4-11

文字数 1,473文字


 翌日、平日は火曜日。
 学校に登校し、教室に入り、自分の席に向かう。
 今日は机の上に菊の花が一輪、花瓶に挿して置かれていた。
 私を死んだものと見なしたいのだろうか。金もかかるだろうに、よくやるものだと内心で感心する。
 昨日と同じように、机の状態を携帯で撮影して保存した後で、机の中身、椅子と確認する。今日はどうやら、花を置くだけで済ませたらしく、何かされた様子はなかった。
 邪魔だなぁと思わなくもなかったけれど。菊の花はそのままにしておいて、椅子に座って授業を受ける準備を始める。
 当然のことであるが、鞄をチェーンと南京錠で留めておくことと、ICレコーダーのスイッチをオンにすることも忘れていない。
 やがて朝のHRが始まったので、新たに追加された菊の花についてどう思うかを教員に尋ねてみたけれど、やはり私がやったことにされてしまった。
 こういった反応は、他の教員も変わらなかった。
 気を引きたいのかと、そんな風に言われることが多かった。
 そのまま授業を受け続け、昼休みを経て放課後になると、図書室に篭って課題や予習復習に精を出す。
 そして閉室時間の前に図書室を出て、教室に設置したビデオカメラを交換する。
 家に帰れば、ビデオカメラの映像とICレコーダーの音声から資料となる部分を抜き出して保存する作業をこなし。念のためということで、斉藤さんにメールを送ってから、てきとーに時間を潰して就寝した。





 その後も変わらず、水曜日から金曜日にかけて、いじめと思しき行為は続いていた。
 水曜日には机の引き出しに生ゴミを詰められた。
 木曜日には椅子の板に机と同様の悪罵を書かれ、鞄を水浸しにされた。
 金曜日は鞄の持ち手を切断されて、鞄をごみ箱に捨てられた。
 それぞれの出来事について教員にどう思うか聞いてみたが、誰一人としてこの有様をいじめと認めることはなく。木曜日の時点で私の問いかけは無視されるようになった。
 流石に鞄を壊され、捨てられたときには、もう直接手を出して終わらせてやろうか――なんて一瞬だけ頭が真っ白になってしまったものだけれど。
 なんとか自分を宥めて落ち着かせ、証拠集めを続けていた。
 金曜の夜にこの一週間で得られた証拠をまとめた資料を作成し、内容を再確認してから各資料を三部ずつ印刷してファイルにまとめた。また、音声データと映像データについては、無料のファイルアップロードサービスを利用してURLを確保し、どのURLが何のデータかわかるようにリスト化した。
 斉藤さんの作った記事は、金曜の深夜にメールで送られてきた。電話をかけて感謝の言葉を伝えると、斉藤さんは笑みを含む声でこう言った。
『気にしないで下さい。私のしたことが茜さんの役に立てたなら、嬉しいです。
 ――それを使って、茜さんが何をするつもりなのかは聞きません。
 ただ、これだけは言わせてください。
 私はそれが終わった後で、茜さんが何を奢ってくれるのかを、楽しみにしています。ご武運を』
 彼女が寄越した激励の言葉に、私は再度お礼を言ってから通話を切った。
 そして、いじめの主犯やクラスに所属する生徒、私の問いを否定した教員の名前を多少ぼかした――例えば木村ならK村とする――形で記載した名簿表を作って、斉藤さんが送ってくれた記事とURLを記載したリストをまとめて数百部刷ってやった。
「――さーて、と」
 これで準備は整った。
 ここからは反撃の時間である。

 ――おまえらが何を敵に回したのか、教えてやろう。
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登場人物紹介

名前:佐藤茜

特徴/特技:記憶力がいい、割り切りが早い、意思が強い


このお話のネタ元さん、もとい中心人物。

彼女の育ってきた環境に特筆すべき点はひとつもないけれど。

彼女自身が体験した出来事は、"普通"とはちょっとかけ離れているようです。

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