第26話 水泳の授業

文字数 1,470文字

 今日から水泳の授業が始まった。ひなちゃんは1年生のときはずっと見学していたと聞いていたけど、今年はどうするのかなと気になって聞いてみた。
「なあ、ひなちゃん。水泳の授業はどうするん?」
「俺か? もちろん見学」
「あたしも見学したいなぁ。水着きるの嫌やわ。でもそんなんいけるん?」
「母さんがな。こういうときだけすごいモンペになって、めっちゃ学校にクレーム入れるねん。だから俺、小学校の頃から1度も水泳の授業は受けたことないわ」
「それってホンマにいけるん?」
「もちろん体育の成績は悪くなるで。でもしゃーないわ。俺も母さんには逆らわれへんし、先生も忙しいのにうちの母さんの相手するのもしんどいやろ」
「ひなちゃんのお母さんってやっぱり怖い人なんや」
「そんなことないで。制服と水着のことになるとかなり人が変わるけど、普段はなんも言わへん。基本的に放任主義やから気楽やで」
「それなら、制服も水着も持ってへんの?」
「そや、持ってへん」とひなちゃんは何故か誇らしげに笑った。

 プールの時間が始まると、まずは軽く準備体操をする。すると隣の山崎があたしに話しかけてきた。
「鹿渡は身長だけやなくて胸もでかいな~。スタイル良すぎて嫉妬するわ」
「これでもコンプレックス持ってるんやで」
「それ、ある女がない女に言うことか。嫌味にしか聞こえへんわ」
「あたしはこんなに育ちたくなかったんや。普通が一番やで」
「普通以下の私に言うな!」と山崎は怒ってしまったけど「この体形のせいで男子からチラチラ見られるのがすごい恥ずかしいんやで」と言いたくなった。でも今年はクラスに男子に人気の清水亜季がいる。清水亜季はバレー部だけあってなのかわからないけどスタイルが結構良いので、1年のときみたいにあたし1人が水着姿を注目されることはないかなと思った。まあ、注目が半減するくらいで男子にチラ見されるのは変わりないけどね。

 それにしても6月プール解禁って誰が決めたんだろう。今年は暑い方だけどやはりプールの水は冷たい。入りたくないなと思うけど、みんな次々にプールに入っていくのであたしも覚悟を決めて水に浸かった。初めはウォーミングアップにプールを軽く歩く。そして先生の号令の下みんなが泳ぎ始める。運動音痴のあたしは10メートルおきくらいで息ができずに立ち上がりながらなんとか25メートルを泳ぎ切った。これを何本もやるのかと思うと本当に嫌になってくる。あたしは修行僧か。恥ずかしいかっこして、うまく泳げなくて恥ずかしい目を見る。なんで水泳の授業があるのだろうとあたしはだんだんムカムカしてきた。これなら冬の持久走の方が絶対ましやん。とか思っていると隣のレーンを清水亜季がきれいなフォームで泳いでいった。ひなちゃんには勝てないけどかわいくて頭も良くて運動もできる。これは男子に人気が出て当然やなと思いあたしも不格好ながらに泳ぎ始める。息継ぎがうまく出来ずに立ち上がったあたしは顔を右手で拭いて、何気なくプールサイドを見た。そしたら見学していたひなちゃんと目が合った。ひなちゃんは「がんばれー」と声を出さずにあたしに声援を送って手を振った。あたしも手を振り返して、ふとひなちゃんの水着姿を想像した。もちろん女の子の水着姿。実際に想像したらかわいすぎてちょっと興奮した。男子もこんな想像しているのかなぁと思うとあたしはしばらくそこにぼっーと立ちぱなしになった。後ろの子とぶつかってすぐに我に返ったけど、ひなちゃんのお母さんが頑なにひなちゃんに男子の制服や水着を着させない気持ちが少しわかった気がした。
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