

カニバリズムを率先して行い、雪山で焚き火をして遭難者を寄せ付け、殺害しては調理して食べる、という行為を繰り返している。

特に若い娘の肉を好んで食す。

リンに狂酔しており、彼女の興味を一心に浴びる蒼を殺そうと付け狙う。



※第四十二幕から登場

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