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文字数 1,166文字
「大丈夫、私は意外と度量は大きい方だと自負していてね。
――そういう趣味を持っているのなら、素直にそう告白してくれていいんだよ?」
私の意識が戻ったとわかり、状況を改善する見込みが出てきたためか。もう本気泣きに移行しつつあるナビくんを見ながら、私がそんな言葉をかけてみると。
「違います! そんなわけないじゃないですかぁ!!」
そんな風に、強い否定の叫びが返ってきた。
ですよねー、なんて内心で笑っていると、彼女はその勢いを維持したままで言葉を続けた。
「さ、佐藤さんがちょっと寝てるみたいだったから、ほっぺたを突こうとしてみただけなんですよぅ! そしたらこんな目にー!」
それは有罪。人の意識が飛んでいる間に、何をしようとしているんだ君は。
「アウトじゃないか。君の今の姿は、まさに因果応報の結果じゃないのかな? この世界の神様は随分と仕事熱心なようだね。
……しかし、今の君の状態を見ていると、かすみ網にかかった鳥の画像を思い出すな」
「何ですかそれ、どうしてそんなもの知ってるんですか!? ――と言うか、冷静に見てないで助けてくださいよぅ!」
そんなことを言いながら、網に全身を絡み取られつつも、芋虫のようにもぞもぞと全身を使ってこちらに近づいてくる彼女の姿に、字面以上の威圧感を感じてしまって若干引いてしまったけれど。
「うわぁ……」
「――ちょっと、引かないでください! 助けてくださいぃ!」
つい口から漏れた言葉に本気で泣き出してしまった彼女をこれ以上からかうわけにもいかず。なんとか彼女を宥めて落ち着かせるよう努力しながら、彼女の体に絡みついた網を解こうと触りつつ聞いてみる。
「……ひとつ聞いていいかな、ナビくん」
「何でしょう」
「この網、どこからどうやって現れたんだい?」
「佐藤さんに触った瞬間、どこからともなく一瞬で」
「……これが私の能力だというなら、滅茶苦茶物騒だなおい」
そしてぼやくようにそう言うやいなや――忽然と、彼女に絡まっていた網はものの見事に一瞬で消えてしまった。
「――――」
目の前で起こった出来事に、こちらが驚いて身動きを止めていると。
拘束から解放された彼女は、一瞬で網が消えたことへの驚きよりも体の自由が戻ったことの嬉しさが勝ったのか。
「……っ!」
文字通り飛び上がるように立ち上がってから全身で喜びを表した後で、こちらに頭を下げてきた。そして言う。
「ありがとうございました!」
そんな彼女の様子を見ていると、なんだか驚いていた自分がバカみたいに思えてきたので。
「…………」
とりあえず、なんだか負けたような気分を味わう羽目になった腹いせに、手の届く位置に降りてきた彼女の頭にツッコミという名の八つ当たりチョップを振り下ろしてしまったのだった。