第五十八幕!片目消えても

文字数 7,442文字

北海道随一の軍事都市『旭川』。かつてこの街は、地方にある一介の観光都市に過ぎなかった。
しかし、十数年前に市政を巻き込んだ残忍な隠蔽事件が発覚。その一件から、この街の状況は一変。地域社会を裏から暗躍していたヤクザと公安による激しい抗争の舞台となった。
公安はヤクザ組織とそれに加担した行政を制圧。国家はこの街を特別警戒区域と認定。それにより警察本部、公安の支社が置かれることになった。
国は市の行政機関を解体して、新しい旭川市を作り直す為の法案を制定。そこから街は、政府主導で改革が推し進められてきた。
その結果、近代的なビルが立ち並ぶ近未来都市に発展。そこへ更に、自衛隊に変わり力をつけた札幌官軍が介入。治安維持を名目に、多くの官軍駐屯地及び訓練所が軒を連ねることになる。
これが、現在の政令指定軍事都市『旭川』になるまでの過程である。
この街を見渡せるオフィスビルの一室に官軍参謀室がある。土方と美咲は、そこで遠くに見える旭岳に悠々と群れをなす光を見ていた。


「諸葛真。恐ろしい男だ。」


土方の表情は、静かに悔しさを纏っていた。
彼は、元々寡黙な性格だが、大雪山から戻ってきて以来、より考え込むようになっていた。
美咲は、そんな彼の前で普段の調子を出す気にすらなれず、只々申し訳なさそうにしていた。


「私の失態が全てを狂わせてしまいました。本当に申し訳ございません。」


土方は、いつもの調子をだせない彼女に対し、静かに語りかける。


「お前は十分頑張ったよ。大雪山を奪われたのは俺の力不足でもある。」


「土方さん...。」


彼は深呼吸をする。おっとりとした目つきは、移りゆく時代の流れを寂しく見つめているようだ。


「次の戦いは、日本国の将来を左右する分岐点になるだろう。果たして奴らは、ただのテロリスト集団なのか、それとも新しい時代の風なのか。」


美咲も静かにボヤいた。


「見極めましょう。私たちが。」


土方は拳を握りしめる。その手は、国民を守る役目への思いと、軍人としてのプライドが滲み出ていた。


「必ず日本国を守り抜いて見せる。」


美咲は、再び旭岳を見ると、群れをなした光が眩く輝いていた。
争いたくないという思いを意地でも掻き消し、目を閉じて覚悟を決める。


『蒼、紗宙。決着を付けよう。』


彼女は心の中でそう呟いた。





極寒の大地に雲一つない晴天の日が訪れた。AIM軍総勢12万は、伊香牛近辺に集結。先生主導の元、大陣営を築きあげて官軍との決戦を待ち望んだ。
もう少しで旭川を攻略できる。参謀本部は、未来への期待で活気に満ち溢れていた。
各々の役割を簡単に並べると、先陣を切るのは龍二率いる機動部隊。それをサポートする係として、イタクニップ、アワアンクル、ウタリアンなどAIM軍の猛将達。左翼は、長治、典一。こちらの役目は、敵を側面から一挙に叩く、いわば戦闘のクロージング部隊と言って良いだろう。本陣周辺には、イカシリ率いるスナイパー部隊を配備。援護狙撃で、敵の勇猛な軍人を消すことが役目だ。本陣の守りは、カネスケ率いる守備隊が行う。
最後に俺とサクは、3万の兵を率いて右翼へ布陣。役割は、山や森の多く敵の勢力が気薄な右から、敵の防衛ラインを突破して旭川市街に攻め入ることだ。
俺は、自らの役割を全うできるのだろうか、という不安に晒されていた。ここに至るまでに様々な戦を経験してきたが、今回は規模が違う。敵は、札幌官軍筆頭の土方に率いられた15万の精鋭部隊。それに美咲など、敵に回すと恐ろしいスナイパーや兵隊が沢山いるわけだ。
いくら紋別騎兵隊を倒したからといって、官軍よりも経験値が豊富なわけではない。
焦りに駆られていると、隣に龍二が来た。彼は、この大決戦の先陣を任されたにも関わらず、いつも通りの落ち着いた表情をしていた。


「龍二、緊張しないのか?」


彼は、なんで緊張してるのと言った表情でこちらを向いた。


「全然しない。」


そんなの嘘だろ。そう思い聞き返す。


「怖くないのか?」


すると彼は、淡々と喋る。


「怖いけど、緊張している時間を勝つ為にどうするか考えることに使いたいだけだ。」


確かにその通りである。でも、溢れ出る緊張を抑え込むことは、並大抵のことではない。
彼の精神力の強さには、改めて感心させられてしまう。


「リーダーは、この戦い勝てると思うか?」


唐突に質問されたので、答えがパッと出てこない。しかし、勝てると明確に答えることができなければ、戦う前から負けを認めるようなものだ。
喉まで湧き上がった曖昧な言葉を捨て、勝てるという断定の言葉を口に出そうとする。
だが、龍二の方が早かった。


「俺は必ず勝てると思う。」


「先生がいるからそう思うのか?」


「いや、リーダーがいるから。」


予想外の答えに動揺してしまった。
俺が彼の立場なら、先生がいるから安心だと言っただろう。


「不意を突くような回答だな。」


すると彼は、当たり前かのように言う。


「そうか?」


「ああ。自分で言うのもアレだが、根拠がないのではないか。」


彼は、真面目に想いを語った。


「根拠はある。俺たち青の革命団は、リーダーの壮大な夢と野心を支えに頑張れているんだ。きっとみんなそう言うだろう。リーダーが夢を語るから、世間に背くような過酷な旅も乗り超えて来れたんだ。だから、リーダーがいてくれれば俺たちは負けることはない。そうだろリーダー。いや、蒼!!」


恥ずかしくなった。リーダーなのに、みんなを支える立場なのに、この壮絶な物語の言い出しっぺなのに、自分だけ恐怖に怯えてふさぎ込んでいたことが恥ずかしすぎた。
俺は、感謝の気持ちを伝えると、彼の目を真剣に見つめた。


「この戦、必ず勝てる!!」


すると彼は、その言葉を待っていたかのように微笑を浮かべた。


「思う存分暴れまわらせてもらう。」


そう言うと、彼は自分のポジションである、軍の先方へと向かっていった。
俺は、彼の活躍を祈りながら、なんとしてでも旭川を陥落させることを強く心に刻んだ。





激しい砲撃音が旭川の盆地に鳴り響く。龍二率いるAIM機動部隊が、官軍へロケットランチャーを撃ち込んだことで戦いの幕が開けた。
AIM機動部隊は、改良された最新の軍用スノーモービルにまたがり、様々な場面に特化した武器を所持している。さらには紋別騎兵隊との戦いや、美幌の戦いなど、数多くの戦いをくぐり抜けてきた戦闘のエキスパートばかりだ。その機動力と応用力は、まさしく第二の紋別騎兵隊と呼ばれても過言でないほどである。
官軍の前衛部隊は、一気に距離を詰めてくるAIM機動部隊を狙い撃ちしていくが、特殊装甲と強化防弾チョッキの前では大したことはない。
龍二は配下に命じて、そこら中から迫ってくる敵の歩兵を次々と殲滅させた。官軍の兵士は雪上移動に慣れているとはいえ、スノーモービルの前では全く勝ち目がない。官軍前衛部隊2万は、あっという間に壊滅してしまった。
だが、土方も黙ってはいない。龍二めがけて、官軍の名将たちが率いる複数の師団を突撃させた。
官軍の前衛第二陣の将軍達は、普通の銃が通じないと見るや、機関銃と火炎放射器、戦車を使って龍二に戦いを挑んだ。
流石のAIM機動部隊も、これらの兵器にはだいぶ苦戦してしまう。そこで龍二は、スノーモービルを大きく蛇行させながら敵に迫ると言う戦法に出る。これは小回りの効かない戦車、移動に負担がかかる機関銃、射程が短い火炎放射器に対抗して出した策である。
そして、敵を翻弄しながら、土方のいる本陣を目指して矢のごとく駆け抜ける。それを阻止するべく、多数の官軍兵士が彼を追いかけようとする。だが彼らは、龍二の背後から迫り来るAIMの猛将達に食い止められ、機動部隊を取り逃がすことになった。
龍二ら機動部隊が先陣をきる背後で、イタクニップ、アワアンクル、ウタリアン率いるAIMの猛将達が、官軍歩兵師団と壮絶な戦いを繰り広げていた。
激しい銃撃戦と突撃による近距離戦。まるで1分に1人の人が死んでるのではないかという勢いで、死体の山が形成されていく。官軍兵士もAIM軍兵士も、隣で友が次々と殺されていく中、お互い考え方は違えど北海道の平和を願って戦い続けた。
そこへ、龍二らを取り逃がした官軍戦車部隊が突っ込んでくる。イタクニップの部隊は、対戦車砲を使用して戦車部隊の撃滅を行なった。戦車が爆発する度に人が吹き飛び、瞬く間に雪原を赤く染め上げる。
AIMも官軍も絶対に勝ちを譲れない戦いなのだ。
左翼では、官軍の機動部隊と長治、典一率いるAIM軍が激しい銃撃戦を展開していた。典一も長治も銃撃戦が得意ではないので、接近戦に持ち込むにはどうすればよいのかを考えていた。
すると、長治の元に配属された奥平がある策を提案。それは、どさくさに紛れて地中に簡易型の地雷を埋め、その場から少しずつ退却。何事もないように進んできた敵を罠にはめ、混乱したところを近づいて迎撃すると言うものだ。
長治は、奥平を試したいといった思いもあり、その案を採用した。
結果として策は功を奏し、敵の機動部隊は次々に地雷を踏んで爆発。官軍のスノーモービルは尽く塵となる。唐突な地雷に戸惑う官軍は、ついつい注意を足元へと向けてしまう。
長治達は、その機を逃さずに突撃。官軍左翼に大損害を与えることに成功した。
一方の右翼は、比布辺りから北へと迂回して旭川市街地を目指す。その途中にある峠で、官軍右翼と銃撃戦に突入。土方は、こちらから旭川市街を攻められることを警戒していたのだろう。兵士の層が分厚くて、苦戦を強いられることになる。
しかし、この右翼にはサクがいる。彼は性格は捻くれているが、兵士からの人望は厚い。それ故に士気が下がることがなく、少しづつではあるが右翼を押し上げることに成功した。
俺もサクとともに先頭に立って戦い、これまでの戦闘で学んだことを遺憾なく発揮。多くの敵を討ち取ることに成功した。





決戦の火蓋が切られてから、既に5時間が経過していた。両軍のぶつかり合いは一向に止むことはなく、激しさを増していくばかりである。
当初はAIM軍が若干優勢であったものの、官軍も踏ん張りを見せて戦線が膠着。旭川に広がる盆地の至るところで、熾烈な戦いが展開される。
そんな中、軍の先陣に立つ龍二部隊は、官軍の猛攻を潜り抜け、ついに土方の待つ本陣付近まで兵を進めていた。
彼は、敵の本陣付近に着いたとき、そこに軍の新手が集結していたことを知り、肝を冷やした。
官軍は、道南地方や日本全土から駆けつけた増援部隊が、まるで底なし沼のごとく控えている。長期戦になれば、官軍が圧倒的に優位になってしまう。
そう考えた龍二は、大将である土方を何としても討ち、官軍の戦意を喪失させる以外方法が無いと考えた。そして、部下に援護を任せつつ、土方のいる本陣へと突撃。鉛玉と雪煙が吹き荒れる雪原をスノーモービルで一気に陣地まで駆け、塹壕の付近に少しだけこんもりした場所を発見した。
そこであることを思いつくと、アクセルをフル回転させてその部分めがけて突っ走る。そして勢いよくハンドルを引っ張ると、スノーモービルは天へと舞った。
まさかの行動に、塹壕を守っていた官軍兵士達は、龍二へと目が釘つけとなった。それは陣の中にいた土方も同じである。
しかし、彼は冷静を取り戻すと、ショットガンで天を舞うスノーモービルを撃ち抜いた。土方の放った銃弾は、スノーモービルのエンジンを貫く。そしてスノーモービルは、まるで手榴弾のごとく、天空で爆発して大破してしまった。AIMの兵士達が、龍二の名前を叫ぶ声が響き渡る。
それとは真逆に官軍の陣中では、龍二を討ち取った土方への歓声に包まれた。わずか数十秒の出来事で、戦いの風向きが大きく変わろうとしている。官軍兵士の士気が上がり、AIMの兵士達の嘆きが響き渡り始めた。
でも、一部の兵士達は気付き始めていた。土方の肩からポタリ、ポタリと落ちる血液と、目の前に立ち尽くす1つの陰に。
土方は、その影を呆然とガン見した。


「とんだサプライズだな...。」


その陰の主は叫んだ。


「青の革命団の関戸龍二だ!お前を討ち、この時代に風穴を開けてやる!!」


土方を守ろうと、彼の親衛隊が龍二を取り囲む。
しかし彼は、それらを静止した。そして龍二を見て笑みを浮かべる。


「面白い男だ。」


龍二は、腰から拳銃を抜き、天に向かって三発の空砲を放った。これはAIM軍の合図の1つで、自らの生存を意味している。
陣の外で響いていた自軍の嘆きが、一挙に歓声へと変わっていくのがわかった。
土方は、彼のことを見下す。


「一対多勢で来る気か?」


龍二は、冷たい目で土方を睨む。


「お前の手下達も、見ているだけじゃ退屈だろ。」


土方は乾き笑った。


「ははははは、お気遣い感謝する。」


龍二は、すかさず腰に手をかけた。


「いくぞ!」


拳銃を抜き、土方を狙い打つ。
土方は、それを交わしてショットガンで対抗。龍二は、小さなタイミングの差を見極め、土方へと接近。拳銃からドスに持ち替えて襲いかかった。


「白兵戦とは、古い戦い方だな。」


「俺は軍人でもなんでもない。ただの元ヤンだ。銃撃戦なんかより、喧嘩の方が性に合ってるんだよ。」


「面白い、受けて立とう!」


土方は、銃から銃剣へと武器を持ち替え、龍二に突きかかる。龍二は上手く払いのけながら、ドスで土方の腕を切りつけた。しかし、腕に鉄板を仕込んでいるのか、切り傷を負っていない。
龍二が一瞬だけ怯むと、土方の前蹴りが腹に直撃。あまりの破壊力に真後ろへと突き飛ばされる。そこをショットガンで狙い撃ちに遭い、血を撒き散らしながら地面に這いつくばった。
龍二は、強烈な激痛と体内に入った銃弾による違和感に耐えながら、目の前に立ち尽くす土方を見上げた。身長192センチも有り、ただでさえ大男の土方が、その数百倍大きい巨人のように見えた。
土方は、分厚い鉄を仕込んだ靴で、龍二の顔面を蹴り上げた。


「この程度か。あまりにも期待はずれだ。」


龍二の鼻はへし折れ、歯も数本砕け散った。頭蓋骨にはひびが入り、生きているだけでも困難な激痛が彼を襲う。


「邪魔だ。死ね。」


土方は、銃剣をかざし、龍二の心臓めがけて振り下ろす。龍二は、その突きを間一髪で交わすと、隠し持っていた拳銃で土方の脇を撃ち抜いた。


「ぐああああああああ!!」


土方の喚き声が響いた。
龍二は起き上がり、すかさずドスで土方の腹をぶっ刺そうとする。だが、思うようにはいかない。彼の腹部には、腕と同じように硬い鉄板のような防具がつけられていた。
ドスがひん曲がり、使い物にならなくなる。龍二が気を取られていると、土方の腹パンが直撃。まるで丸太で腹を突かれたような途轍もない圧迫感が全身を襲う。
しかし、この程度でうろたえていたら男じゃ無い。龍二は目を見開き、こっそりとメリケンを仕込んだ右手で、土方の顔面をぶん殴った。
土方は、鼻血を出しながら後ろへ下がろうとした。龍二はそれを追うように迫り、仕返しの隙を与えずに土方の顔面を何発も殴り続けた。土方も負けじと龍二を殴り返す。
2人はそこから数十分、お互いの顔面が変形しておかしくなるまで殴り合った。近くで見ていた土方の親衛隊は、2人が発しているあまりの覇気に怯え、小便を漏らす者まで現れた。
土方は、チャンスを見つけて龍二の首を掴む。そして彼の顔面を雪原に叩きつけた。龍二の骨がバキバキ砕け散る音が響く。
龍二も負けじと、折れたドスを使って土方の左手の甲をぶっ刺した。
共に相手を殺さんとしているので、容赦という概念が一切存在しない。この喧嘩の決着が、この戦争の行く末を左右する。そうお互いが思っている。
龍二は、既に全身の感覚が麻痺していた。土方に銃剣で腕を貫かれても、まるで注射に刺されたようにしか感じられなくなっていた。
銃剣が引き抜かれる。自分の血が見えた時に我に返り、痛みを思い出して苦痛に落ちる。龍二は死期を悟り、最後の意地を見せるべく、重たい身体に鞭を打った。
土方の懐に入り込み、顔面に向けて拳銃を向ける。
土方の顔が険しくなる。
龍二は生きる活力を全て捧げた。


「うおおおおおお!!」


放たれた銃弾は、土方の顔へは当たらなかったが、彼の首を掠ったことは明らかである。
彼の首からは、大量の血液が流れ出している。


『リーダー。やりきったぞ...。』


龍二は、土方が死んだものだと思った。なぜなら、銃の引き金を引いた段階で、意識がほとんどなかったからだ。
やっと終わった。これで北海道戦争が終わる。


「舐めるなクズが!!!!!」


大きな声が響く。顔面に突如として、今まで味わったことのない激痛が走った。


「ぐがぁ!!」


気分が悪すぎた。視界の左側から世界が消えた。
眩い現実が、右側から差し込んでくる。血だらけでふらふらの土方が、こちらを見下して勝ち誇った顔をしていた。
彼は、指をぐりぐりさせて、かき混ぜるように龍二を痛ぶった。龍二は、痛みを堪えながら土方の腕を掴み、自分の左目ごと引き抜いた。土方は龍二の手を振り払おうと抵抗する。
だが龍二は負けじとしがみ付き、目玉が持っていかれる前に、土方の指にがぶりついた。
土方は龍二に対して恐れを抱く。


「な、なんということだ...。」


龍二は、土方を片目で殺す。
そして語る。


「俺の目玉には、俺が見てきた思い出と経験が詰まってる。お前なんぞに渡してたまるか。」


そしてあろうことか、自分の目玉を飲み込んでしまった。それを見た土方は、その狂気に怯むのと同時に、気合の入り方の違いに感心していた。
しかし、彼も既に限界が来ているようで、動きにフラつきを隠しきれていない。
どちらが先に倒れるのか、根気勝負になりそうだ。
でも龍二は、使命に駆られる道を選ぶ。倒し込むように、もう動かない身体を前へと進め、土方との距離を詰める。そして、死にかけの土方に縋り付くような体勢で、彼を押し倒した。
土方も出血多量で意識がほぼない。彼は、龍二を押しのけたくともできなかった。龍二は土方に馬乗りになり、上がらない腕を上げる。その重さは、まるで100キロのバーベルをあげているようだ。
そして上げた腕の先についた、メリケン仕込みの拳を重力任せで振り落とした。ボヤける視界の中で、土方の顔が陥没しているのが薄らと見えた。
龍二は、無意識のうちに2発目を喰らわせようとする。もう既に腕は上がらないのに。
土方は、そんな龍二の姿を静かに見つめていた。時代の新しい風が吹き始めた。そう思いながら。



(第五十八幕.完)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・北生 蒼(きたき そう)

本作シリーズの主人公であり、青の革命団のリーダー。

劣悪な家庭環境と冴えない人生から、社会に恨みを抱いている。

革命家に憧れて、この国を変えようと立ち上がる。

登場時は、大手商社の窓際族で、野心家の陰キャラサラリーマン。

深い闇を抱えており、猜疑心が強い。

自身や仲間を守るためになら手段を選ばず、敵に残忍な制裁を加えて仲間から咎められることも多い。

非常に癖のある性格の持ち主ではあるが、仲間に支えられながら成長していく。

仙台にて潜伏生活中に、恋心を抱いていた紗宙に告白。

無事に彼女と恋人関係になった。



・袖ノ海 紗宙(そでのうみ さら)

青の革命団メンバー。

蒼の地元の先輩であり、幼馴染でもある。

婚約者と別れたことがきっかけで、有名大学病院の医療事務を退社。

地元に戻ってコンビニでバイトをしていた。

頭も良くて普段はクールだが、弟や仲間思いの優しい性格。

絶世の美人で、とにかくモテる。

ある事件がきっかけで、蒼と共に旅をすることになる。

旅の途中でヒドゥラ教団に拉致監禁されるが、蒼たち青の革命団によって無事救出される。

そして蒼からの告白を受け入れ、彼とは恋人同士の関係になった。


・直江 鐘ノ助(なおえ かねのすけ)

青の革命団メンバー。

蒼の大学時代の親友で、愛称はカネスケ。

登場時は、大手商社の営業マン。

学生時代は、陰キャラグループに所属する陽キャラという謎の立ち位置。

テンションが高くノリが良い。

仕事が好きで、かつては出世コースにいたこともある。

プライベートではお調子者ではあるが、仕事になると本領を発揮するタイプ。

蒼の誘いに乗って、共に旅をすることになる。

結夏に好意を抱いており、典一とは恋のライバルである。


・諸葛 真(しょかつ しん)

青の革命団メンバー。

蒼が通っていた自己啓発セミナーの講師。

かつては国連軍の軍事顧問を務めていた天才。

蒼とカネスケに新しい国を作るべきだと提唱した人。

冷静でポジティブな性格。

どんな状況に陥っても、革命団に勝機をもたらす策を打ち出す。

蒼の説得により、共に旅をすることになる。

彼のおかげで今の革命団があると言っても良いくらい、その存在感と功績は大きい。

革命団のメンバーからは、先生と呼ばれ親しまれている。


・河北 典一(かほく てんいち)

青の革命団メンバー。

沼田の町で、格闘技の道場を開いていた格闘家。

ヒドゥラ教団の信者に殺されかけたところを蒼に助けられる。

それがきっかけで、青の革命団に入団。

自動車整備士の資格を持っている。

抜けているところもあるが、革命団1の腕っ節の持ち主。

忠誠心も強く、仲間思いで頼りになる存在でもある。

カネスケとは結夏を巡って争うことがあるが、喧嘩するほど仲が良いと言った関係である。


・市ヶ谷 結夏(いちがや ゆな)

青の革命団メンバー。

山形の美容院で働いていたギャル美容師。

勝気でハツラツとしているが、娘思いで感情的になることもある。

手先が器用で運動神経が良い。

灯恵の義理の母だが、どちらかといえば姉のような存在。

元は東京に住んでいたが、教団から命を狙われたことがきっかけで山形まで逃れる。

流姫乃と灯恵の救出作戦がきっかけで、革命団と行動を共にするようになる。

山寺の修行で投げナイフの技術を取得。持ち前のセンスを活かして、革命団の危機を何度も救った。

蒼や先生は、彼女のことを天才肌だと高評価している。

革命団のムードメーカー的存在でもある。


・市ヶ谷 灯恵(いちがや ともえ)

青の革命団メンバー。

結夏の義理の娘。

家出をして生き倒れになっていたところを結夏に助けられた。

15歳とは思えない度胸の持ち主。

コミュ力が高い。

少々やんちゃではあるが、芯の通った強い優しさも兼ね備えている。

秋田公国に拉致されたところ、革命団に助けれる。

それがきっかけで、共に行動することになる。

戦場では戦えないものの、交友関係を作ったりと、陰ながら革命団を支えている。

先生から才を認められ、彼の弟子のような存在になりつつもある。


・関戸 龍二(せきど りゅうじ)

青の革命団メンバー。

『奥州の龍』という異名で恐れられた伝説の不良。

達也に親族を人質に取られ、止むを得ず暴走天使に従っていた。

蒼と刃を交えた時、彼のことを認める。

革命団が達也から両親を救出してくれたことに恩を感じ、青の革命団への加入を決める。

寡黙で一見怖そうだが意外と真面目。

そして、人の話を親身になって聞ける優しさを兼ね備えている。

蒼にとって、カネスケと同等に真面目な相談ができる存在となる。

真冬の北海道でもバイクを乗り回すほどのバイク好き。


・酒々井 雪路 (しすい ゆきじ)

青の革命団メンバー。

かつては政治家を目指して、東京の大学で法律を学んでいたが、少数民族の為に戦いたいという思いから北海道へ渡り、AIMに参加する。

ツーリングが趣味で、それ故に機動部隊へと配属されてしまう。

だが、そこで龍二と出会い、彼の紹介で青の革命団へと加入。蒼や先生とともに、新国家の憲法作成することになった。



※第三十八幕から登場

・イカシリ

青の革命団メンバー。

AIM軍の腕利きのスナイパーで、アイヒカンの部隊に所属していた。

射撃の腕は一流で、雪愛(美咲)から密かにライバル視されている。

南富良野で蒼と一緒に戦った時、彼に才能を認められ、次第と行動を共にすることが多くなる。そしていつの間にか、蒼の配下のスナイパーとなり、彼の元で官軍と壮絶な銃撃戦を行う。

服が好きで、アイヌの伝統衣装を自分でアレンジして作った服を着こなしている。



※第三十六幕から登場

・間宮 恋白 (まみや こはく)

青の革命団メンバー。

麟太郎の娘で、年齢は4歳。

生まれたばかりの頃、麟太郎が官軍に捕えられてしまい、母子家庭で育つ。

紋別騎兵隊が街に侵攻した時、母親を殺され、更には自分も命を狙われるが、サクの手により助けられた。

それから灯恵の力により、北見の街を脱出して、一命を取り留める。

命の恩人でもある灯恵のことを慕っている。また彼女から実の妹のように可愛がられており、「こはきゅ」という愛称で呼ばれている。



※第四十四幕から登場

・間宮 麟太郎 (まみや りんたろう)

青の革命団メンバー。

恋白の父親で、元銀行員。

網走監獄に捕らえられていたが、AIMの手により助け出された。

娘が灯恵により助けられたことを知り、何か恩返しがしたいと青の革命団に参加する。

経済について詳しく、蒼からは次期経済担当大臣として、重宝されることになる。

また長治とは、監獄で共に生活していたので仲が良い。



※第五十一幕から登場

・許原 長治 (ゆるしはら ちょうじ)

青の革命団メンバー。

元力士。北海道を武者修行していた時、AIMに協力したことがきっかけで、網走監獄に捕らえられていた。

囚人達からの人望が熱く、彼らをまとめ上げる役を担っていた。

AIMに助けられた後は、青の革命団に興味を持ち、自ら志願する。

典一と互角にやりあうほど喧嘩が強く、蒼や先生からの期待は厚い。

監獄を共に生き抜いた間宮と、その娘の恋白とは仲が良い。



※第四十三幕から登場

・レオン

紗宙が飼っている茶白猫。

元は帯広市内にいた野良猫であったが、紗宙と出会い、彼女に懐いてAIM軍の軍用車に忍び込む。

大雪山のAIM陣で紗宙と再会して、彼女の飼い猫になった。



※第五十二幕から登場

・石井 重也 (いしい しげや)

青の革命団メンバーであり、日本の国会議員。

矢口宗介率いる野党最大の政党、平和の党の幹事長を勤めている。

党首である矢口から命を受け、用心棒の奥平とともに北海道へ渡航。先生の紹介で蒼と会い、革命団への加入を果たす。

政治に詳しい貴重な人材として重宝され。雪路とともに、新国家の憲法作成に携わっていくこととなる。

頑固で曲がったことが嫌いな熱い性格だが、子供には優しいので、恋白から慕われている。

元青の革命党の党員でもあり、革命家の江戸清太郎と親しい関係にあった為、革命家を志す蒼に強く共感していく。



※第五十四幕から登場

・奥平 睦夫 (おくだいら むつお)

青の革命団メンバー。

平和の党の幹事長である石井の用心棒として、共に北海道へ渡航。先生の紹介で蒼と会い、革命団への加入を果たす。

石井とは青の革命党時代からの知人で、かつて彼の事務所で勤務をしていた。その頃、江戸清太郎の演説を聞きに来ていた蒼にたまたま遭遇している。

普段は物静かだが、心の中に熱い思いを持った性格。



※第五十四幕から登場

羽幌 雪愛(はほろ ゆあ)

札幌官軍三将の豊泉美咲が、AIMに潜入する為の仮の姿。

青の革命団について調査する為に、蒼や先生に探りを入れたり、時には彼らの命を狙う。

その一方で、スナイパーとしてAIM側で戦に参戦。戦力として大いに貢献。紗宙や灯恵と仲良くなり、彼女らに銃の手解きをする。

また、その関わりの中で紗宙の優しさに触れ、スパイであることに後ろめたさも生まれてしまう。

性格はポジティブで明るいが、裏に冷酷さも兼ね備えている。



※第三十五幕から登場

・矢口 宗介 (やぐち そうすけ)

国会議員で、先生の旧友。

27歳の若さで初当選を果たし、33歳で野党最大の政党である平和の党の党首まで上り詰めた。

温厚で正義感が強く、日本国を腐敗させた神導党と激しく対立。神導党の後継団体であるヒドゥラ教団から、命を狙われている。

内からの力だけでは日本国を変えられないと判断して、旧友である先生が所属する革命団に未来を託すべく、石井と奥平を北海道へと派遣した。

蒼や先生にも負けず劣らずのロン毛が特徴。



※第五十四幕から登場

・イソンノアシ

AIMの首長であり、英雄シャクシャインの末裔。

サクの父親でもあり、温厚で息子思いの性格。それ故に、AIM軍や統治領域の民衆からの人望が厚い。

諸葛真が大学生の頃、遭難から救ったことがきっかけで、彼とは親友の仲になる。

サクの和人嫌いというトラウマを克服させる為に、彼を革命団の案内役に任命した。


・サク

イソンノアシの息子で、英雄シャクシャインの末裔。

毒舌で攻撃的な性格。

実行力と統率力、そして軍才があるので、AIM関係者からの人望が厚い。また父を尊敬していて、親子の関係は良好。

しかし、交戦的で容赦がないので、札幌官軍からはマークされている。

かつては、温厚かつ親しまれる毒舌キャラだったが、恋人を官軍に殺されたから変貌。和人を軽蔑して、見下すようになったという。

殺された恋人と瓜二つの紗宙へ、淡い好意を寄せる。



・ミナ

サクの元婚約者。

アイヌ民族の末裔で、自らの出自やアイヌの文化に誇りを持っており、北海道を愛していた。

2年前、裏切り者の手によってサクと共に捕らえられる。

そして、彼の目の前で、松前大坊に殺された。



※第三十三幕と第五十幕で登場

・ユワレ

サクの側近であり、幼馴染でもある。

正義感が強く、曲がったことが好きではない性格で、みんながサクを恐れて諌めようとしない中、唯一間違っていることは間違っていると言ってのける存在。

また忠義に熱く、蒼から何度も革命団への入団オファーを受けるが、全て断り続けている。



※第三十三幕から登場

・アイトゥレ

AIM幹部の筆頭格で、イソンノアシやサクの代わりに、軍の総大将を務めることも多々ある。

歴史ファンで、特に好きなのが戦国時代。お気に入りの武将は本多忠勝。

道東遠征で、共に戦うカネスケの才を見抜き、別働隊を任せるなど、彼に軍人としての経験をつませる。



※第三十八幕から登場

・京本 宗男(きょうもと むねお)

北海道知事であり、札幌官軍の代表。

日本政府の指示の元、北海道の平和を守る為に、AIMとの紛争に身を投じた。

政府に忠誠を尽くす一方で野心家でもあり、いつかは天下を取ろうと画策している。

それ故に、紛争を理由に軍備の増強を図る。

人の能力を的確に見抜き、公平な評価を下すことから、部下からの信頼は厚い。

公にはしていないがヒドゥラ教団の信者で、土龍金友のことを崇拝している。



※第三十二幕から登場

・土方 歳宗 (ひじかた とししゅう)

札幌官軍三将の筆頭で、身長190㎝超えの大男。

京本からの信頼も厚く、札幌官軍の総司令官の代理を務めることもある。

武術の達人で、国からも軍人として評価されており、一時期は先生と同じく国連軍に所属していた経験もある。

北海道の治安を守る為にAIMとの戦争で指揮を取るが、特にアイヌやAIMを憎んでいるわけではない。

部下からも慕われていて、特に美咲は彼のことを尊敬している。また彼女と同様に松前の残虐非道な行為をよく思ってはいない。



※第五十一幕から登場

・豊泉 美咲(とよいずみ みさき)

札幌官軍三将の1人。

セミロングの銀髪が特徴的なスナイパー。銃の腕前は、道内一と言われている。

性格はポジティブで、どんな相手にも気軽に話しかけられるコミュ力の持ち主。

京本からの指示を受け、青の革命団の実態調査の任務を引き受ける。

キレ者で冷酷な所もあるが、非道な行為を繰り返す同僚の松前を心底嫌っている。



※第三十ニ幕から登場

・松前 大坊(まつまえ だいぼう)

札幌官軍三将の1人。

人柄はさておき、能力を買われて三将の地位まで上り詰める。

サクの恋人を殺害した張本人。

類を見ない残忍性で、AIMおよびアイヌの人々を恐怖に陥れた。

再びAIM追討部隊の指揮官に任命され、AIMと革命団の前に立ち塞がる。



※第三十ニ幕から第五十幕まで登場

・エシャラ

イソンノアシの弟で、サクの叔父に当たる人物。

元AIMの幹部で、考え方の違いから、札幌官軍に内通して寝返る。

サクとミナを松前大坊へ引き渡し、ミナの殺害に少なからず加担した。

温厚だが、自分の信念を曲げない性格。

AIMをえりもへ追いやって以降は、松前の手先として帯広地域を統治していた。



※第三十三幕〜三十四幕で登場

・御堂尾 神威 (みどうお かむい)

紋別騎兵隊の副隊長。

日本最恐の軍隊と恐れられる騎兵隊の中でも、群を抜く武勇と統率力を誇る。

しかしその性格は、冷酷で自分勝手で俺様系。

人を恐怖で支配することに喜びを覚え、敵対した者は、1人残らず殺し、その家族や周りにいる者、全てを残忍な方法で殺害。

また、騎兵隊の支配地である紋別の町では、彼の気分次第で人が殺され、女が連れさらわれていた。

その残酷さは、松前大坊と匹敵するほど。

結夏に因縁があるのか、執拗に彼女のことを狙う。



※第四十一幕から登場


・御堂尾 寿言 (みどうお じゅごん)

神威の弟で、紋別騎兵隊の隊員。

兄と同じく残忍な性格。

兄弟揃って紋別の町にふんずりかえり、気分で町の人を殺したり、女性に乱暴なして過ごしている。

食べることが好きで、体重が100㎏を超えている大男。

兄の神威と違い、少し間抜けな所があるものの、他人を苦しめる遊びを考える天才。

大の女好き。



※第四十二幕から第四十八幕まで登場

・北広島 氷帝 (きたひろしま ひょうてい)

紋別騎兵隊の隊長で騎兵隊を最恐の殺戮集団に育て上げた男。

『絶滅主義』を掲げ、戦った相手の関係者全てをこの世から消すことを美学だと考えている。

松前大坊からの信頼も厚く、官軍での出世コースを狙っていた。



※第四十六幕から第四十九幕まで登場

・仁別 甚平 (にべつ じんべえ)

黒の系譜に選ばれた者の1人。

カニバリズムを率先して行い、雪山で焚き火をして遭難者を寄せ付け、殺害しては調理して食べる、という行為を繰り返している。

特に若い娘の肉を好んで食す。

リンに狂酔しており、彼女の興味を一心に浴びる蒼を殺そうと付け狙う。



※第四十二幕から登場

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み