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文字数 1,046文字


「情報が手に入り次第、連絡しますね」
 最後にそう言って、斉藤さんは部室に戻って行った。
 私は彼女を見送った後で、空き教室を出る。
 とは言え、そのまま真っ直ぐ家に帰るわけではなかった。
 そうしたい気持ちは当然あったのだけれど。
 ……まだやるべきことが残っているからね。
 そんな言葉を自分に言い聞かせるように思いながら向かう先は、自分の所属するクラスの教室だった。
 放課後になってからだいぶ時間が過ぎたからか、教室の周囲に人影はなかった。
 扉を開けて、中を見る。
 どうやら教室の中にも、残っている人間はいないらしかった。
 都合がいいなと、そう思いながら教室の中に入って扉を閉める。
「さて、と」
 そう呟いてからまず向かったのは、自分の使っている机だった。
 椅子、中身、天板をそれぞれ確認する。
 ……特に異常はないな。
 どうやら、まだ何かをされてはいないようである。
 ……まぁ、それが普通なんだけどね。
 内心で溜め息を吐いた後で、次に向かうのは教室前方、窓際にある棚だった。
 教室の隅に合わせたような台形の板が、天井から約一メートル下の部分に取り付けられており、その上にテレビが置かれてある。
 このテレビは授業でビデオを使う場合や、昼休みの学校放送を見る場合などに使われるものであるが、どちらの用途であっても使用されることは稀である。
 だからこそ、人の目がほぼ向けられることはなく。
 教室の前方にあるという位置関係から、細工をしておくにはうってつけの場所というわけだった。
「…………」
 棚近くにある机を移動させて、その上に乗ると。鞄を開いて、小型カメラを取り出す。
 スピーカー偽装型のビデオカメラである。
「録画はどうするんだっけか……こうかな?」
 滅多に使うものではないので設定等で多少四苦八苦したものの、無事に空きコンセントも見つかり、接続と設置を完了させた。
 ビデオカメラ前面にある動作ランプが点灯していることを確認した後で、ランプの消灯を忘れずにきっちりと実施してから机を降りる。
「…………」
 作業が終わればこの場所に残っている意味もない。むしろ、残っている姿を見られる方が面倒だろう。
 そう考えて、速やかに机を元の位置に戻して教室を出る。
 ……これが無駄足であることが一番なんだけどね。
 さて、どうなることやらと。
 溜め息を吐いた後で再び人気のないトイレに入り、髪や服装をいつもの通りに戻してから帰宅することにした。



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登場人物紹介

名前:佐藤茜

特徴/特技:記憶力がいい、割り切りが早い、意思が強い


このお話のネタ元さん、もとい中心人物。

彼女の育ってきた環境に特筆すべき点はひとつもないけれど。

彼女自身が体験した出来事は、"普通"とはちょっとかけ離れているようです。

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