第47話 真夏のデッサン

文字数 1,777文字

 ひなちゃんに会いたい気持ちを押さえて、あたしは今日も1人おりいぶ公園に行く。あたしの描いてみたい風景画を描くため。朝で大体家事を済ませて、あたしはカバンにスケッチブックと色鉛筆と水筒と塩飴とハンドタオルと財布とスマホを入れて、guのキャップをかぶり真昼の公園に向かう。太陽ががんがんと照り付ける暑いなか、いつものベンチに座ってスケッチブックを広げて風景画を描き始める。めっちゃ暑いけど夢中になってあたしは色鉛筆を走らせていた。
「鹿渡、やっぱりここにおった」といきなり声をかけられてあたしはびっくりした。でもこの声の主はすぐにわかり「ひなちゃん! なんでここにいるの?」と見上げるとやはりひなちゃんがあたしの前に立っていた。
「風景画描くって言ってたやん。それならここしかないかなって思ってな。はいこれ、差し入れ」とあたしにガリガリ君を渡す。
「ありがとう。あたしがここにおるの見て買ってきてくれたん」
「うんん、見てへんよ。鹿渡なら絶対ここにおると思ってダイエーで2本買ってきた」
「あたしがおらんかったらどうしたん、このガリガリ君」
「俺1人で2本食べてた。でも鹿渡なら絶対ここにおるって自信あったから」
あたしはスケッチブックや色鉛筆を片付ける。するとひなちゃんが横に座った。ひなちゃんは白いバスケットハットをかぶっていたけど、それもまたかわいかった。ひなちゃんは何から何まで本当にかわいいなとあたしはつくづく思う。
「今日はいつもと逆やな。俺が鹿渡の右側や」
「そやな、ひなちゃんから見える風景を描いてみたかったからこっちに座ってるわ」
「なんか変な感じするな」とひなちゃんは言いガリガリ君を開ける。「そやな、私もひなちゃんの左手側におったらなんか居心地悪いわ」と言いあたしもガリガリ君を開ける。
「この暑さやから時間との勝負やで」とひなちゃんはガリガリ君を食べ始めた。あたしもそやなと答えてガリガリ君を食べる。しばらく2人無言でガリガリ君を食べていたけど、やはりあたしの方が食べるのが早かった。ひなちゃんは一口が小さいもんね。そんなところもかわいくてたまらない。ガリガリ君を食べ終えたひなちゃんは袋に棒を入れて「鹿渡、ごみ捨ててくるわ」とあたしの分のごみをもって空想ファンシー動物(ネズミ)の後ろにあるごみ箱にごみを捨てた。ここのごみ箱は手作りの木の蓋があり、ハエとか寄ってこないので助かる。ほんと公園を管理してくれている人たちに感謝だね。
「鹿渡は絵をコンクールとかに応募せえへんの?」
「うーん、あたしはそういうのに全然興味がないって言うか、ただ自分が好きやから趣味で描いてるだけやわ」
「そうなんや、新太も高校行ったら野球はせえへんって言ってたな。野球は趣味でやるのが楽しいんやって」
「西野君、野球うまいのにやめるん?」
「そうやって。趣味で草野球をしたいって言ってたわ。俺はそんな2人と違って特に熱中する趣味はないからなー。マジで2人を尊敬するわ」
「でもひなちゃんも野球好きなんちゃう?」
「好きやで。見るのもやるのも。だけど新太みたいに熱中できるかと言えばな~、ホンマに趣味なんかな? ちょっと悩むわ」
「へぇ、意外やな。ひなちゃんもそんなこと考えるんや」
「まあ、大きくなっても新太とキャッチボールはしたいとは思うけど…。それより鹿渡、絵見せてくれん?」
「今はあかん。完成したら見せてあげるから」
「なら完成するのを待っとく。それなら俺は帰るわ。暑いから鹿渡も無理するなよ」
「うん、わかってる。でもひなちゃん、今日は何しに来たん?」
あたしがそう言うとひなちゃんは恥ずかしそうにうつむいて小さな声で言った。
「俺かって、鹿渡に会いたいときがあるねん」
あたしはめちゃくちゃ嬉しくて顔が熱くなるのを感じた。ひなちゃんがあたしのことそう思っていてくれたなんて。
「じゃあ、俺は帰るから」とひなちゃんは小走りで公園から出て行った。そのかわいい後姿を見ながらあたしはひなちゃんの言葉を頭の中で何度も繰り返して照れる。あかん、今日はこのまま絵なんて描いてられへんわと思ったあたしは帰り支度をして公園を出た。今日のあたしはなんて幸せなんだろうかと思って、こんな状態で夕食作れるかな? と悩む。結果絶対あかんわとなり、今日はおかあちゃんに頼もうと決めてじっくりとこの大切な幸せをかみしめる。
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