第65話 いじめ発覚

文字数 1,802文字

 放課後にさえちゃん先生からあたしは呼び出しを食らった。ひなちゃんにそのことを言うと「俺は教室で待ってるわ」と言ったので、あたしは早く用を済ませてひなちゃんと一緒に帰りたいなと思いつつ職員室に行った。さえちゃん先生はあの風景画を文化祭で展示したいとあたしに言ってきたけど、あの絵はあたしにとって特別だから展示する気はないし、他の人に見せる気もないと断った。それでもさえちゃん先生は粘って展示するようにお願いしてきたけど、あたしは早くひなちゃんと一緒に帰りたいから「考えておきます」と言って逃げるように職員室から飛び出してひなちゃんの待つ教室へと向かった。すると女の子が泣いている声が聞こえてきて、それがあたしたちの教室からだと分かったあたしは速足で教室へと急ぐ。教室に入ると佐藤さんがひなちゃんに抱きついて泣いていた。あたしはイラっとして「何してるん、佐藤さん!」とひなちゃんから佐藤さんを無理やり引き離した。ひなちゃんもひなちゃんだ。あたし以外の女の子に抱きつかれるなんてと怒ろうとしたらひなちゃんが冷静にあたしに言った。
「鹿渡、このノートを見てみろ」
あたしはひなちゃんからノートを受け取りぱらぱらとページをめくると、そこにはあたしが今後の人生でも絶対口にしないような言葉がたくさん殴り書かれていた。あたしは怒りに満ちてくる。
「いじめや。こんなひどい言葉、ノートにたくさん書きつけられてたんや」
あたしは佐藤さんが1軍女子からよく絡まれているなぁ程度しか認識していなかったけど、実際はこんなひどいいじめが行われていたなんて…。あたしの横で小さくなっておびえている佐藤さんをぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね、佐藤さん。あたしアホやから佐藤さんがこんなことになっているに気づかないで。ごめんね、こんなに近くにいたのに今まで何もできなかって」と優しい声で謝る。すると佐藤さんはあたしの胸でまた大きな声で泣き出した。あたしは佐藤さんの頭をなでながら「これからは大丈夫やから」と言って佐藤さんが落ちくまで抱きしめていた。ひなちゃんはその様子をとなりで黙って見ていた。

 落ち着きを取り戻した佐藤さんにひなちゃんが言う。
「ホンマにごめんな。同じクラスやのに俺気づいてあげれなくて」
「…ううん。…わ、わ、わたしこそ、ご、ご、ごめんなさい」
「なんで、佐藤が謝る。佐藤は何も悪いことはしてないんやで」とひなちゃんは言ってあたしに聞く。
「鹿渡は心当たりあるん?」
「最近清水さんたちがよく佐藤さんに絡むなとは思っていたけど、まさかこんな事態になっていたなんて思ってもみなかったわ。あたしがしっかりしていたらこんなことにはならへんかったのに、ごめん」
「だから、鹿渡が謝ってどうするねん。問題の解決にはならんやろ」
「あたし、清水さんたちに抗議するわ」
「それはアカン。もし火に油を注ぐような事態になったら、余計に佐藤がいじめられる」
「なら、先生に言うわ」
「それも一つの手やけど、学校が相手してくれへんかった場合、佐藤はどうなるねん」
確かに学校はきっといじめはないと言うだろうなと報道とか見てるとあたしもそう思う。
「清水か…。なあ、佐藤。今日から俺たちと一緒におらへんか? もちろん新太も一緒や」
「…で、でも、…私と…い、い、一緒にいたら、ひ、ひ、ひなちゃんまで…いじめら、ら、られる」
「そんな心配佐藤がせんでええから。佐藤がいじめられへんのが1番大切やろ」
「そやで、あたしもそう思うわ。あたしたちが佐藤さんを守っていくから気にせんどって」
あたしもそう言って、佐藤さんを軽く抱きしめる。佐藤さんはさっきみたいに強く緊張してはいないみたいだった。
「清水たちなら新太がいたら手を出されへんからな」とひなちゃんは言った。意外にひなちゃんも見ているところは見ているんだとあたしは思った。
「今日はあたしたちと一緒に帰ろう。佐藤さんのうちはたしか南小の近くやったね」と佐藤さんに聞くとこくっと頷いて「お、お、鳳公園の近くの…マ、マ、マンション」と答えた。
「それならあたしたちと途中まで同じ道やからこれからも一緒に帰ろうか?」
「そやな、俺もそうした方がええと思うよ」
「あ、あ、ありがとう…、か、か、鹿渡さん、ひ、ひ、ひなちゃん」と佐藤さんは泣きはらした顔に笑顔を浮かべた。そのか弱い笑顔を見て、あたしはこんなことをする清水亜季が大嫌いやと心から思った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み