第48話 夏休みの終わりに

文字数 1,670文字

 夏休みももうすぐ終わりに近づいてきたのに暑さは相変わらずでこんなんで学校に通うのも嫌やなと思いつつ、だけどひなちゃんと毎日会えるのは嬉しかったりする。夏休み中はSkypeでやり取りはしていたけど、やっぱり生で毎日会えるひなちゃんの方が圧倒的に良いに決まっている。今日は午前中に会う約束をしていて久しぶりにひなちゃん要素を感じ取れる日になっている。あたしはさっそく支度をしておりいぶ公園に行く。するとやはりひなちゃんが先に来ていた。
「ごめん、待った?」
「待ってへんよ、これあげるわ。まだ冷たいやろ」とひなちゃんはペットボトルをあたしに渡した。
「ありがとう」と言ってあたしはペットボトルを受け取り、ひなちゃんの横に座る。
「午後の紅茶の無糖なんやけど、飲まれへんかったら無理強いはせんから」
「無糖の紅茶は飲んだことないわ~。これひなちゃんが買ってきてくれたん?」
「ちゃうで。うちの冷蔵庫にたくさんあったから2本持ってきた」
あたしはふたを開けて一口飲む。思っていたより飲みやすい。これはたまにジャスミンティを飲んでいるおかげかな。何だかあたしの味覚も変わっていたみたい。
「いけるな、無糖の紅茶も」
「そやろ、結構おいしいやろ。鹿渡の味覚も変わって来たなぁ。初めはジャスミンティ苦手って言っていたのに」
「そやな、いつの間にかはまっていたわ。ハードル高いと思っとったから、これはひなちゃんの陰謀やな」
「陰謀って。鹿渡がもともと持っていた味覚が開花しただけやろ」
「そんなもんなんかな?」「そんなもんや」と二人で笑いあう。こんな何気ない日常があたしにとっては大切な時間。これからもこんな時間をひなちゃんと重ねていきたいと思う。
「なあ、鹿渡。宿題は終わった?」
「それ聞くか? まだ残ってるわ。どうせひなちゃんはとっくに終わったんやろ?」
「とっくにではないけど、一応終わらせたで」
「それは意外。ひなちゃんやったら7月中に終わらせてると思ったわ」
「うーん、それしたら楽なんやろうけど、学校の宿題って正直くだらんやろ。もっと他のことしたいねんな」
「そうやな、宿題は退屈やな」
「ところで鹿渡、風景画は完成したん?」
「それはあとちょっと。出来たら美術部に持って行くから、そのときにひなちゃんにも見せるね」
「楽しみやな~」とひなちゃんは無邪気に言う。あたしは紅茶を飲みながら「そんな期待せんどってや」とハードルを下げようとするが、実は自分でも結構うまく描けたなと思っている。ひなちゃんも気に入ってくれたらいいのになぁ。
「そや、ひなちゃん。この前、おとうちゃんとおかあちゃんとで串カツ食べに行ってん。そこでな、マスターに中学生2人で夜食べに行ってもいいですか? って聞いたら、いいですよって。しかもな、昼営業のときのランチを出してくれるんやって。お得やで1000円でおつり来るから。一緒に行けへん?」
「もちろん行くわ。俺飲み屋さんに1度行ってみたかってん。しかも昭和レトロの雰囲気なんやろ。楽しみやな~」
「なら決まりやな。いつにする」
「鹿渡が宿題終わらせたら」
「ひなちゃん、そんな意地悪言わんとってや」
「冗談やって。25日から学校やからその次の土曜日ってどうかな?」
「あたしは問題ないよ、5時からやってるから5時半ってどう」
「わかった。場所はどこ?」
「西支所の前の道をまっすぐ行って、ウイングス越えて堺西警察署越えた信号のところ。赤ちょうちん下がってるからすぐわかると思うわ」
「わかった。それにしても赤ちょうちんか? 雰囲気あっていいね」
「店内もかなりええ雰囲気やし、串カツも美味しいで。あたしらまだお酒は飲まれへんけど」
「そやな、20歳になったら鹿渡と一緒にお酒飲むの楽しみにしてるわ」とひなちゃんは嬉しそうに微笑んだ。そのかわいさにあたしは完全にやられたけど、よくよく思えばこれって20歳になってもひなちゃんはあたしと一緒にいてくれるって宣言だよね。そう思うとあたしは何だか抑えきれない嬉しさがふつふつと込み上げてくるのを感じて、その嬉しさを紅茶で無理やり流し込んだ。
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