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文字数 1,589文字
どんなことがあろうとも、明けない夜はないものだ。
前日に何があろうとも、次の日はやってくる。
「…………」
そんなわけで翌日。水曜日である。
今日も今日とてアラームの音で定刻に起床し、母が用意してくれた朝食を平らげてから、いつもの時間に家を出る。
いつもと違うところがあるとすれば、父が出張を命じられたということで、私よりも早く起きて出て行ったということだろうか。
母が言うには帰ってくるのは三日後になるらしい。
……まぁ父が出張でいなくなることは珍しいことでもないんだけど。
父が居ないという事実を聞かされてしまっては、ただでさえ寝起きで多少低めになってしまっているテンションが更に下がってしまうのは止められなかった。
――こんな風に表現すると誤解されるかもしれないので付け加えておくけれど。
テンションが下がるのは、私がファザコンで父の不在を寂しく感じているだとかそういう話ではない。
単に、母が家事の手抜きをし始めるから困るのである。
いつまでも互いを想い合っている両親には感心するし、そんな関係を築き上げてきた事実に尊敬もしているが、片側の不在による影響があまりにも簡単に出過ぎだと思わんでもなかったりする。
養われている身なので文句を言いにくいのがまた何とも言えない気分にさせられるのだが、それはさておき。
とりあえず、今日から週末にかけての夕食は少しグレードが下がることを覚悟せねばならないのが非常に残念なことだった。一番の楽しみだというのに。
……今日の昼食は大丈夫、よね?
などと鞄の中に入っている今日のお弁当の中身について心配した後で、考えても仕方ないかと溜め息を吐き、通学路をせっせと進むことにした。
八時三十五分。昇降口で内履きと外履きを履き替えて。
八時三十九分。教室の後ろ側入り口をがらりと開いて中に入る。
「……ふぅん」
入って感じた教室内の雰囲気はいつも通り――月曜日と似たような雰囲気で落ち着いていた。
見れば、件の三人はまだ距離感を掴みかねているような雰囲気が見て取れたが、教室内に影響を出さない程度のようだし。
そうであれば、私が気にすることは何一つとしてないので、一瞬だけ止まっていた足を動かして自分の席へと向かう。
八時四十分。教室前方のスピーカーがががっと鳴った後で鐘の音を流し出せば。
「おはよーう、諸君!」
時間通りに動く男、鈴木氏が教室前方の扉から姿を現した。
「では、まず朝の挨拶をしよう」
鈴木氏の言葉があり、それを受けてクラス委員が四個一式の号令をかける。
私はなおざりになりすぎない程度に号令への反応に手を抜きつつ、着席してほっと一息を吐いた。
続いて鈴木氏から本日の連絡が口頭で行われるのを聞いていると、制服のポケットに入れておいた携帯電話が震えるのを感じて、何だいったいと思って画面を開く。
携帯の液晶には二通のメールが届きましたというメッセージがあり、中身を見てみれば――まぁ内容はそれぞれ長かったり短かったりで個性があったものの、二通とも昼食を一緒にどうかというお誘いの文句が書かれていた。
流石に今この場で返信までするわけにはいかないので、メールが来た事実は覚えておこうと、そう考えながら携帯をポケットに仕舞い込む。
「……さて、どうしたものかな」
お誘いは嬉しいのだが、今日は生憎と先約があるのだ。しかも、相手が相手なのでまとめて一緒にどうだろうとは提案しづらい。
そんなわけで、教員からの連絡を聞きつつどう乗り切るかを考えていたものの、 結局いい案は浮かんでこなかったので、
……まぁ、なるようにしかならないか。
あとのことは後で考えようと、そう結論付けて――現実逃避とも言うけれど――随分と贅沢なことで悩む機会が来たものだと吐息を吐いた。