第6話

文字数 1,492文字

「さっきはごめんなさい! てっきりあなたが盗んだものだと……」
 海荷はペコリと頭を下におろす。ツインテールの先が床につきそうになるくらいに。
「いや、僕の方こそパンティーとは知らずに拾ってしまって……」と、謝罪の意を示した。
 だが、ここで疑問が生じる。
 どうしてパンティーが落ちていたのか? 
 高田はそこまで聞いていないらしく、当然僕にも知りようがなかった。
 理由を尋ねると、彼女は恥ずかしそうにこう答えた。
「……海荷って、ゲームに集中すると、無意識に下着を脱ぐ癖があるの。誰にも言っちゃだめよ。もし喋ったら今度は実弾だからね!」
 おそらく冗談なのだろうが、それくらいの迫力があった。この娘ならやりかねないと本気で思えるほどだ。
 ――それにしてもゲームに集中したくらいでパンティーを脱ぐなんて、どんな癖だよ!
 そう突っ込む前に彼女は自分から打ち明け始めた。
「……海荷だって変だという自覚はあるのよ。でも、いくら気を付けても、どうしようもないの。下着に気を取られているとゲームがおろそかになるし、逆の場合もしかり。自分でもヤになっちゃうわ」
 ――そうだったのか。荒唐無稽な癖だけに、彼女も彼女なりに苦悩しているのだな、と思わず同情してしまう。
 だからと言って……。
「だからと言って、いきなり乱射することはないだろ? エアガンだとしても結構痛いんだぞ!」 
 僕は思いのたけをぶつけた。
 彼女は反省しているらしく、敬礼をしながら“てへぺろ”をした。
「ごめんね。今度から気を付けるから」
 その笑顔に一気にほだされ、心を鷲掴みにされてしまう。
 ――いかんいかん。僕は笠原に一途なんだ。浮気なんて考えるんじゃない!
 そんな気持ちを無視するかの如く、彼女は自己紹介を始めた。
「もう知ってると思うけど、私は関根海荷っていうの。まだ一年生だけど、この中ではナンバーツーの実力よ。話は笠原先輩から聞いているわ。あなたは確か……」
「風見徳也です……って、なんだ下級生か。敬語で話して損した。これからはタメ口でいいよな?」
 年下だと分かったとたん、急変した口調に、海荷はギラリと目を細め、鞄に手を忍ばせた。
 カチャリと音が鳴ると、彼女は不敵な笑顔を浮かべる。
「……って冗談でーす。ゲーム部では君の方が先輩だから、馴れ馴れしくするほうがおかしいですよね?」揉み手をする自分が情けない。
 すると海荷は鞄から手を抜き出し、何事もなかったかのように椅子に腰を下ろした。もちろん関根海荷のプレートの前にである。
「風見クンはどんなゲームが得意?」
 僕は言葉に詰まった。これまでゲームなんてほとんどしたことがない。
 正直にそう伝えると、
「……よくゲーム部に入れたわね。先輩もどうかしてるわ。いくらメンバーが足りないからって、こんなスケベ野郎を入れるなんてさ」そこで自分の失言に気づいたらしく、「ごめんなさい。先輩の陰口なんてマナー違反よね!」
 スケベ野郎は否定せんのかい!
 
 その日は最後まで他の部員は現れず、海荷と二人だけでゲームをプレイした。スーパーファミコンの『ぷよぷよ』とかいうパズルゲームだ。操作は単純だが、意外と難しく、百回ほど対戦したが、一度も勝つことができないでいた。
 話によると、メンバーにはそれぞれ都合があって、普段は週に一度しか顔を出さないらしい。ちなみに昨日は笠原で、今日は関根海荷だそうだ。
「じゃあ明日は誰が来るの?」
「部長の三橋院(みはしいん)先輩。あの三橋院財閥のお嬢様なの。三年生で相当厳しいから、覚悟しておいたほうがいいわよ」
 いや、いきなりエアガンをぶっ放すなんて、お前もなかなかだよ。 
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