第28話 カットモデル

文字数 1,557文字

 学校が終わると二人一緒に帰って、途中でいつもの公園のベンチでひなちゃんとおしゃべりするのがあたしたちの日常になっている。
「それにしても、鹿渡。俺が髪切ったの今朝一発でわかったな」
「当たり前やんか。あたしはいつもひなちゃんを見ているんやから」
「男は全然気が付かんかったのに」
「女の子同士はその辺よう見てるねん。でも男子はただ言いにくかっただけちゃうか」
「そうなんかな?」とひなちゃんは自分の白いうなじを触った。
「男の子はひなちゃんにめっちゃかわいいとか言いにくいやろ」
「そんなもんかな? まあ、男に言われたらちょっと腹立つけどな」とひなちゃんは言いちょっと恥ずかしそうに続けた。
「実はな、日曜日にカットモデルをしてん」
「それってアシスタントが練習のために格安で切ってくれるやつ?」
「俺も初めそう思ってん。母さんが勝手に決めてきたから」
「違うかったん?」
「思っていたのと全然違ってな。撮影用のモデルやったわ」
あたしは意外と冷静にひなちゃんなら当たり前かと思った。
「ひなちゃんくらいにかわいかったら、当然撮影用のモデルもあるわな。モーラサロンのモデルやったん?」
「そう。母さんから何も聞いてへんかったから驚いたわ。なんで母さんが付いてくるんやろとかしか思ってなかったし」
「それでどうやったん?」
「店長さんが髪を切って、いきなりメイクされてな」
「えーっ、ひなちゃんメイクしたん! 見たかったなー」
「もう完全に女の子扱いや。その日は白のスクールシャツに少しだぶだぶのデニムのストレートパンツはいて行っててな。母さんがこれ着ろって言うし。なんでやろとは思ってん。でもそのときは気にせえへんかったんや。メイクしたら母さんが青いチェック柄のスクールリボン出して無理やりつけさせられてわ。完全に嵌められたわ。もうなんかいろんな大人がいて絶対に断られへん雰囲気でな」
「きゃー! そんなんめっちゃかわいいに決まってるやん。あたしも見たかったなー」
「あの空気感やったら、俺スカートもはかされていたかもと思うと今でもゾッとするわ」
「ひなちゃんのスカート姿見てみたいな~。絶対無茶苦茶かわいいで」
「いや、はかんから。そこまでは男のプライドが許さんわ」
「で、写真撮ったん?」
「モーラの人は俺が男やて知ってるけどカメラマンさんは知らんから、かわいいよーとか言われながら撮影したわ。なんか複雑な気分やった」
「その写真、ひなちゃんは持ってるん?」
「持ってへんけど、モーラサロンのホームページにあげるって」
「そんなん毎日チェックしないわけにはいかへんやん」
「もうホンマ精神的に疲れたわ。見んどいてって言いたいけどネットで公開されるんやから無理やろ」
「絶対見る」とあたしは力強く宣言した。ひなちゃんは肩を落として「もうええわ」と呟いた。

 それから1週間後にモーラサロンのホームページが更新されて、ひなちゃんがモデルとして公開された。プロがとる写真はあたしがとる写真とはまるで別次元で、そこには思わず泣きそうになるくらい完全な女の子の無茶苦茶かわいいひなちゃんが写っていた。あたしはすぐにうちのパソコンから画像を保存して自分のスマホに送った。この写真は絶対に永久保存版やとあたしは一人ではしゃいだ。スマホの待ち受け画面をひなちゃんの写真に変えて、女子のグループLINEに「こんなん、反則やわ」とのメッセージともにひなちゃんの写真を投稿した。次の日、クラスの女子からものすごい反響があった。何故か男子の間でもひなちゃんの写真が共有されていたのは仕方がないことだと思った。あれだけかわいいんだから。でもひなちゃんはあたしが独り占めにするからね。誰にも渡さないよ。みんなが騒ぐ一方でひなちゃんは「こうなると思っていたわ」と何だか一人あきらめの境地に達していた。
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