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文字数 1,240文字
結論を簡潔に言えば、展望デッキで食事を摂ったのは失敗だった。
やはり、観光地そのものに入っている食事処が提供するメニューは、量か味のどちらかが足りない場合が多いらしい。今回は味はともかくとして、量が物足りなかった。
育ち盛りの体にとっては、むしろ空腹感を増す結果になってしまったと言っていい。厄介な。
そして、どうやらこの感覚はナビくんの方も感じていたようで。スカイツリーから出るやいなや、お腹をおさえながらこんなことを言ってきた。
「佐藤さん。……なんだか微妙にひもじいです」
彼女の言葉に、私は素直に頷きを返してから言葉を続ける。
「奇遇だね、私もだよ。
……しかし、これからまた何かを食べるとしても、がっつり食べるというわけにもいかないからねぇ」
「何でですか?」
「……私は食べたら食べた分太る体質なんだよ」
「……現実に戻っても影響無いですよ?」
「こういうのは気持ちの問題なんだ。ここでタガを外すと、現実でもそうなっちゃうかもしれないだろうが」
「そうなんですかねぇ」
彼女は私の言葉に曖昧に頷きを返すと、黙ってしまった。
様子を伺ってみると、どうやらこちらからの言葉を待っているらしい。あくまで彼女はついてくるだけ、のつもりのようだった。
とは言え、すぐに何かを思いつけるかと言われれば、それは難しい。
……どうしたもんかなぁ。
そのまま黙って考え続けること数分。ふと思いついたことを彼女に聞いてみることにした。
「……なぁ、ナビくんや。川崎大師はここから近いのかな?」
彼女は地理関係でも思い出しているのか、視線を上に向けて考えるような間を置いた後で口を開く。
「……んー、ちょっと遠いですけど。歩きでいけない距離じゃないと思いますよ」
正直なところを言えば、彼女のナビ能力には既にケチがついてるのでまるっと信じられるかと言われたら無理だったりするのだけど。
とりあえずは今回まで信じてみることにしようと、そう考えてから言う。
「じゃあ行ってみよう。あそこは葛餅がおいしいんだよね。名前忘れちゃったけど、飴もおいしかったはず。
ここから少し歩くというのであれば、それもまたちょうどいい食後の運動だろうさ。その後で、食べる甘味はきっとおいしいぞ」
「それ以前に、食後の運動しなきゃいけないほどお腹膨れてないんですけど」
「細かい部分は気にしたらダメだ。こういうのは勢いなんだから」
「えぇー……」
「あぁ、それと。今度こそ道を間違えないでくれよ? ――いや、間違ってしまったならそれはそれでいいから、せめて早めにその事実を教えてくれ」
「し、信用度がだいぶ落ちてる!? こ、今度は大丈夫ですから!」
私の言葉を聞いて、彼女は若干泣きそうになりながら慌ててそう言っていたのだけれど。
結局のところは、随分と長く歩かされた後で迷った事実が判明して。
案の定と言うべきか、私が近くを歩いている人に正しい道を聞く羽目になるのだった。