3-19
文字数 1,610文字
ナイトパレードが終わった後の過ごし方には色々ある。
閉演時間までの間を残るアトラクションを回ることに費やすこともできるだろうし、いい時間なのだからどこかで夕食を摂るのもいいだろう。
では、私とナビくんがどういう行動を選択したかと言うと、閉演時間までぼーっと過ごすという、ただそれだけのことだったりした。
本当ならもっと色んなところを回って話をしたいという欲求もあったのだけれど。どうにも気持ちに体がついてこなかったのである。
最初こそ多少疲れたのかなと考えて、仕方なしに適当な軽食を近場で購入してからてきとーなところに腰をすえたのだが――そうした途端にふにゃりと体から力が抜けてしまった。
本格的に頭がくらくらしてきている自分の状態を自覚して、
――なんだ、すごく、眠い……?
「佐藤さん。……佐藤さーん?」
この状態を表すのに適した言葉を探すことに集中してなんとか意識を保っていると、ふいにナビくんの声が聞こえてきて、はっと意識が戻ってきた。
頭にかかった靄を振り払うように、何度か横に振ってみた後で、彼女の方を見て言う。
「ごめん、ナビくん。何か話していたかな。
……だとしたら、すまない。聞いていなかった」
そして彼女の言葉にそう応えると――ぼふっと柔らかな感触が身体を包んだ。
……相変わらず接触の多い子だなぁ。
そんなことを考えながら、口を動かして会話を続ける。
「どうしたんだい、ナビくん」
「こうしたかっただけでーす。佐藤さんはイヤでしたか?」
「慣れたよ。気にしてない」
「随分と眠そうですね、佐藤さん。
……そろそろ、ここからいなくなる時間なんですねぇ」
彼女にはっきりと言葉にしてもらうことで、ようやく自分の体に起こっている異変の正体に気付いた。
「……なるほど、この眠気はそういうことなのか。こちらでの睡眠は、あちらでの覚醒になるんだな。
つまり、今までの間で意識が飛んでいた瞬間は、眠りが浅くなっていた時間にあたるということか」
「そういうことです。……でも、こうしていれば、最後まで佐藤さんを感じていられます」
彼女の言葉を聞いて、私は困ったような表情を浮かべて苦笑する。
「そこまでいくと普通の人間だったらドン引きしてると思うぞ」
「佐藤さんも?」
「私はまぁ――ある程度親しければ別に気にはしないさ。君ならいい」
「えへへ」
そうやって会話を続けている内に、彼女の笑み声を聞いたところで――決定的な眠気がやって来た。
体からぐったりと力が抜けて、頭の頂点が重くなる感じがやってくる。
私に抱きついている彼女も、私の体の変化に気づいたのだろう。倒れそうになるこちらの体を優しく抱きとめてくれた。
「もうお別れなんですねぇ」
「君はまったく役に立たないナビゲーターだったな」
「なにおう!」
「でも、私のナビが君でよかったとも思っている。
君と過ごした時間は楽しかったよ。ありがとう」
「……佐藤さんはずるいなぁ」
悔しそうな、何かを堪えるような彼女の声が聞こえてきたけれど。
……この眠気に抗うのはもう無理そうだ。
そう思って、最後の力を振り絞って手と口を動かす。
「――これを渡しておくよ」
「……お財布、ですか? なんでこんなものを」
「君といつかまた会うための布石だ。その財布を君に預ける。私が、ここで過ごすためのお金は、そこにしかない。だから私がここにまた来たときは、きっと君を見つけ出す」
はっと息を呑む音が聞こえた。
もうまともに目も開けていられないくらい、眠い。
……だけど、最後にこれだけは言っておかないと。
「でもね、財布の中身を、うっかり使いすぎるのだけはやめてくれよ?
次に君と遊ぶときに色々困るから、ね。
――あとはまぁ、おつかれさま」
そしてそう言った自分を自覚した瞬間を最後に、完全に意識が閉じた。