第80話 親バレ

文字数 1,701文字

 ひなちゃんとダイエーの食品売り場を回り、何も買わないであたしたちはおりいぶ公園に向かった。完全に油断していたのか喫茶ララの後ろを通ると「あら、ひなたやないの」と一人のおばさんが声をかけてきた。ひなちゃんは明らかに動揺して「か、か、母さん。どうしてここにいるの?」と声を上げた。「私がここにいるときは仕事に行き詰っているからでしょ」と言いコーヒーを飲む。ひなちゃんは動揺を隠し切れないけど、ひなちゃんのお母さんは余裕の表情であたしを見た。あたしもひなちゃんのお母さんってわかってすごく緊張したけど勇気をもって「鹿渡弘子です。ひなちゃんとは仲良くさせてもらっています。それから先日は柿をたくさん頂きありがとうございました」と頭を下げた。「あなたが鹿渡さんね。新太君からよく言いています。新太君の言っていた通りの女の子やわ。これからもひなたをよろしくお願いしますね」とかなり拍子抜けした返事が返ってきた。ひなちゃんのお母さんってひなちゃんに女の子を近づけないと有名なはずじゃなかったけ…。
「柿はもらい物だから気にしないで。それよりひなたが晩御飯をごちそうになりありがとうございました」
「いえ、あたしが誘ったので」
「ほら、何しているのひなた。席に座って」とひなちゃんのお母さんは私たちを席に誘導する。
「わたしたちは別の場所に行くからいい」
「外の公園は寒いよ」と言うお母さんに「肉の竹田屋でコロッケ買っていくから大丈夫」とひなちゃんはきつめに答えた。
するとひなちゃんのお母さんは財布から500円玉を取り出し「これでコロッケと自販機で温かい飲み物を鹿渡さんに買ってあげなさい」と言うとひなちゃんは小さな声で「ありがとう」と言ったのであたしも「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ほんと新太君が言っていた通りの女の子やわ。これなら安心してひなたを任せられる」と言ったところでひなちゃんが「もう行くよ」とあたしの腕を引っ張った。あたしはもう一度ひなちゃんのお母さんに頭を下げて、ひなちゃんに腕を引っ張られながら肉の竹田屋でコロッケを買ってもらった。そして東出入り口の横の自販機でホットミルクティーも買ってもらった。ひなちゃんはホットコーヒーを買い、おりいぶ公園のいつものベンチに座った。
「ごめんな、鹿渡。俺完全に油断してたわ」
「お母さんのこと? 全然かまへんよ。なんか周りから女の子に対しては厳しいって聞いてたから勝手に怖い人かと思っていたけど、優しいお母さんやん」
「それな。原因は新太やねん」
「えっ、どういう意味?」
「新太って小学生の頃からモテたから、俺を利用して新太に近づこうとする女の子が結構いてな。それでトラブってん。それから母さんは俺を利用しようとする女の子を異常に嫌うようになってん」
「そうなんやー。でもあたしはそんな扱い受けなかったで」
「新太が母さんに鹿渡のこと報告しててんな。そんなことする女の子やないって。俺も知らんかったわ」
「西野君、裏で動いてくれてたんや」
「みたいやな。悪いことは言ってないみたいやし、新太には黙っておくかな」
「そやな。西野君おらんかったら、あたしひなちゃんにこうして会えなくなったかもしれんからな。感謝や」
「俺もちょっと母さんの昔のイメージにビビりすぎていたみたいや」
「あたしも想像上のひなちゃんのお母さんにビビってたわ。だって鳳小の女子はみんな怖いって言うもん」
「小学時代はな。トラブルあって母さんもかなり神経質になっていたからな」
そんな会話をしながらあたしはひなちゃんがお母さんに似ていなくて、小柄なところだけ似たんやなと思っていた。ひなちゃんって案外お父さん似なのかなと思った。
「ひなちゃんはお母さんとはあんま似てないね。お父さん似なん?」
「違うよ。父さん方のおばあちゃんに似た。身長は母さんに似たけど」
「鹿渡はお父さんに似たよね」
「どちらかと言うとお父ちゃんに似たかな?」
「俺の写真も撮るし」
「そこ~!!
「いや、鹿渡の綺麗な顔立ちとか俺は好きやで」とひなちゃんが言うので照れながらも「あたしもひなちゃんのかわいいところが好きやで」と言ってひなちゃんの右手を握った。
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