第12話 やぶからスティック【3】明倫館補遺1

文字数 961文字





 2015年7月、萩市の資産を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録された。北は岩手県から、南は鹿児島県まで、23の資産で構成されている。これはわずか50年間で急速に成功した日本の産業革命を概観出来る文化遺産なのである。
 僕は明倫館へ行ったとき、かなり不躾な質問をNPO法人のひとにしてしまったので、もう一度、それについて語りたいと思うのだ。
 ただ、僕が質問して理解したことは、言葉は悪かったとは思うが、正鵠を射ていた、と云わざるを得ない。どういうことか。それは、萩市で登録されている産業革命遺産は、簡単に言うと試行錯誤の歴史であり、要するに失敗してトライ&エラーしていた、そのさなかを物語るものだからだ。
 萩反射炉、恵美須ヶ鼻(えびすがはな)造船所、大板山たたら製鉄遺跡、萩城下町、松下村塾が萩市にある産業革命遺産である。この5つを含む資産を〈シリアルノミネーション〉という方式によってほかの地域の資産と結びつけているのが、この世界文化遺産の面白いところである。シリアルノミネーションとは、簡単に言うと、バラバラに点在する資産を〈ひとつのストーリーとして結びつけて文化遺産とする〉という方式である。単体では登録が難しくても、物語性を持たせることによってその歴史的価値が高まり、遺産登録が出来る、という仕掛けである。

 この『修羅街挽歌』の『明倫館』の項で述べた通りだが、繰り返そう。19世紀半ば、欧米列強の東アジア進出により、各藩は海防防備の必要性に迫られた。そこで、〈鎖国という条件下〉において、萩藩もまた、自力で工業化を目指すことになる。
 長州藩には昔から、「米、塩、紙、蝋」という〈防長四白〉と呼ばれる名産品があり、そこに木綿をプラスして、それを専売制にして金を稼いだ。また、下関に越荷方(こしにかた)という、藩営の金融、貸し倉庫の設置などを行い、これまた金を稼ぐ。あるひとの話によると、ほかの諸藩より、幕末においては、だいぶお金を持つに至ったらしい。
 金は出来た、さぁ、工業化だ、となっても、そもそも鎖国しているので技術がない。技術とは近代化の要である蒸気機関だ。そこで、密航を行うことになり、それは結果的に大成功を収める。僕が『明倫館』の項で述べた通りだ。

 ちょっと文章がかたくなっているし、適宜、区切りながら語ることにしよう。


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桐乃桐子:孤高の作家

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