第30話 弘子と両親

文字数 1,752文字

 明日は土曜日でカレーにしようと決めていたあたしは朝冷蔵庫の食材をチェックして、お父ちゃんのおつまみくらい買って帰ろうと、残高の少ないWAONカードをもって学校に行った。学校の帰り、ひなちゃんとダイエーによってお父ちゃんの鳥皮のから揚げ3割引きとジャスミンティーのペットボトルを買った。ひなちゃんはお気に入りの生クリームとカスタードのシュークリームを買って、おりいぶ公園のベンチでおしゃべりをしていた。今年は本当に暑い。いつもの500mlの水筒では持たないなと思いながら、ちょっと嫌だけどお父ちゃんの1000mlの水筒を使うことをあたしは決心した。ひなちゃんはもうすでに1000mlの水筒を使っている。満足そうにシュークリームと水筒のジャスミンティーを飲むひなちゃんを見て、幸せな気持ちになってあたしもジャスミンティーを飲む。この香りにもずいぶん慣れてきた。そんなときスマホのアラームが鳴った。もううちに帰る時間だ。あたしはひなちゃんと別れ、うちに帰っていると作業着姿のおかあちゃんが自転車であたしを後ろから抜いて行った。「弘子、今帰り?母ちゃん先に帰っておくね」と言うとおかあちゃんは立ち止まることなく自転車で颯爽と行ってしまった。あたしは速足でうちに戻りオートロックのドアを開けて部屋に向かい、ドアを開けるとおかあちゃんは掃除機をかけていた。「あたしがやるのに」と言うとおかあちゃんは「弘子ばかりに負担をかけさせたくないから」と掃除を続ける。私は手洗いうがいをして冷蔵庫に鳥皮を入れて、制服を着替えて部屋着になった。夏服のスカートは念入りにファブリーズをかけて部屋干しにして、スクールシャツと靴下を洗面所の洗濯かごに入れた。洗濯はお父ちゃんが帰ってきてからお父ちゃんとおかあちゃんの作業着などをまず洗濯乾燥する。それから普通の衣類を洗濯乾燥する。おかあちゃんはパートなので残業はない。お父ちゃんもほとんど残業がないので、草部(くさべ)の会社から遅くても7時までには帰ってくる。その間にあたしはご飯を炊き、料理を作る。今日は明日のお弁当がないから簡単にカレーにする。掃除を終えたお母ちゃんは「疲れた-」とリビングのソファーに横たわるけど、あたしと同じく身体が大きいからソファーからはみ出している。そんな感じでお母ちゃんが休憩しているとお父ちゃんが帰ってきて「弘子、今日はカレーか」と大きな声で言う。するとお母ちゃんが立ち上がりお父ちゃんの作業着を脱がして一度目の洗濯を始めた。

 「弘子、最近帰ってくるの遅いけど何かやってるの?」とおかあちゃんがあたしに聞いた。
「うん、友達とおしゃべりしているねん」
「そうか中2とか高2って学校にも慣れて、3年みたいに進路を考えんでいいから一番楽しいときやしな。弘子も無理せんと友達と楽しんだらええんやで」
「ありがとう、おかあちゃん。でもあたし家事も好きやねん」
「中学のときの友達は一生もんやからな。大切にせんなあかんで。父ちゃん今でも中学の友達と飲みに行ったりするからな」
「男の人はね。女は結婚したら鳳を出ていくし子育てに追われるしで、疎遠になるものなんやよ。母ちゃんみたいに鳳を出ず、子育てもおばあちゃんが手伝ってくれるのなんて稀なんだから」
「でも中学の友達って大切にせんなあかんで。鳳小の子なんか?」とお父ちゃんが聞くから、「そうやで」とあたしは答えて、スマホの写真を見せた。
「すごいかわいい子やな~」とお父ちゃんが期待通りの反応をするのであたしは嬉しくなって、カットモデルのときのひなちゃんの写真を見せた。
「これ絶対高校のときの上野さんより数倍かわいい」とお父ちゃんが言ったところで、おかあちゃんがお父ちゃんの脇腹にパンチを入れていた。お父ちゃんはしばらく動けなくなった。2人に何があったろだろうか一瞬怖くなったけど、無事に食事を終えてあたしは軽く食器と弁当箱を洗い食洗器に入れた。水筒を洗い終えるとおかあちゃんが「弘子、お風呂入りなさい」と声をかけてきた。お父ちゃんはテーブルに座ったままで鳥皮とお気に入りの金麦を飲みながら、テレビを見ていた。

 あたしはお風呂に入りながらも、このせっけんってひなちゃんが好きな香りなんだよね、とひなちゃんのことを考えてにやにやしていた。
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