第23話

文字数 810文字

 玄関をくぐり、部長の三橋院こずえが、みんなを代表して受付を済ませると、仲居さんの先導で、部屋へと案内された。
 入り口には『かえでの間』の立て札がかけられていて、仲居さんがふすまを開ける。
 旅館らしく中は畳敷きで、古臭いイ草の匂いが嗅覚を刺激すると、たまらず窓を開けた。
 一面に緑が広がり、遠くに海が望める。絶景とまではいかなくても、景色は悪くなく、改めて都会の喧騒から抜け出した空気を感じることができた。
 他の五人も荷物を置くと、しばし、その光景に見惚れている。
「さっそく練習を始めましょう!」
 三橋院こずえの合図で、みんなの表情が真顔に変わる。
「練習って、ここでやるんですか?」僕は疑問の声を上げた。
 この部屋にはゲームはおろか、テレビすらなかった。しかも荷物はボンバーマンのディスクとヘッドホン、それに着替えだけで、ゲーム機の類は持参していない。他のメンバーも同じはずだ。
「バカじゃないの?」笠原萌恵の雑言が飛んだ。「ここでするわけないじゃない」
 すると、
「この旅館にはゲームの間という専用の施設があるんです。私たちは今からそこへ向かいます」
 親切な福水杏奈のおかげで納得がいった。
「キミは下手くそだから、気合入れてよ。わかっていると思うけど、海荷のパンティーは盗まないでね!」
 関根海荷はあれ以来、ことあるごとにその話題を切り出してくる。勘弁してほしいが、またエアガンを向けられると困るので、言い返すことはない。
「…………ふん」
 相変わらず何を考えているのか、まったく掴めない林麻利絵。
 普段から口数の少ない彼女は、常にマイペース。筋トレマニアだから、宮川からはアジアンビューティーならぬ、

ビューティーと呼ばれていた。クールヤンキーといい勝負である。
「グズグズしていたら、日が暮れてしまいますわ。今は一秒でも惜しいのです。心して参りましょう」
 こずえ先輩の後に続き、僕たちはかえでの間をでると通路を進む。
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