第18話 冷菓子屋

文字数 1,743文字

 今日は帰りにひなちゃんと一緒に冷菓子屋に行く。冷菓子屋は踏切を渡ってずっとまっすぐ行ってあたしのうちを越えた先の交差点の角にある。交通量が多いので店内で食べるかテイクアウトするかの二択しかない。でも小さなお店なので人がいると店内で食べることは難しい。だから近くの公園で食べようと決めて、あたしはひなちゃんとおしゃべりしながら冷菓子屋を目指す。
「とにかく、アイスクリームとクレープの種類が多いんだよ」とあたしは言う。
「悩むなぁ~。鹿渡は何が好きなん?」
「あたしはベタにストロベリー」
「俺は何にしようかなぁ~」とひなちゃんは難しい顔をして考え込む。その姿がとてもかわいくて、あたしはその場でバタバタ暴れたくなる。
「メニューを見てから選べばええやん。いま考えてもわからんし。絶対ひなちゃんが好きなのあるから」
ここ曲がったらこのそのマンションがあたしンちとか言いながらひたすらまっすぐ歩いていると冷菓子屋に着いた。
「思ってたより小さい店やな」
「あっちが入り口で、テイクアウトはここの窓口から」
「ここ交差点で交通量も多いからテイクアウトして外で食べるのはきついか。でもこのかっこで店内に入るのもな~」
「大丈夫だよ。近くに小さな公園があるから。ベンチもあるし」
「ならテイクアウトやな」とひなちゃんは自分が決めたみたいに自慢気に笑う。

 あたしたちはテイクアウトの窓口に張り出されたメニュー表を見た。
「アイスはカップ入りなんやな。溶けても手が汚れんな」
「そうなんだよ~。だからたまにお父ちゃんが仕事帰りに買ってくるわ」
「生クリームもたくさん入っているんや~。俺生クリーム大好きやねん」と言ってひなちゃんはメニュー表を眺める。
「コーヒーゼリーもおいしそうやし、ストロベリーもいいし、迷うな。鹿渡は決めた?」
「あたしは冒険しない女だからストロベリーかな」
「じゃあ、俺はみかんにする。ちょっと交換しようか? えっと440円か」とひなちゃんはいつものがまぐちを取り出す。
「それならあたしもグレードアップしてストロベリーヨーグルトにするわ、ひなちゃんと同じ440円」
「それからここのお店の注文は番号で言わなあかんで」とあたしはひなちゃんに注意する。
「みかんは21番やな」
「あたしは27番」と言って注文を決めると、小さな窓からあたしたちを覗いたいかにも職人って感じの大きな男の店員さんに注文する。「はい、21番と27番。2つとも440円ね」とあたしたちを見て店員さんは料金を別々にしてくれた。

 冷菓子屋の隣の道路を挟んだ横に大きなマンションがあって、あたしたちは信号を渡りダイエー方面に歩き出す。するとすぐに鳳東町こなすび公園があり、あたしたちはベンチに座った。ひなちゃんはさっそくアイスクリームを食べ始める。最初は上にのった生クリームから。
「美味しー。この生クリーム甘すぎないからいくらでも食べられそう」とご満悦だった。おいしそうに食べるひなちゃんの緩んだ笑顔がとてもかわいいなと思いながらあたしも食べ始める。いつもと変わらない味にあたしも満足する。
「みかんソースも果実も美味しいな~。鹿渡はいつもこんなん食べているんか」
「たまにね、お父ちゃんが買ってきてくれたときに」
「ええなぁ、俺の父さんも見習ってほしいわ」と笑い、それじゃあと二人顔を合わせてアイスクリームを取り変えっこする。
「ストロベリーも堪らんな」
「みかんも美味しいよ。あたし初めて食べたけど、こんなに美味しかったんや」とか言いながらいつものように楽しい時間を過ごしていたら、すぐにアイスクリームはなくなった。
「カップ、持って行くわ」とひなちゃんが立ち上がり「ここゴミ箱ないやろ。俺帰りにおりいぶ公園通るから捨てとくわ」とあたしの空のカップを取り上げた。あたしも立ち上がる。ひなちゃんといると本当に時間が流れるのが早い。まだまだ別れたくないなぁと思う。
「また誘ってな。中学生の小遣いではそんなにいけないけどな」
「うん。わかった。それじゃあまた明日ね」と公園から出たあたしは笑顔で手を振る。ひなちゃんも手を振ってあたしたちは反対方向に歩き始める。ひなちゃんとこんなに楽しい毎日が送れて嬉しいなとあたしはゆっくり歩きながら手のひらを見つめてそう実感する。
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