第34話 ひなたを招待

文字数 1,708文字

 最近、お父ちゃんがひなちゃんをうちに呼べとうるさい。あたしは鬱陶しがって無視していたけど、今日の夕食のときにまたお父ちゃんがひなちゃんをうちに呼べとしつこく言った。
「そんなん、お父ちゃんがひなちゃんと直接会いたいだけやろ」
「そらそうやけど、弘子がいつもお世話になっているし、親として挨拶くらいはしておきたいやん。それに上野さんより数倍かわいい」と言ったところでおかあちゃんがまたお父ちゃんの脇腹にパンチを入れた。お父ちゃんは脇腹を押さえて「うっ」って唸っている。何度やられても懲りないなとあたしはお父ちゃんに呆れる。だけど上野さんって誰? そんなことを思っているとおかあちゃんが冷静にあたしに言う。
「母ちゃんもひなちゃんと会いたいなぁ。弘子がこんなに仲良くしている子なんて初めてちゃう? 期末テストが終わったら1度うちに呼んで欲しいわ」
「おかあちゃんまでそう言うんやったら、今度ひなちゃんに聞いてみるわ」
「おっ、生ひなちゃん登場か。楽しみやな~」
「お父ちゃん、キモい」
「キモいはやめてや弘子。父ちゃんは純粋にかわいい子を見て癒されたいだけやねん」
「だからその発想がキモいねん」とあたしは言いながら、自分自身もひなちゃんに対して同じことを感じているのはキモいのかなって思った。するとおかあちゃんがあたしに厳しい現実を突きつける。
「それはそれとして弘子はまず期末テスト頑張らんなあかんな。ひなちゃんは頭ええんやろ。少しはひなちゃんを見習いや」
「わかってるって。ひなちゃんに勉強教えてもらうから」と言い返すのが精一杯だった。この頃、学校以外で勉強していないのはあたし自身が1番良く知っている。ひなちゃんに頼んだら、放課後に勉強教えてくれるかな? なんてぼんやり考えた。

 次の日の休み時間にあたしはひなちゃんにさりげなく聞いてみた。
「なあ、ひなちゃん。うちのお父ちゃんとおかあちゃんがひなちゃんと会いたいって言ってるんやけど」
「えっ、なんで? 俺、鹿渡になんかした?」
「そういう意味じゃなくて。なんかいつもお世話になってるから1度直接会って挨拶したいんやって」
「俺、鹿渡のお世話なんかしてへんで」
「とにかく期末テスト終わったら、うちに遊びにこえへん?」
「いや、俺男やし。女の子のうちに一人で遊びに行くってまずいやろ」
「ひなちゃんはもう女の子でもいいやん。あたし全然気にせえへんから」
「いや、俺が気にするって」
「そんなん関係ないやん。期末テストが終わったらうちに遊びに来てや」
「鹿渡としゃべるのは俺も楽しいしええんやけど、いきなり鹿渡のうちか? ハードル高ない?」
「もう暑いし外でおしゃべりするのもきついやん。あのベンチも木陰にならんようになってきたし。部屋の中の方が涼しくてええやん」
「そこまで言うのなら行ってもええけど。なんか持って行く?」
「そんなんいらんって。手ぶらで来て。ひなちゃんは西野君のうち行くときなんも持って行かんやろ。それと同じ」
「そんなもんなんかな?」
「うん、そんなもん」
ひなちゃんはしばらく考えているようだったけど、なんとなく納得したみたいだった。
「だからひなちゃん、期末ヤバいから勉強教えて」
「あっ、そっちが目的か。別にかまわんけど」
「期末まで放課後とか学校残れる?」
「なんか補習みたいやな。しばらく真面目に勉強するか、鹿渡」
そんな話をしていたら、松本と山崎、佐竹のいつものメンバーがやってきて「ひなちゃん勉強教えてくれるん?」と聞いてきたのであたしは誇らしげに「特別だよ」と答えた。すると山崎が「うちらもまぜてや。なあ、佐竹」と言い「そうやな。ブラバンは休んでテスト勉強するか」と答えた。ひなちゃんが「そやな勉強会やな」と2人をあっさり受け入れたのであたしは少しひなちゃんにムッとした。せっかくあたしだけに勉強を教えてくれるはずだったのに何でこんな簡単に他の子を受け入れるん。ひなちゃんはあたしだけのものなのに。山崎も佐竹も遠慮ってものを知れよと腹が立った。しかし西野君が来ないからか松本は「私は部活に行く」と勉強会を断った。そこは絶対ぶれないんだね松本は、って何故かあたしは妙に感心してしまった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み