第93話 2年3学期は

文字数 1,792文字

 3学期が始まった。朝、登校してくると廊下に「2年3学期は3年0学期」ってポスターが貼ってあった。明日はテストやし、何だかせわしいなぁってあたしは嫌な気分になりながら、先に登校していた佐藤さんの席に行って「おはよう、佐藤さん」と挨拶をした。
「お、お、おはよう。…か、鹿渡さん」
「明日テストやろ? 勉強した?」
「あ、あ、あんまりしてない。じ、じ、自信ない」
「あたしもや。今回はひなちゃんと勉強会も出来へんかったし」
「そ、そ、そうやね。せ、せ、成績…お、落ちるかも」
「あたしもやわ。しかしなんでいきなりテストやねん」
そんな話をしているとひなちゃんが登校してきた。ひなちゃんはあたしたちにおはようって言って「なんか深刻そうな顔して、なんかあったん?」と聞いた。
「明日テストやろ。それが嫌で」
「そんなん言ってたら3年になればもっと増えるで」
「わかってるけど、それは言わないで。朝から憂鬱や」
すると松本と山崎と佐竹が登校してきて、あたしたちにおはようと挨拶した。
「どうしたん、鹿渡。なんかあったん?」と山崎が聞いてきた。
「どうもこうも、明日テストやろ。もう嫌で嫌で」
「ひなちゃんに勉強見てもらってたんやから、大丈夫ちゃうの?」と佐竹が言う。
「それは2学期の話や。あれからどれだけ月日が流れたと思ってるん」
「大げさやで、鹿渡さんは」と松本が言うと西野君が登校してきた。松本が固まる。西野君はあたしたちのところに一直線に来て「おはよう。なんかあったん?」と聞いてきた。
「何もないで。ただ鹿渡が明日のテストが嫌やって駄々こねてるだけや」
「ひなちゃんと基礎固めやったやろ。そんなに心配することやないで」
「西野君はあたしがアホの子やって知らんからそんなこと言えるねん」
「冬休み勉強せんかったんか?」
「あんまりしてへん」
「アカンでそれは。勉強は毎日コツコツとやらんな。なぁ、ひなちゃん」
「そうやな、あいだ空いたら記憶が定着せえへんもんな」と言うとチャイムが鳴り、みんな自分の席に戻って行った。

 3人での帰り道あたしはひなちゃんに聞いた。
「なあ、ひなちゃん。あの廊下に貼ってた2年3学期は3年0学期ってどういう意味なん?」
「わ、わ、私も…き、気になる」
「受験のための心の準備しろ的なのかな?」
「まあ、それもあると思うけど。違う意味もあるんちゃう」
「それってどういう意味?」
「進学実績をあげたいねんな、学校は」
「進学実績ってみんな何らかの高校行くで」
「ほら、今は学校ごとに学力テストの結果を公表するようになったやんか?」
「よくわからんけど、そうやな」
「昔はなかってん。でも今は基本的に公立中学校も自由に選べるから」
「そんなもんなん。あたし鳳やったら鳳中って思ってた」
「わ、わ、私も、そ、そ、そう思ってた」
「今はそんなに激しくないからな。でも先生側からしたら、いつ中学の進路実績を公表せんなあかんってなるか、不安なんやろな」
「でも、進路実績なんて、みんな高校進学やないの?」
「それが塾みたいに何々高校何名とか、具体的じゃないと公表する意味がないからやな」
「なんでそんなことするん?」
「1番は政治が異常に競争させたがることかな。そしたら中学校でも生徒の奪い合いになるから進学実績が重要になるねんなー」
「なんでそんなことするん」
「実際公立高校でも起きているけど、合併とか廃校とか、とにかく教育予算を減らすことなんちゃうかな。俺もよくわからんけど」
「わ、わ、私、自転車でい、い、行ける、こ、公立高校にい、い、行きたい」
「それはあたしもやわ」
「来年度から、大阪の高校の授業料免除になるし、公立高校は定員割れになるところも多いんと違うかな。そうなると自転車でいける高校なんてほぼなくなるよ。まだ堺市はマシかもしれんけど、もっと田舎の方に行けば統廃合や廃校は必ず起きることと思うで。でも俺たち世代の公立高校志願者はまだ何とか逃げ切れるやろ」
「そうなんや。授業料無償化ってええとこだけやないんやな」
そんな話をしていると佐藤さんと別れる交差点に着いた。佐藤さんは手を振って笑顔で歩いて行った。でもあたしはどうしても気になっていることをひなちゃんに聞けなかった。ひなちゃんは公立志望なの私立志望なの? どこの高校に行きたいの? これを聞いてしまうとあたしとひなちゃんの距離が大きくなってしまいそうで、あたしは怖くなり口をつぐんだ。
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