第87話 年賀状

文字数 1,703文字

 今日の国語の時間に年賀状を書く授業があった。そういえばあたし、年賀状なんて今まで1度も書いたことがないし、もらったこともない。周りにいる子も書いたことがない人が多数だった。生徒は年賀状を1人2枚渡され、先生は「基本的に新年のあいさつを書いて、去年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします」で定型文になるから、そこから自分なりに書いてみてと説明した。ただ個人情報にうるさい時代だから宛先は学校で宛名は2年3組だれだれって感じになる。それやと正月にうちに届かんやんかと思うけど、今はそんな時代。仕方がない。あたしは誰に送ろうかなと考える間もなくひなちゃんは絶対。残りの1枚は佐藤さんにするか、西野君にするか悩んだ。だけど西野君はあたしが送らなくてもたくさんもらえるだろうから、佐藤さんに送ることにした。佐藤さんの年賀状は定型文通りにのっとって簡単に書けた。でもひなちゃんへの年賀状は難航した。何か特別感を入れたかったけど、また今年も一緒にいようねくらいしか思いつかなかった。こんなところでもアホな子なんやな、あたし。ある程度の時間がたったら、先生が「みんな、書けたか~? ほな集めるぞ」と年賀状を集め出した。「これ送っとくからな」と言う先生を見てあたしは鳳中から鳳中に送るんやったら、わざわざ郵便局を通さなくてもいいのにと思った。1月まで保管したらええのに…。周りの子も同じことを思ったかもしれない。

 お弁当の時間に年賀状の話になった。ひなちゃんは「俺は鹿渡と佐藤に送ったで」と暴露する。すると西野君が言う。
「俺も鹿渡と佐藤に送ったわ」
「ひなちゃんではないんや。西野君はてっきりひなちゃんかと思った」
「いつも会ってるし普段から連絡しあう仲やから、今さら年賀状ってないやろ」
「そやな、西野君はひなちゃんとプライベートでも仲良しやし」
「俺はな、ひなちゃん家族に甘やかされ過ぎてるねん。それより鹿渡、愛さんから鹿渡の連絡先とか家の電話番号教えろってうるさいんやけど」
「あたし、そんな悪いことしたかな?」
「ちゃう。逆に愛さんにめっちゃ気に入られてるねん」
「なんであたしが…」
「新太がいいように母さんに報告してたんやろ。新太、誤魔化しても俺は知ってるねんから」
「報告って言うか、そういうのをしていたのは事実やけど。俺、ひなちゃんに小学生のときみたいな嫌な思いしてほしくないねん。それは愛さんも一緒や」って西野君が慌てて言う。あたしはその挙動不審ぶりに改めて聞く。
「小学生の頃にひなちゃん、なんかあったん?」
すると西野君が周りを警戒し小さな声であたしに話した。
「俺のせいである女子とトラブルになって、いじめみたいなことになったことがあってん」
「ひなちゃん、ホンマにそうなん?」
「俺には新太がいたから全然気にしてないけどな」とひなちゃんはお弁当を食べている。
「でも愛さんに一方的にクレームの電話してきたり、親同士のトラブルもあったやろ」
「それでひなちゃんのお母さんはひなちゃんに女の子を近づけさせないんやね」
「ひ、ひ、ひなちゃんも、そ、そ、そんなこと、あ、あ、あったんだ」
「もうええやん、昔のことは。それより、鹿渡と佐藤は誰に年賀状送ったん?」
「あたしはひなちゃんと佐藤さん」
「わ、わ、私はひ、ひ、ひなちゃんと、か、か、鹿渡さん」
「俺、モテへんな。1人くらい俺に送ってくれても良かったのに…」
ごめんとあたしと佐藤さんが言うとひなちゃんが「新太は他からたくさん来るよ」と笑った。
「俺、鹿渡や佐藤から欲しかったんやけどな~」と落ち込む西野君に「あけおめのLINEは送るから」とあたしと佐藤さんは励ました。西野君は「それじゃ、鹿渡の家電の番号教えてくれる。ひなちゃんちも教えるから」と言う。
「わかった」と答えるとひなちゃんが「なんで新太が俺んちの電話番号勝手に教えることになってるねん」と反論するけど西野君は「教えてもええやろ、ひなちゃん」と諭すように言った。するとひなちゃんは「まぁ、別にいいんやけど」って照れた顔をした。改めてこんな顔を見るとひなちゃんって本当にかわいいなとあたしはしばらくひなちゃんを見つめていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み