第17話 ジャスミンティー、麦茶、緑茶

文字数 1,561文字

 ひなちゃんは最近あたしたち2軍女子と一緒にお弁当を食べたがる。それはあたしにとって嬉しいことだけど、もれなく西野君が付いてくるので結構女子の視線が気になる。あたしには関係ないけど、西野君はクラスで一番モテる男の子だからだ。それに同じグループの松本智美が西野君のことを好きで、お弁当を食べるときに明らかに無口になるのがなんか嫌だ。LINEでは毎日のように西野君の一挙手一投足を報告してくるのに。だからそんなん知ってるちゅうねん。それなのに本人を目の前にするとなんか態度がはっきりしなくて、ついあたしは松本にイライラしてしまう。

 あたしたちが机を動かしているとひなちゃんも当たり前のようにあたしの横に机を付けて、にっこり笑う。ああ、かわいいなぁとあたしはひなちゃんの笑顔にすごく癒される。西野君は松本の横に机を付けて「松本、なんか俺嫌われてる?」と聞くと松本は下を向いて「そんなことない」と小さな声で答えた。「それならいいけど、なんか最近避けられている気がして」と西野君が言いながらお弁当箱をリックから取り出し、机の横にかけていた水筒を持った。
「あれ、新太、水筒大きいのにしたん?」
「朝で気づけよ、ひなちゃん。今年は暑いからもう夏用にしてん。これくらいないと部活持たんから」と言ってひなちゃんに黒色のカバーにショルダーのついた大きな水筒を見せる。
「それ2リットル?」
「いや、1・5。これでも夏になれば足りへんくらいや。松本もソフトテニス部やから小さな水筒じゃ足りんやろ?」
「夏は少し大きいのにする」ともじもじと松本は答えた。これ絶対LINEで西野君に話しかけられたって来るやつやとあたしは思った。
「ひなちゃんはいつものなん」
「そやで」と言ってひなちゃんは薄い紫色のペットボトルくらいの水筒を取り出す。
「中身もいつものジャスミンティーなん」
「当たり前やん。新太は麦茶やろ」
「一番飲みやすくて安いからな」と答えたところであたしは思わず声が出る。
「ひなちゃん、ジャスミンティーなん。なんかイメージとすっごい合ってるわ」
「なんや、そのイメージって?」
「だってなんかひなちゃんが熱い緑茶すすっているとこ想像できへんもん。やっぱりかわいい子は紅茶とかハーブティーやと素直に想像できるけど」
「俺のこと馬鹿にしているやろ、鹿渡」
「そんなことないよ、あたしなんか緑茶やもん。ジャスミンティーなんてオシャレなの飲んだことないし」
「ひなちゃんちはジャスミンティーやねん。俺も何回か飲んだことあるけど、あの香りが苦手やわ。やっぱごくごく飲める麦茶が一番や」
「新太の分に麦茶も用意してるやろ。文句言うな。それより鹿渡。飲んだことないなら飲んでみるか?」とひなちゃんが水筒を差し出し、あたしは「ありがとう」と言って水筒を受け取ってキャップを外して一口飲んでみた。西野君が言うように香りが強くてあたしも苦手かなって思った。
「香りにくせあるね。ごくごくは飲めんわ」と正直な感想を言う。
「慣れたら病みつきになるんやで」
「高校生くらいになったら飲めるようになるかな。そしたらあたしもかわいい女の子や」
「なんでそうなるねん」ととなりの山崎と佐竹から激しい突っ込みが入ったので、みんなで笑った。それからお茶の話になり、グループの女子はみんな緑茶であたしたちって年よりくさいよねとか言いあったけど、あたしもひなちゃんみたいにいつかジャスミンティーを飲むオシャレな女の子になりたいなと思いながら緑茶を飲みお弁当を食べた。

 その日の夜、LINEが来て松本が「明日から私も麦茶にする」と言ってきた。多分そう言うだろうなと思っていたあたしはやっぱりかとかなり呆れながら、食洗器で乾燥させた食器を片付けて自分の部屋に戻ってベッドに横たわり、スマホでジャスミンティーを検索した。
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