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文字数 1,482文字


 私が自傷して気を失ってから二日、意識を回復してから一日という時間を病院で過ごした後で、私は退院して自宅に戻ることになった。
 大事をとって今週いっぱいは学校を休むことになったが、これは母が外に出したがらなかっただけであって、体の調子は既に、普通に生活する分には問題ない程度に回復していたりする。
 母としては外出禁止が罰のつもりだったようだが、元々インドア派なので別段問題などなく、想定外ではあったけれど連休だと思ってゆっくり過ごすことにした。
 とは言え、気になる点が全く無いかと言えばそんなことはなくて。
 例えば、父や母にお願いした弁護士への依頼についてどうなったか、なんていうのは一番気になることだった。
 だから、夕食の席などで話題を振ってみたわけだけれど。
 教えてもらえたのは、なんとか動いてもらえるようになったということと、内容証明等で連絡は弁護士を通して行うことを明記したという情報くらいのものだった。
 もっと進展について教えて欲しいと言ってみれば、後は全部私たちに任せなさいと父から言われた上に、母もその意見に同意を示していて――要は、既に迷惑をかけてしまっている身としては、それ以上を強く要求することができなかったというわけだった。
 ……余計なことをして、更に迷惑をかけるわけにはいかないからねぇ。
 そんなわけで、このままのんびり過ごして学校に戻るのかなぁと、漠然と思いながら過ごしていたのだが。
 どうやらそうは問屋が卸さないらしかった。





 家に戻って二日経った、平日は金曜日のことである。
 部屋に引きこもってラノベを楽しんでいた夕方に、やにわに階下が騒がしくなってきたのだ。
「……なんだいったい」
 扉が閉まっている状態では、なんだかうるさいということしかわからない。だから扉を開けて、外の音をよく聞いてみる。
 すると、
「……怒鳴り合い?」
 鮮明に聞こえてきた声は、怒声のそれだった。
 どうやら母と訪問客の間で言い争いが起こっているらしい。
 母が声を荒げるとは珍しい。そう思って内容に耳を傾けていると、被害届がどうたらとか、そういう単語が聞き取れた。
 ……もしかして、内容証明出された連中が押し掛けて来たのか?
 そう思っている間にも、聞き覚えのない声がやかましく叫ぶ言葉が聞こえてくる。
 その内容は、本当に聞くに堪えないものだった。
 やれ子どものしたことなのに大げさだとか。子どもの将来がどうなってもいいのかだとか。どうにも加害者意識に欠けるとしか思えない、そんな言葉ばかりが並んでいたからに他ならない。
 しかし、母もその声に負けじと声を張っていて、
「弁護士を通してくださいと伝えてあるはずでしょう。お引取り下さい!」
 玄関から先にあげないように牽制しているようだ。
 ただ、この時間はまだ父が言えに居ないから、母一人だとそのうち押し切られる形になることは明白で。
 それはすなわち、彼らが私の身内に手出しをする可能性があるということも意味していた。
 ゆえに、
 ……私も出るか。
 そう決断してから一度深呼吸を挟んだ後で――意識を切り替える。
 まず私は自室の机へと取って返した。机の引き出しを開き、手袋を取って身に付ける。続く動きでICレコーダーを取り出してから電源をオン状態にしてポケットに入れると、携帯も持って部屋を出た。
 そして慌てずにゆっくりと、階段を一段一段踏みしめるように降りながら――階段を一段降りるごとに、自分の中にある感情と思考を深く深くしずめていった。

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登場人物紹介

名前:佐藤茜

特徴/特技:記憶力がいい、割り切りが早い、意思が強い


このお話のネタ元さん、もとい中心人物。

彼女の育ってきた環境に特筆すべき点はひとつもないけれど。

彼女自身が体験した出来事は、"普通"とはちょっとかけ離れているようです。

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