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文字数 2,495文字


 帰宅して夕食を摂った後で、私は回収したビデオの映像とレコーダーの音声を確認することにした。
 まずはビデオの映像を確認から始めることにして。
 ビデオカメラを私用のノートパソコンに繋ぎ、アプリを使って映像を再生する。
 撮影時間は設置から回収までの約十五時間程度あるわけだが。大半が意味の無い映像であることは確定しているので、頭の中で計算して、見たい映像が始まるだろうおよそのところまで再生時間を進める。
 そして設定で再生速度を速めた上で映像を流していると、次第に教室内にちらほらと人の姿が映るようになってきた。
 教室後方、アプリ画面上では右上にあたる位置が私の席だ。
 そこに注目しながらさらに映像を進めていくと。
「――やっとか」
 やがて、複数の人影が私の席に集まり始めた。
 アプリ上の再生時間を確認してメモをとる。そのまま映像を流していると、きゃっきゃと笑う声が聞こえてきた。
 人をいじめる――いや、追い詰めると言った方が正確だろうか――作業がよほど楽しいらしい。
 ……よくこんな腐った性根で、誰かを好きになるなどということができるものだ。
 そんなことを考えながら映像を眺めていると、作業が終わったのか、彼女達が机から離れいく姿が見えた。
 私はそこで映像を止めて、再生時間を確認してメモをとる。
 そしてメモした再生時間を目安に、不要な部分をカットして加工したデータを保存すると。
 次に、レコーダーの音声を確認する作業に移った。
 ビデオカメラをパソコンから外して、ICレコーダーをノートパソコンに接続してから再生する。
 レコーダーに残っている録音データの再生時間は、約六~七時間程度だ。
 こちらも大半は意味の無い音声だが、ビデオと比較して取り出す部分が多いため、映像の確認よりも若干作業が面倒くさかった。
 こまめに再生位置をずらしていって、教員の音声がどこにあるのか、その再生時間をメモしていく。
 そうやって確認作業を続けていって――残しておきたい音声を抽出し、計六個の音声ファイルを作成した。
 念のために、作成した映像ファイルと音声ファイルの中身をもう一度確認して、内容に間違いが無いことを確かめる。
 ……内容に問題はなさそうだな。
「さて、と。出てもらえるかなぁ」
 そう考えて、呟きながら電話をかける相手は、斉藤さんだ。
 四コールほど待っていると、もしもしという言葉が聞こえた。だから言う。
「佐藤茜です。夜遅くにごめんね、斉藤さん。
 少し話がしたいんだけど、今時間はとれるかな?」
『大丈夫です。何でしょう?』
「ありがとう。――昨日相談した件なんだけど、資料ができたからそちらに送りたいんだ。昔教えてもらったフリーメールのアドレスに送ろうと思ってるんだけど、いいかな?」
『はい、そこに送ってもらえれば確認します。資料の中身は聞いても?』
 私は電話を続けながら、空いた片手でパソコンを操作し、メーラーを起動する。資料を送信する準備を続けながら、彼女の質問に答える。
「資料は三つ。
 私の机に行われたいたずらを写真に残したものと、いじめをしている最中の映像、いじめを受けた生徒に対する教員の対応を録音したものだ。
 今まで通っていても気付かなかったが――この学校、マジでヤバイぞ」
 笑いながらそう言って、メールを送信した。
 しばらく沈黙があって、彼女の言葉が返ってくる。
『メール来ました。今から確認します。――確認しました。
 ……あの、音声のほうなんですが。これ、本物ですか?』
「不要な部分は削除したけど、音声そのものは弄っていないよ。
 そもそも、そんな技術は流石に私も持っていないし。
 仮にそんな技術を持っていたとしても、そんなものを捏造する理由もない」
『だとしたら腐ってますね。……本当、最悪だ』
「とりあえず今日確保したのはそれだけだね。明日以降も同様に証拠を集めるつもりではあるけど、記事は書けそう?」
『問題なく。――ああ、そうだ。こちらでも写真が確保できましたので、送っておきますね』
「ありがとう」
 そう言って、メーラーを何度か更新すると、新着メールが出てきた。
 送付者の名前を確認してから、メールの添付ファイルを開く。
 彼女が送ってきたファイルは画像データだった。中身はいじめをやっている最中の女子グループの様子を撮ったものと、アップで各々の顔を撮ったもので――とてもよく撮れた写真だった。
「こっちも来たファイルを確認した。……よく撮れたね、こんな写真」
『一応、部活程度とは言え専門ですからね。そして、私は割と好きなことにはこだわる性質です。ご存知でしょう?』
「ああ、当然だ。だからこそ、君に頼ったんだから」
『信頼していただき、嬉しい限りです。
 ――この手の写真がまだ要るようであれば、継続しますが』
「いや、これだけで十分だ。今後の証拠集めは私の分だけでも十分だろう。それに、斉藤さんの手をこれ以上煩わせるのも気が引ける」
『私のことは別に気にしなくてもいいんですが……茜さんがそう言うのであれば、写真を撮るのはやめておきましょう。
 代わりに、記事作成をがんばりますね。締め切りはいつですか?』
「そうだね――今週の金曜までに貰えれば非常に助かる。デッドエンドは日曜午前ってところかな」
『んーと――はい、わかりました。金曜は厳しいですが、土曜日中には必ず記事を送ります』
「ありがとう。よろしくお願いします」
『はい、わかりました。――では、次は記事が出来上がったときに連絡させてもらいますね』
「うん、わかった。そのときはよろしく」
『はい。それでは失礼します』
 彼女のその言葉を最後に、ぷつんと電話が切れた。
 私もボタンを押して通話を切り、ノートパソコンの電源を落としてから、軽く伸びをする。
「――とりあえず今日の分は終了だな。明日からまた忙しくなるし、さっさと休むとしよう」
 そして自分に言い聞かせるようにそう呟いた後で、私は部屋の電気を消してベッドに入った。

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登場人物紹介

名前:佐藤茜

特徴/特技:記憶力がいい、割り切りが早い、意思が強い


このお話のネタ元さん、もとい中心人物。

彼女の育ってきた環境に特筆すべき点はひとつもないけれど。

彼女自身が体験した出来事は、"普通"とはちょっとかけ離れているようです。

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