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文字数 1,498文字

「君、ナビと言いつつナビらしいことを全くできてないぞ」
 周囲にいた人間から話を聞いて、目的地へと続く正しい道のりを進みながら、私は隣を歩くナビくんに向かってそう言った。
 すると、彼女は随分とオーバーな反応を見せる。
「ぐさぁっ!! ――こ、こんなひどいことを真正面から言ってくる人が居るなんて、ひどすぎます!!」
 多分に演技がかったその様子を見て、私は溜め息を吐いてから言う。
「私はぐさぁとか自分で言っちゃう人にドン引きだけど。それに、私の言ってることに何一つ嘘はないでしょう。ただの事実です」
「事実だからって何でも言っていいわけじゃないですー!」
「……仮に、君が自分の行動を省みて反省点が全く無いと言い張ったとしても、私は君に謝るつもりはないよ」
「そこまで言ったら謝ってくれてもよくないですか!? なんでそんなに意思が固いんですか!」
「だって私の側に非なんて一切ないし。――ぼやっとしてると置いていくよ」
「ああ、待ってくださいよー」
 そんな風に雑談をしながらナビより役に立つ通行人の方に聞いた通りに進むと、やがて川崎大使が見えてきた。
 とんかんとんかんと、包丁がまな板を軽快に叩く音が聞こえる。
「佐藤さん。このとんかん鳴ってるのって、何なんですか?」
「飴を切ってるのさ。たしか、無病息災かなにかに聞くんだとか、聞いた覚えがあるけど。実際においしい飴だよ」
「ほへー」
「葛餅のお店はいくつかあるけど、食べるならやっぱりお膝元というかなんというか。近いところにあるほうがいいよね」
 言って、私は川崎大師の入り口すぐ脇にあるお店に入った。
 ナビくんも遅れて入ってきて、あの人の連れですからー! と相席――真正面の席に座る。
「別に一人で食べてくれてもいいのに」
「もー、そんな寂しいこと言わないでくださいよー」
「本心」
「ひどいぃい」
「冗談だよ、冗談」
「私をからかうのはそんなに楽しいんですかー、もー」
「反応が楽しいからね。……ほら、もう来たよ、葛餅」
 頼んだのはオーソドックスにきな粉と黒蜜を葛餅にかけたものだ。最近はパフェに混ぜたりとか色々とバリエーションがあるそうだが、私は葛餅といえばこれである。譲る気はまったくない。
 一緒についてきた竹の――なんて言えばいいのだろう、短冊切り? した竹のスプーンで葛餅を切って刺して、きな粉と黒蜜を絡めて食べる。
 ……うん、やっぱり葛餅はいいなぁ。おいしい。
 そんなことを考えながら目の前を見ると、私の食べ方に倣うように、ナビくんも似たような食べ方をして身悶えていた。
「おいしい?」
「おいしいです!」
「それはよかった」
 表情からわかってはいたものの、彼女も葛餅を気に入ってくれたようでなによりだった。自分の好きなものを、一緒に居る相手も好きだと言ってくれるというのは、単純に嬉しいことだからね。
「…………」
 ――彼女がおいしそうに食べている姿を眺めるのが楽しくて、つい手を止めてしまっていたけれど。
 自分で注文した葛餅がまだ残っていることに気付いて、間食を再開する。
 彼女が自分の分を食べ終わる前に食べてしまわないと、彼女を待たせてしまうことになるし。なによりも、物欲しそうな目で見られながら急いで食べる状況になるのは望ましくないからだ。
 食事は楽しく、余裕を持って。
 それが一番大事なことだと、そう思っているからでもあった。
 残っている葛餅を適量に切り取って、黒蜜ときな粉を絡めて食べる。
「うん、おいしい」
 そしてそんな言葉を思わず呟いてから、また一口と、間食を進めていった。

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登場人物紹介

名前:佐藤茜

特徴/特技:記憶力がいい、割り切りが早い、意思が強い


このお話のネタ元さん、もとい中心人物。

彼女の育ってきた環境に特筆すべき点はひとつもないけれど。

彼女自身が体験した出来事は、"普通"とはちょっとかけ離れているようです。

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