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文字数 1,876文字


 翌日。平日は木曜日である。
 今朝はいつも通りの時刻に鳴るアラームの音で起きることができたものの、母の朝食はなかったので、泣く泣く買い置きしてあるパンを頬張ることになった。
 なぜ母が朝食を用意してくれなかったのかと言えば、別段深い理由があるわけでもなく、単に家に居なかったからである。
 そして母がいない理由も特に不思議なものではなくて、母親の会みたいな仲良しグループで行く一泊二日の旅行に向かったからでしかなかった。
 平日、一週間の真っ只中という時期に旅行を計画し実行するというのは実に効率的な行動だと言えるけれど、そんな行動の影響を受けるこちらとしてはたまったものじゃない。
 とは言え、母も一人の人間なのだからして、息抜きをしたいと思うのも当然のことである。いつも世話をしてもらっている身で文句を垂れるのは筋違いだろう。
 しかし、母が旅行に向かったということは、すなわち二日は母の食事にありつけないし、自分で用意しなければならないということを意味しているわけで。食事どうしようかなマジで、と若干不安になった。
 一応母が食事代として置いていったお小遣いがあるし、加えて父からもせびったから、ひもじい思いはしなくて済みそうではあるのだけど。
 いつも誰かに作ってもらう食事を食べていると、コンビニの食事とかは味気ない気がするので若干テンションが下がるのだった。
 ……別に、まずいというつもりはないんだけどね。
 このあたりは気持ちの問題なのでどうしようもない。折り合いをつけなければひもじい思いをするだけだろう。
 朝から気分が下がるったらないわ、そう思いながら学校に向かう準備を始める。
「いってきまーす」
 そして、いつもより早く家を出て、途中のコンビニで今日の昼飯と飲み物を確保してから、いつも通りの時間に到着するように学校へと向かった。
 教室に着くと、中はわいわいといつもより少しだけ騒がしい様子を見せていた。
 ……何かあったのか? なんだか興奮しているように見えるけれど。
 私はこの教室内に挨拶する相手も特にいないし、会話に加わる相手もいないので、教室の妙な雰囲気には疑問を持ったものの確かめる手段はない。
 まっすぐ自分の席に向かう。
 ただ、やっぱり気になるものは気になるので、無作法だと思いつつも周囲で行われている会話に耳を傾けてみる。
「でも、びっくりしたよねー。上級生がこの教室に来るなんてさ」
「だね。でもさ、一緒にいた子ってうちらの学年の子だったよね? ――ちょっとかっこよくなかった?」
「わかる!」
 ふむ。
「あんな綺麗な上級生が居るなんて知らなかったぜ。損してたー!」
「一緒に居たやつ、あの人とどんな関係なんだろうなぁ」
「恋人同士なんじゃないの?」
「そうだったらうらやまだし、殺したいくらい憎い」
「わかる」
「発言は危ないけど正直なのは嫌いじゃないよ」
 ふむ。ふむ。
 荷物の整理をしつつ、聞こえてくる会話に内心で頷きを返しながら要点をまとめると。
 どうやら朝、男子と女子の二人組がこの教室に訪れたらしく、そのことが話題となってクラス内を沸かしているようだった。
 その二人組の内訳は、一人は女子で上級生、一人は男子で同級生であるらしい。
「…………」
 なるほど確かに、上級生が下級生の教室にやってくるというのはちょっとした話題になっても不思議ではないだろう。それが美人の女子であれば尚更だ。
 ただ、私個人からすると、この話はあまり盛り上がれる内容じゃなかった。むしろ面倒事の気配を感じてうんざりする類のものだった。
 なぜなら、年上の女子と同い年の男子という組み合わせで、すぐに思い出せるような心当たりがあったからである。
 まぁつい昨日に起こった出来事なのだから、そうそう忘れるはずもないのだが。
「……そうと決まったわけでもない」
 そう。現段階ではまだ、今話題の中心にある件の二人が、私の知っている相手かどうかは確定していない。
 あくまで、私個人の時系列において起こった出来事を並べた場合に、この話題になっている出来事が、私との関連性が高そうだと思えるタイミングで起こったということでしかないのである。
 たとえ往生際が悪いと言われようとも、実際に目にするまでは事実として確定しないので違うったら違うんです。
「……とりあえず、昼休みは速攻で教室を出よう」
 違うはずだけど念のためにそうしよう、と強く心に誓いながら、今日ひとつ目の授業を受ける準備を始めることにした。

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登場人物紹介

名前:佐藤茜

特徴/特技:記憶力がいい、割り切りが早い、意思が強い


このお話のネタ元さん、もとい中心人物。

彼女の育ってきた環境に特筆すべき点はひとつもないけれど。

彼女自身が体験した出来事は、"普通"とはちょっとかけ離れているようです。

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