第72話 何になるかな

文字数 1,571文字

 ウイングスの敷地内に入るとすぐにパチンコパンドラがある。しかしここも閉店することになった。
「なあ、ひなちゃん。ここのパチンコ屋がなくなったら、何になるんやろうね」
「うーん、駐車場を広げるんとちゃうか?」
「そやね、いつも駐車場満車やもんね」
「ここの土地にお店を新しく開く意味ないしな」
「確かにウイングスあるもんな。パチンコのお客さんと買い物にくるお客さんでは客層が違うしな」
「パチンコ屋さんも厳しい時代やからな。どんどん淘汰されていくわ」
「そう言えば、マツヤデンキの後はパレットっていう衣料品店が入るな」
「ダイエーの衣料品が少なくなっとったんで、それはなんとなく予想はついたけどな」
「でも、公園横のビルは何になるんやろう」
「あのつくりは明らかになんかの商業施設やろ。やけど、ウイングスとかダイエーに商売被せてくるとは思えんからなぁ」
そう言いながらあたしとひなちゃんはおりいぶ公園に向かう。東出入り口を越えれば、駐車場に続く道の横断歩道を渡って公園に向かう。ここの横断歩道はひなちゃんが言うには危険地帯だ。歩行者を見れば止まってくれる車が大半だが、突っ込んでくる危険な車も多い。出口側は2車線で、平面駐車場に続く道と出口しかないのでまだ見通しが良い。でもこれを渡り安全地帯の次の入り口側は3車線になっていて、それぞれ平面駐車場、屋上駐車場、業者用と別れていて見通しが悪い。一方の車が譲ってくれても違う車線の車が突っ込んでくることも多い。5メートルほど行けば発券機があって強制停車させられるのに。今日は前の車が譲ってくれたのであたしは速足で歩こうとするとひなちゃんがあたしの腕をつかんで「危ない!」と止めた。するととなり車線を車が駆け抜けていった。
「ここは前の車線の車が譲ってくれてもとなりの車線から突っ込んでくることがあるから、速足で渡ろうとすると危ないんやで」
「ごめん、ひなちゃん」
「鹿渡が無事ならええけど、ここ私有地やから道路交通法が適用されるか俺もわからんから、ホンマ気を付けや」
「わかった。気を付けるわ」
そんな話をしながらいつものベンチに座った。ひなちゃんはリックから水筒を出してジャスミンティーを飲む。あたしも水筒を出して一口飲む。
「それにしても、ここのビル何が入るんやろうな? 三階建てやろ。病院とかかな?」
「わからんわ。本屋とか入ってくれたら嬉しいけど」
「本屋はダイエー系列のアシーネが撤退したからまずないやろうな。うちの母さんが愛用していたらしいから」
「そうか…。それならジムとかかな?」
「それはあり得るな、でも鳳にジム多すぎへん?」
「確かに駅前にもアリオ近くにもあるしな」
「駅横の踏切越えたとこにもあるで。昔は100円ローソンやったわ」
「そうか、ジムも競争激しいんやね」
「ホンマ何になるかわからんわ」
そう言ってひなちゃんは真面目な顔をしてあたしに言う。
「鹿渡は将来何になるか考えてる?」
「考えてるってか、おかあちゃんみたいに高校卒業して、就職して、いずれ結婚して子育てがひと段落したらパートかな」
「そうなんや、俺なんかまだ大学に行くくらいしか考えてへんわ。鹿渡はしっかりしてるねんな」
「しっかりしてるっていうか、あたしそれしか道が思い浮かべへん」
「それでも俺よりははるかに将来のこと考えてるわ。俺なんて大学って言っても文系か理系かすらも考えてへんもん」
「ひなちゃんのご両親は特殊だからね」
「俺、まだなんとなく、こうやって鹿渡と一緒にいられたらな~くらいしか考えてないわ」と空を見上げる。
そのひなちゃんの言葉にあたしは嬉しくなり、そっとひなちゃんの右手を握る。
「あたしだってそうや」
将来あたしたちは何になるのだろうと漠然とした不安も感じながら、あたしも今だけはひなちゃんから離れたくないなとひなちゃんの小さな身体によりかかった。
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