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文字数 2,016文字
入り口でひと騒動起こしてしまったものの、中に入ってしまえばこちらのものだ。
しばらくナビくんの腕を引いて歩いていたけれど、彼女もなんとか気分を持ち直したようで、
「面白そうなのがいっぱいありますね、佐藤さん! どれから乗りましょうか!?」
なんて言いながらはしゃぐ姿をこちらに見せている。
いいことだと、そう思いながら周囲を見れば。
やはりと言うべきか――あるいは最早説明するまでもないことであるがと言うべきかはわからないけれど。この場所にある各種アトラクションも例に漏れず、この世界の建物特有の歪みを含んだ造詣となっていた。
普通の感性をしていれば、おそらくこの場所の乗り物を楽しむような気分にはならないのかもしれないが。
……形が違うだけじゃないか。
私にとってみれば、そんなのは些細なことである。気にする必要もないことである。機能が同じであればそれで問題はないのだから――遊園地を楽しまない理由にはならない! そうだろう!?
建築学上危ない形? それがどうした! 夢の国だぞ、しかも無制限ファストパス付きだ、楽しまなきゃ損だろうが!
テンションはもう最高潮に達したと言っていい。ナビくんよりもはしゃいでいる自覚はあるけど自重などしてやらないからな!
「行くぞナビくん。時間の許す限り、この場所を楽しみ尽くすぞ!」
「さ、佐藤さんが今まで見たことの無いようなテンションになってるー!?」
とりあえず目に付いたアトラクションに乗る。降りれば次を探して乗る。それを繰り返す。
しかし体力の底が無くなっている私と違って、彼女の体力は有限だ。
「も、もう無理ですよぅ、休みましょう佐藤さーん!」
彼女にしては割と頑張って着いてきてくれていたようではあるけれど。流石に限界が来たのか、そんな言葉で休憩したい旨を訴えてきた。
正直なところを言えば、まだまだアトラクション巡りを続けたい気持ちはあったが、彼女がそう言うのであれば仕方がない。
今日は彼女とこの場所を楽しみに来ているのだから、彼女が今のままでは楽しめそうもないのなら休憩を取るべきである。
そう考えて自分を納得させてから、近くにあった案内板で現在地を確認し。
……んー、ここがよさそうかな。
周囲にある建物を見回してから、自分の記憶と照合した後に目的地を決めた。
「よし、ナビくん。もう少し我慢してくれ。行きたいお店があるんだ。
時間的にも昼食時だし、ついでに食事もとるとしよう」
「うあーい」
そう言って向かった先では、買った料理を二人で食べ比べしながら、食事の際に開催されるショーを二人で楽しみ。
そして食休みを挟んで彼女の体力が戻るのを待ってから、アトラクション巡りを再開した。
その後は目ぼしいアトラクションに乗って乗って乗りまくって――気がつけばもう日も傾き、夜の時間となっていて。
時間を確認して愕然としたのは言うまでもないことである。
なぜなら。
「まずいぞナビくん、夜のパレードを見る場所が確保できてない!」
「そりゃこんな時間までひたすら乗りまくってればそうなりますよぉ!」
彼女の応答がまったくもって正論だったので反論が全くできなかった。くそぅ、私の馬鹿め。
とは言え、やってしまったことは仕方がない。今更あがいたところでどうにもならないのなら、素直に諦めるのが建設的な対応だろう。
「まぁ、とりあえずてきとーなところに立って眺めるとしようか。始まる時間から逆算すると――うん、もう少し歩いたところで待っていればよさそうだ。いくぞナビくん!」
「……佐藤さんは本当に元気ですねぇ」
「ぼさっとしてると置いていくからな」
「あ、待って、待ってくださいよぅ。置いていかないでー!」
そんなやり取りの後で向かった先には、ちょうどよく座れそうな場所があったので、二人で並んで座ることにして。
そのままぼけーっと待っていると、ふいにアナウンスが流れて、その後すぐに周囲がうるさくなった。パレードが始まったらしい。
ここは最前列ではないし、スタート地点からも遠い場所だ。だから、すぐ傍に居る人だかりから喝采があがることになるのはもう少し先のことだ。
――やがて、目の前の人垣からも喝采があがってきて。
煌びやかなイルミネーション、演者の華やかで堂々とした演技、それが次々とキャラを変え、姿を変え、私の目の前を通り過ぎていくようになる。
きちんと時間配分を考えて最前列を確保していれば、今は人垣で見えなくなってしまっている下のほうも見れるし、最高に楽しめることは間違いなかったのだが。
……まぁ上の部分が見れるだけでも十分か。
なんだかんだで、少しは疲れを感じていたのだろう。
私はパレードが終わるまでの間、一言も口を聞かずに黙ったままで、彼女と並んで座りながら、ずっとパレードの様子を眺めていた。