国王の葬儀 6月3日

文字数 546文字

 純銀の柩が目の前を通った時、これからのことを考えている自分はなんて薄情な人間なのかと九九は思った。国境警備隊という立ち位置を与えてくれた国王は一番の味方であった。食べていくための居場所を作ってくれた恩人が亡くなったというのに、今自分は近い将来のことを考えている。悲しみがないわけではない。ただそれ以上に、明日からどう生きていくか考える方が先なのだ。昔からそうだった。守ってくれていた誰かがいなくなったあと、悲しむ時間は九九を素通りしていった。それより今この瞬間からどうするか考えることを余儀なくされた。幼い弟、妹分達を食べさせるには?嵐の晩、不安で眠れぬ夜をやり過ごすには?考えすぎるあまり、現在(いま)という時を忘れることがある。九九はどこか遠くを見ているような目をしている。儚げで繊細な表情は寂しく、いつもたったひとりで戦っているかのよう。微風がそのことに言及した時、九九はこう言った。
「こういう顔なんだ。気にするな」
 城での葬儀に集まった者達はうつむき、誰一人互いに目を合わせなかった。皆他人。国王がいなければこの場で会うこともなかっただろう。九九もそうだ。これだけ大勢の人がいるのに孤独だった。
 国王の生前の人柄が0境国中の人々を城へ呼び寄せた。献花の列は後を断たず、日が暮れるまで続いた。
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