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文字数 1,551文字
そんな風に、気にしない方がいい事実を考えたり考えなかったりしつつ歩いていると。ほどなくして、件の売店に到着した。
そして売店に到着するやいなや、ナビくんはもうダメと言わんばかりの勢いで、すぐ傍の堤防にもたれかかって脱力してしまったのだけれど。
まぁこれは、私の勝手に彼女がかなり無理をしながら付き合ってくれた結果であって、彼女がだらしない人間だということではないだろう。
……個人的には、そこまで長時間歩いていた感覚はないが。
そのあたりは口にしないのが一番だろうと、そう思うことにして。
とりあえず、私は気持ち急ぎ気味に売店でジュースを二つ購入してから、彼女の元に戻ると、堤防の縁に腰掛ける彼女の姿が見えたから。
「おつかれ、ナビくん。――ほら、これは君の分だ」
私は彼女の隣に腰を下ろしながら、買ってきたジュースを彼女の目の前に差し出した。
彼女は少し戸惑うような様子を見せてそれを受け取ろうとしなかったけれど、私が受け取るように視線で促すと、礼を言いながら申し訳なさそうに受け取った。
そのことに満足しながら、私は買ったジュースを一口含んでから彼女に聞いてみる。
それは、今までの経緯と彼女の様子から浮かんだ疑問で。
「ナビくん。私は先ほど聞いた話からして、この世界の人間は疲れ知らずだと認識していたのだけれど。
もしかして、それは間違いだったりするのかな?」
そうでなければいいと、そう思っていた質問だったのだけれど。
彼女はこちらの質問を聞くと、ああ、と何かに納得するように頷いてから言った。
「……はい、違います」
どうやら間違いだったらしい。
それは悪いことをしたなぁ、なんて考えていると、彼女が言葉を続けた。
「ただ、来訪者の方の中にはそういう方もいるという話を聞いたことがあります。もしかしたら、佐藤さんはそういう特殊な方なのかもしれませんね」
それは彼女なりのフォローだったのかもしれないし、ただの事実だったのかもしれないが。
……この場合はどちらでもいいか。
そんな風に考えながら、私は会話を続けることにする。
「もしもそうなら驚きだけれど。それはさておき。
……疲れたのであれば、途中で言ってくれればそれでよかったんだよ?」
「……何か考え事をしていらっしゃるように見えたので」
「まぁ何も考えていなかったかと言われれば嘘になるけれど。それも最初のうちだけだし。そもそも散歩自体が、ただの暇つぶしだよ」
「そう、だったんですか……」
なら言えばよかった、という小さな呟きが聞こえた気がした。
……いや、本当にその通りだよ。
そんなことを考えながら、その呟きは聞かなかったことにしておいて。
ナビくん、と呼びかけた上で言葉を続ける。
「とりあえず、本格的に観光をしたりするのは明日からにしようと思う。もう随分日も傾いてきたからね」
そう言って、私は正面にある海に視線を移した。
見えるのは海辺と、その水平線の上に見える太陽だ。
――夕焼けの色は、どうやら現実世界と変わらないらしい。
その陽の光は橙色に映り、光っていた。
「では、今日はこの後どうされるのですか?」
「ゆっくり休みたいけれど。話を聞く限りは無理そうだし、ここでしばらくぼんやりしながら考えるよ」
私がそう言うと、彼女はそうですかと頷いてから黙り込んだ。
私は人が居れば話さなければならないと考えるような人間ではないから、この沈黙も別に気にはならないのだが。
……彼女のほうは、どうなんだろうなぁ。
その点が少し気がかりではあったけれど、わざわざ喋って確かめるほどの気は起きなかったから。
そのままぼうっと、日が沈む様子を眺め続けることにした。