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文字数 1,506文字
その後、二人から積極的に干渉や接触を図ってくる様子はなかった。
そもそも同じ校内で学生生活を送っているのだから、接触する機会を完全に失くすというのは無理な話である。上級生である彼女はともかく、同学年である彼であればなおさらだ。顔を見ないほうが難しい。
それでも、顔を見れば会釈を交わす程度でしかないのだから、ほぼ接触がないと言っていいレベルだろう。
あの日のことは、あれで終わりになった。
そういうことである。
しかし、人生というのはままならないもので。
三ヶ月ほど経ったある日に、再び二人と関わることになった。
平日は木曜日のことである。
朝は母の朝食をきちんと食べて、父と一緒に家を出て。いつも通りの時間に学校へと辿り着き、そつなく授業をこなした後で放課後を迎える。
放課後になれば、私は図書室に行って勉強に励む。
――あんなことがあった後でも、私はこの習慣を変えることはなかった。
別に、あの日の再体験を期待して習慣を変えなかったわけではない。それは絶対に否だ。あんな痛い思いや死ぬような思いをするのは御免である。
私がこの習慣を変えなかった理由は単純だ。単に新しい学習内容についていくためにはこの習慣が最適だったという、それだけのことでしかなかった。
「…………」
そんな放課後の終わりも終わり、司書に図書室から追い出されるように退室してから、さて帰るかとなったところでふと窓の外を見ると、雨が降っていることに気付いた。
窓を叩く音が強いので、結構な土砂降りのようである。
……全然気付かなかったな。
今日は割と集中できていたから、気付かなかったのはそのせいだろうと思いたいところだけれど――実際に問題となる点はそこではない。
今朝の天気予報では雨が降るという話は出てなかったせいで、常備している折り畳み傘しか雨具の用意がないのが問題だった。あまりにも強い土砂降りであれば、折り畳み傘なんてまるで気休めにもならないのだから。
ああめんどくさいったら、なんて思いながら、鞄を漁って教科書保護用のビニール袋はちゃんと入れてたっけと探しつつ、窓に近寄る。
一度窓を開けて、どの程度の土砂降りなのかを確認するためだった。
窓を開ければ廊下が汚れることは容易に想像できたけれど、それは掃除当番が気にすればいいことであって私には関係ないんです。
そんなことを考えながら開けてみると――途端にぶわあっと一気に雨が振り込んできた。廊下に凄い勢いで雨粒が入ってきて濡れていくのを見て、慌てて窓を閉める。
まさかこれほどとはおもわなか――なんだあれ。
「……?」
窓を開けた瞬間に見えた景色の中から、違和感を得た。
窓に近づいて外をよく見る。見るのは中庭の一角だ。緑の多い場所に、何かある――あった。
影に隠れてよくは見えないが、そこにあったのは雨の中で傘も差さずに濡れる地面に座り込んでいるように見える、二人分の人影で。
見間違えでなければ、その周囲にわずかに赤い色が見える気がした。
――それを見て脳裏に過ぎったのはある二人の姿。
キョウジやアヤコと呼びあっていた二人組だ。
「…………」
気のせいであればいい。
というか、もしもあの人影が件の二人で、今現在起こっている問題が想像している通りだったとしたら、私が行ったところで何も出来やしないこともわかっていたけれど。
気になった以上は仕方が無い。
確かめたくなった以上は仕方が無い。
「……見てしまった以上は、見なかったことにはできないんだから」
だから、私はその場に行くことにした。