第101話 大崎光司

文字数 1,811文字

 もうすぐクラス替えかと思うと気が重くなる。生徒も仲の良い友達と同じクラスになりたいだろうが、俺たち教師側からすると仲良い生徒がいつまでも一緒にいるのはその子たちが新しい環境に入って行ったときにうまく対応できなくなるから、仲の良い子はあえて違うクラスに振り分ける。それでも俺たち教師も鬼ではないからたまに仲良しな子を同じクラスに振り分けることがあるが、それはその子たちがお互い良い影響を受けているときに限る。クラス分けは相性が悪い生徒同士を同じクラスにしないってことをまず1番に考える。すぐ喧嘩になる。いじめをする側とされる側。家庭にいろいろ問題がある子。不登校の子。本当に様々だ。そんな生徒を担任1人で抱えないためにも、クラス替えの職員会議ではそんな子たちをまずリストアップしていく。そこから始めなくてはならない。今年度、俺のクラスには佐藤という吃音の子がいる。担任の俺は2学期に入ってから佐藤の様子がおかしいなと思っていて1度佐藤を呼び出して話を聞こうと思っていたが、ひなたが先に察して穏便に問題解決を図ってくれた。だから俺は何もしていないんだが、俺は問題生徒に清水をあげた。担任は見ていないようで、意外に見ているものだ。なので清水は佐藤とは別のクラスに行かせたい。

 俺も教員10年目の中堅教師だ。それでも3年の担任は今回で3度目だ。3年の担任はできればやりたくない。俺にもつらい経験がある。他校に勤めていたとき、本人の熱意に押されて本人より少し上の私立と公立高校を受験させたことがある。しかしその生徒は両方とも落ちてしまった。3年の後半の成績の伸びがよかったので、俺が油断してしまったことも大きな原因である。俺の責任じゃないかと当時はかなり悩んだ。しかしその生徒は浪人しますと塾に通い、次の春には第1志望の公立高校に合格した。本人が本当に頑張った。俺は単純に嬉しかったけど、中学在校生のためだけの内部書類作ったりするのも嫌がる先生がいるのも確かだ。それなのに中学と関係ない浪人なんて問題外になる。業務が増えて邪魔でしかない。俺はそんな考えの先生たちが嫌いだが、むしろそれよりも自分が好きな部活の顧問となって部活以外に力を入れないやつが大嫌いだ。むかし勤務していた中学校の先生がこのタイプで、卒業文集に生徒たちのことを一切書かずに、自分はバレーボールがいかに好きかを書いた豪傑がいた。アホなのかと思った。

 基本的に組み合わせが悪い生徒を分けた後、今度はプロ野球のドラフトのように成績の良い生徒の配分になる。俺はひなたを高くかっている。ひなたは学年1位の成績だけではなく、性格もいいし俺が言わなくても問題ある子に積極的に関与して問題を解決してくれる。こんな優秀な生徒自分のクラスに欲しいと思うのは当たり前だが、小学校からの引継ぎ事案でひなたを取ると西野を取らないといけない。西野も成績優秀で性格もいいし、クラスに欲しいと言えばもちろん欲しいのだが、成績優秀がひっかかりその次の生徒を選べないのが欠点だ。それに西野はざっくり言って吃音の障碍者でもある佐藤を助けたのも俺の評価としては大きい。ただ、佐藤は清水と別クラスってほぼ決まっているから、俺としてはこの3人を同じクラスにしてあげたいと思っている。そこは次の会議のときの運に任せるしかない。

 クラスの問題児や優秀生徒を振り分けると、圧倒的に多い普通の子の振り分けだ。これは教師でも知らない子がいるくらい当たり前のことだ。教師とはいえすべての学年の生徒の名前や性格を把握している訳ではない。生徒がクラス替えは運ゲーとか言うのは理解できるのだが、俺たち教師にとっても運ゲーだ。これほど苦労してクラス分けを作ってもだれがどこの担任になるかは教師個人では決められない。だから教師にとってもややこしい生徒来るなよとこちらもまさに運ゲーなのだ。俺はひなたと西野が欲しいが、そんな勝手な希望は通らない。佐藤もひなたたちと一緒にいさせてやりたいが、そんな希望は通らないのはわかっている。たとえ俺が担任ではなくてもいいから。そんなことを考えていると鹿渡もひなたと仲良かったなと思う。ひなたといて成績も伸びたし、活発的になって来たし。いい傾向がみられるけど、鹿渡はその他大勢の普通の生徒。俺の意志ではどうしようもない。一緒にいさせてやりたいんだがと思いながらも、俺は明日の授業の準備をする。
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