2-16
文字数 1,235文字
――二年後。とある夜。
私はベッドに寝転がりながら、携帯をぽちぽちと弄っていた。
目的はメール本文の作成。
相手は綾子である。
内容は大したことではなく、最近起こった身近な出来事が主となる雑談だ。
彼女は自分で言っていた通り、結構なメール魔であり、夜に出来た時間で時折雑談を振ってくることがあるのだった。
正直なところを言えば、学年が違うので交友が続くとは思っていなかったのだけれど――今もこうして連絡を取り合うことが出来るのはありがたいことだと、そう思う。
……したくても出来ない相手って、いるものだからね。
そんなことを考えてから、若干沈んでしまった気持ちを切り替えるために溜め息を吐き、止めてしまっていた文章の作成を再開する。
そうして送った内容は、最近聞いた恋愛話についてだった。
『なあ、綾子。そういえばつい最近身近に居るバカが高嶺という先輩に告白して振られたらしいんだが、そんな話は聞いてたりするか? 君と同じ学年らしいんだけど』
『それは私のことよ、茜。高嶺って、私の苗字でしょうが。
確かに最近、男の子を振ったわよ。なんか二人の女の子に迫られているとかって聞いたことのある子だったし』
『ああ、やっぱり君のことだったのか。いや、別に苗字を聞いて君のことを連想できなかったわけじゃないぞ? 同じ苗字の人間なんて、いくらでもいるだろうから、自信が持てなかっただけだぞ。本当だぞ?』
『はいはい、そういうことにしておいてあげる』
『おい、疑ってる気配のする文面はやめろ。あとな、そもそも、君は彼氏持ちだから誰かに告白されるって状況が想像しづらいんだよ』
『それはあなただけよ、茜。私は意外とモテるのよ?』
『うるせえリア充。そういえば、最近会ってないけど、恭二のほうは元気なのか?』
『相変わらずのバカよ』
『あいつも元気そうだし、君たちの仲も相変わらずそうでなによりだよ。
ところで、明日は空いてるか? たまには一緒に昼食でもどうだろう? 学食あたりで合流する感じで』
『随分と唐突な話題転換ね。まぁ、いつものことではあるけれど。
一緒に食事をするのは大歓迎よ。明日も昼休みになったらまた連絡するわ。
茜は相変わらずお弁当?』
『ああ、そうだよ。君は作る相手がいなくなって、やめたのかな?』
『意趣返しのつもり? 煽るのはやめてちょうだいな。
今も自分の昼食は自分で用意してるわよ。一人分だけどね!』
『まぁあいつは今寮生活だからな。作って渡すわけにもいかないだろうし、さもありなん。
じゃあ、私はそろそろ寝るよ。また明日』
『ええ、わかったわ。付き合ってくれてありがとう、茜。
明日、楽しみにしてるわ』
ついでに、昼食を一緒に食べる約束をして、メールを終えた。
携帯の電源を落として、部屋の電気を消してから布団に入る。
眠る直前に思うことは、ただひとつ。
ああ、明日が楽しみだなぁというその言葉だけだった。