第23話 おにぎりとから揚げ

文字数 1,738文字

 最近のひなちゃんはお昼になると当たり前のようにあたしの机の横に机を並べて、お弁当を食べるようになっている。2軍女子のメンバーもひなちゃんは女の子同士で一緒に食べるのが当たり前って感覚になっているけど、西野君はやっぱり男子でちょっと慣れない。特に西野君のことを好きな松本はLINEでは嬉しいとか言うのに、いざとなれば西野君に話しかけられない。でも西野君はそんなのお構いなしにあたしたち2軍女子と普通に接してくれる。あたしはそんな西野君のフランクなところが案外好きだ。だけど、ひなちゃんには到底及ばないけど。
「今日はひなちゃんのご飯はおにぎりなんだぁ。のりたまかかっていて美味しそう。」
「たまにはな」
「西野君は普通にご飯にのりたまかぁ。ひなちゃんのお母さんもいろいろ工夫しているんだね」
「なあ、おにぎりの具って何が好き? 私は梅が一番やな」と山崎が突然聞いてきた。佐竹が「私は鮭かな? でも明太子も好きやで」と答えたのであたしは「ツナマヨかな」と言うと、ひなちゃんが「俺もツナマヨ一択やな」とあたしに続いた。それを聞いて今度ひなちゃんにツナマヨのおにぎりを持ってきて食べさせてあげようかなと思ったけど、ひなちゃんは食が細いのでそんなに食べられないかと思いなおした。それにツナマヨってツナの油をちゃんときらないとあかんから意外に手間がかかるんだよね。
「新太は昆布やろ、小学生の頃うちでご飯食うとき昆布だけでお米おかわりするくらい食べていたもんな」
「そやな、昆布やな。愛さん、未だに弁当に昆布入れてくれるし大好きやな。松本は?」
そう聞かれた松本は小さな声で「私も昆布かな」と答えて「おっ、仲間やな」と笑う西野君の顔も見ずに下を向いて嬉しそうな顔をした。あたしは「嘘つけー」と心の中で突っ込んだ。お前高菜やろーと思いながらも、これが恋する女の子なんだなとも感じていた。嘘をついてまで好きな人の趣味に合わせるなんてあたしには到底できないことだから。
「みんな部活がないときに学校前のファミリーマートでおにぎりパーティしようか?」
「それは無理やって。部活がない日かぶることないし、運動部と私らブラバンが帰りの時間かぶることもないわ。それに鹿渡やひなちゃんは私らが終わるまで待っといてくれんか」と山崎が言ったので、あたしは「それは無理や」と答えてみんなで笑った。

 お弁当を食べ始めると西野君があたしのお弁当をじっと見つめて「なあ、鹿渡。その唐揚げ鹿渡の手作りなんか?」と聞いてきた。なんでそんなことを聞くのだろうと思いながらもあたしは「そやで」と答える。
「これ、愛さんが作った弁当やけど、その唐揚げと鹿渡の好きなおかずと交換せえへん?」
「別にええで。でもせっかくひなちゃんのお母さんが作ってくれた弁当やから西野君が全部食べや。唐揚げならあげるよ、昨日の残りやけど」と言って私は西野君の弁当箱にから揚げを1個入れた。
「ありがとな」と西野君があたしをまっすぐ見て笑う。直視されたあたしは何だか恥ずかしくなって、ひなちゃんに向かって言う。
「ひなちゃんはいる?」
「俺はええわ。鹿渡の食う分がなくなってしまうやん」とひなちゃんはちょっと不機嫌そうな顔をした。えっ、なんかあたし悪いことでもしたのかなと思ったけど、そんなひなちゃんもかわいいなと思えてしまう自分はひなちゃんのことが大好きで仕方ないんだろう。
「柔らかくて美味しいな。俺今まで愛さんの料理が世界で一番美味しいと思っていたけど、鹿渡の料理もかなり美味しいわ。ホンマすごいな」
「それな、隠し味にマヨネーズ使ってるねん。だからお肉が柔らかいんよ」とあたしはちょっと誇らしげに言う。するとひなちゃんはそっぽを向いてしまった。もしかしてひなちゃん嫉妬しているのかな? でもそんなわけないかとあたしはあまり気にせずお弁当を再び食べ始めた。

 その日の夜、松本からLINEがあり「私も料理始める」って。ほんとに恋する女の子は強いなと思っていたら「鹿渡には負けないから」となんかあたしに対抗意識をむき出しにしてきたのが少し笑えた。「あたしは西野君のこと、何とも思ってないよ」と返信して、そういえば清水亜季も西野君のこと好きだったなとあたしはぼんやり考えていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み