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文字数 971文字
――どうやら少しうたた寝をしてしまっていたらしい。
いわゆる寝落ちをしてしまっていたようだ。
気が付けば、陽の光の位置が記憶にあった位置よりも高くなっている様子が見えていた。
……いや、どういうことだよ。
沈んでいく陽の光を見ていた方角を向いたまま眠っていた。それはまぁいいとしよう。しかし、その方角から陽が登ってくるのはいくらなんでもおかしかろう。自分で言っていていまいち納得できない事象なせいか――どうにも背中がむず痒くなってくるような、全身を撫で上げるような違和感があるのだけど。
……あぁ、よくよく考えればここは違う世界なんだったっけ。
寝起きのせいか失念していたが――そういえば、今は違う世界に居るんだったかという事実を思い出して。それならそういうこともあるでしょうよと、深く考えることなく事実は事実として受け入れることにした。
細かい違いにいちいち驚いていては、身がもたないだろうと判断したからである。
とは言え、あらゆる事象をそのように流せるわけではない。気付いている事実に気付かない振りをし続けることは、存外難しいものである。
要は何事にも限度がある、という話であり。
具体的に言うと――さっきから横でばたばたとうるさく暴れているものが気になって仕方ないという話なのでした。
「…………」
いやまぁ、そう思うと同時に、そちらを見てしまうと面倒くさい何かを目にすることになる気もしたから。できれば見ずに済ませたいなぁと考えて、視線を向けないように努めていたわけなんですけどね。
私の記憶が正しければ、この音が聞こえる場所には確かナビくんが居たはずなので――いつまでも放置するわけにもいかないのが何とも言えないところです。
……他に選択肢がないのがつらい。
心の中でそんな風に嘆きながら溜め息を吐いた後で、仕方が無いと諦めて音源へと視線を向けてみる。
するとそこには――なぜか網に捕らわれたような姿のナビくんが居た。
「……何をしているんだい? ナビくん」
本当にどんな理由や経緯でそんな状態になったのか、まるで意味がわからなかったので今ももがき続けている彼女にそんなことを聞いてみたのだが。
「私にもわかりませぇんー!」
彼女は涙目になりながら、叫ぶような勢いでそう答えてくるだけだった。