第85話 おもわぬ成果

文字数 1,393文字

 放課後残っておしゃべりをしていたけど期末テストも近いこともあり、あたしとひなちゃんと佐藤さんの勉強会にだんだんシフトチェンジしていった。佐藤さんもあたしよりはいいけどあまり成績は良い方ではなく、ひなちゃんの個人授業がわかりやすくて楽しいと言っていた。佐藤さんが言うにはわからないところがあってもためらって先生とかに聞けなくてわからないままにしていたからだそうだ。だから遠慮なく何でも聞けるひなちゃんがいいと言う。あたしなんてひなちゃんに聞いてその場でわかっても次は忘れているけどね。ホンマあたしアホの子や。佐藤さんはちゃんと理解できるのに。

 そんな感じで期末テストまで勉強会を行っていた。そして期末テストは終わり結果が返ってくるとあたしは驚いた。このあたしが学年265位!! 嘘やろ、あたしホンマにアホの子やねんで。佐藤さんも自己最高の213位だったって。ひなちゃんが1位なのは当たり前やけど、なんであたしこんなに伸びたん? もちろんひなちゃんの教え方がうまいのはあるけど、実は佐藤さんよりひなちゃんを少しでも独占したいと思って少しでもわからないことはひなちゃんに聞きまくっていたからかなぁ。佐藤さんは吃音があるのでひなちゃんに質問するのに時間がかかるから。あたしってひなちゃんに関しては誰よりも貪欲なんやなと自覚する。

 お弁当の時間にいつもの4人で食べていると自然に期末テストの結果の話になった。西野君が切り出す。
「俺は36位と前より上がったけど、みんなどんな感じやった?」
「あたしは上がったよ。ひなちゃんに勉強教えてもらったおかげや」
「わ、わ、私も、あ、あ、上がった。…ひ、ひ、ひなちゃんがおし、おし、教え方、う、う、うまかったから」
「俺はそんな特別なことしてへんぞ。基礎を復習しただけや」
「そやな~。愛さんも哲也さんも基礎を固めろって言って俺も何度も復習したもんな」
「そんなに基礎を固めるの大切なん?」とあたしは西野君に聞く。
「建築でも野球でもそうやけど、基礎がちゃんとしてないと応用はないよ」
「そんなもんなんやな」とあたしが答えると隣グループで弁当を食べてた山崎が急に話に割り込んできた。
「西野、建築ってそっちの方面の大学に進むん?」
「ああ、俺か。俺は今のところ建築学科のある大学に進む気はないよ。高校で建築を学べるところに行きたいねん」
「西野ほど頭良かったら進学校に行けるやん」
「それは可能性としてはあるかもしれんけど、俺これ以上親父に迷惑かけたくないねん。仮に大学行くとしたら社会人になって自分でお金貯めてからやな」
「だそうですよ、松本」と山崎は意地悪な顔をして松本に話を振るけど、松本は無言で下を向いたままだった。そんな松本を見ていると、あたしは絶対ひなちゃんと同じ高校に行けないことをひどく痛感して、心が疼いた。そうなんだ、あたしたちこのままではいられないんだ。そんな負の感情があたしを侵食する。するとひなちゃんが突然話し出した。
「中学の頃の友達は社会的な立場は変われど、一生もんやって父さんも言っていたし、そんなに深く考えることじゃないちゃう」
「そやな、今から深く考えても先のことはわからんしな」と西野君は言った。
「そやで、今はみんなで楽しくやろう」とあたしは返したが「将来」って単語があたしたちに深く乗りかかってくる時期を迎えたことは有無を言わせずに恐怖を感じた。
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