第13話 清水亜季

文字数 1,540文字

 私がかわいいと自覚したのは小学生のときだった。大人はみんな私のことかわいいって言うし、馬鹿な男子は私に気に入られようと必死だし、女子は女子で私と仲良くしたがった。そして何より、私は自分をかわいく見せる手段を知っている。例えば、写真を撮るときに下唇を軽くかむと、えくぼが出はっきり出来てよりかわいく見える。私は私の価値の見せ方を知っている。私の両親はエリートで二人とも同志社大学をでて大阪の大手企業に勤めている。そしてアリオ鳳の近くに大きな戸建ての家を建てたし、車も2台ある。家事代行サービスも使っている。そんなエリートの娘の私も頭が良かった。ただ出来損ないの姉が、何度聞いても覚えられない落ちこぼれ私立高校に通っている点を除けば私は完全な勝ち組だった。だけどそんな私に嫌な噂が聴こえてきたのは小6の冬である。堺市一かわいい子が鳳中学に来る。噂は噂だと信じられなかった。中学で山田ひなたを見るまでは。私は自分よりかわいい子がいることを初めて知ったのだけど、ひなたが男だと知るとやっぱり鳳中で1番かわいい女の子は自分じゃないかと安心した。中1のときにひなたと西野新太君と同じクラスになった。新太君は今までの男の子と違い、私に関心を持たなかった。何だか腹が立った。いつもひなたを見ている。ひなたは男なのに。そして私はだんだんと容姿もかっこいい新太君のことが気になり始めた。この私になびかない男がいるなんて信じられなかった。生粋のエリートでかわいい私が相手にされないなんて。気が付けば私は今まで見下してきた男と違う男って感じに新太君のことが好きになっていった。でも私から告白なんてできない。私はかわいくてエリートなんだから、告白は男がする。そこは絶対に譲れない。

 1年のときに私と新太君とひなたが同じクラスになり、私が鳳小から来た子に聞くと、新太君は父子家庭で貧しいらしい。初めは私とは釣り合わないと思ったこともあったけど、やはり私は新太君のことが好きだ。たとえ、新太君が高校卒業で働いたとしても、私が1流大学に行って1流企業に勤めて新太君を支えてあげる。それが私の使命だと思っている。うちの両親みたいに新築の戸建てに住んで、いい車に乗って、チェーン店みたいな安っぽいお店でなく、毎週高級店に外食に行って。子供は女の子が欲しいな。私に似て絶対かわいい子になる。

 私はバレー部に入って、身長も身体も成長してすごくいい女になりつつある。西野君は野球部で坊主頭だけどかっこいいし身長もあたしよりある。こんな美男美女カップルなんて芸能人くらいしかいないと思う。なのに新太君はいつもひなたなのだ。2年になりまたこの3人は同じクラスになったけど、あの新入りのくそでかバカ女が新太君とたまに話をすることがあった。私はいつも新太君を待っているのに。それなのにあのくそでかバカ女はお弁当を交換したり、作ってきたりして完全に調子に乗っている。私が新太君を思ってきた長い時間をなめるなよ。ひなたも男のくせに新太君に付きまとい離れようとしない。私はひなたの存在が邪魔に思えてきた。そこで少し意地悪をしただけなのに新太君が凄く怒った。私はただ新太君にひなたではなく、この私を見て欲しかっただけなのに。そのうえ新太君はあのくそでかバカ女とLINEを交換した。女の子に興味ない態度を取っていたのに、よりによって私よりはるかに不細工なくそでかバカ女とだ。あんな女、私よりおっぱいが大きい以外の取柄はないのに。だけど私はあきらめない。あんなくそでかバカ女にこの私が負けるはずがないし、男のひなたなんかにはなおさら負けない。だけど、あの二人はちょっとお仕置きする必要があると思う。私は裏垢にくそでかバカ女の悪口を書き込む。
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