第50話 ちぐさ子ども食堂

文字数 1,501文字

 2学期の始業式も終わり、教室でいつものように西野君がひなちゃんの席に来てしゃべっているとそこに三木君が来た。三木君とは同じ南小だけど、地味で友達もいないような男の子だったし今もそんな感じで3軍男子の王道って男の子なんだけど、ひなちゃんたちに何か用でもあるのかな? ってあたしは気になった。すると三木君が2人に話しかけた。
「ひなちゃんと西野君。明日予約した?」
「ちゃんとしてるで、前回は俺行けなくてごめんな。ひかりちゃんには悪いことしたな」
「ううん、ええよ。でも今度はひなちゃんと会えるんやな。ひかりも喜ぶわ」
なになにひかりちゃんって、あたしは会ったこともない女の子に嫉妬してしまい、思わずその会話の中に入った。
「なあ、ひかりちゃんって誰?」
すると西野君がなんか納得した顔で「鹿渡の思ってるのとは違うよ。三木の小1の妹や」と言ったので、あたしは一安心したけどひなちゃんは明日あたしとの約束がある。
「どっか行くん?」
「子ども食堂や。お昼やから鹿渡との約束には影響ないで」とひなちゃんは言う。
それを聞いてあたしは完全に安心したけど、今度は会話から抜けられなくなった。すると三木君があたしに話しかけてきた。何気に三木君と話すの初めてやなと思った。
「1年のときにひなちゃんが子ども食堂を紹介してくれて、妹と行くようになってん。南小校区ってそういうところないやろ。だからすごく助かってるねん。うち母子家庭やし」
「三木君のところって母子家庭なんや。知らんかったわ」
「それで大鳥大社のところのちぐさ子ども食堂に通うようになってん。月2回子供塾もやってるからひかりも喜んでくれて嬉しいわ」
「へ~そうなんや」とあたしは初めて三木君の家庭の事情を知った。同じ南小なのにあたしは全然知らなかった。
「ひかりちゃんがひなお姉ちゃんになついてるんねんな」と西野君は半笑いで言う。
「しゃーないやろ。こんなしゃべり方してたらひかりちゃんに悪影響出るやろ」
「ひかりはいつひなお姉ちゃんに会えるの? ってばかり聞いてくるわ。ランドセル見つめてな」
「なんでランドセルなんか見つめるん?」とあたしは聞いた。すると西野君が答える。
「それはな、ひなちゃんがひかりちゃんにお古のランドセルあげたからや。ひなちゃんのランドセルは薄い紫色のかわいいランドセルやったからな」
「それは嬉しいわ。あたしなんて普通に赤やったけど、それでも買ってもらったときは嬉しかったわ」
「俺は鳳来るまではランドセルなくて、愛さんが中古ランドセルを寄付する団体に頼んで贈ってもらったときはめっちゃ嬉しかったもんな」
「ひなちゃんからランドセル贈ってもらったとき、ひかりはずっと背負って笑っていたからなぁ。あのときは僕も嬉しかったわ。ありがとうな、ひなちゃん」
「もうええって。ひかりちゃんが喜んでくれたらそれで俺は十分や」
「今日帰ったらひかりに明日ひなちゃんと会えるよって言うわ。ひかりめっちゃ喜ぶで」
「へ~、えらく懐かれてるんだ、ひなお姉ちゃん」とあたしはひなちゃんをからかってみる。
「ひなお姉ちゃんはやめろ」とひなちゃんはちょっと怒ったけど、本気で怒ったわけではなかった。西野君も三木君もあたしも笑った。ひなちゃん、そうは言いながらもひかりちゃんのことがかわいんだね。それにしてもあたしは今まであたしの生活が普通の生活とずっと思いこんできたけど、それは社会の常識ではない。いろいろな人がいて、その人のいろんな生活や価値観がある。ひなちゃんはそのいろんな人を笑顔にする力がある。西野君も三木君もひかりちゃんも。当然あたしも。あたしはひなちゃんと出会えて本当に良かったなと思った。
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