第20話

文字数 1,106文字

 金曜日。
 一回声をかけて部室の扉を開ける。
 今日の林麻利絵はきちんと制服を着ていて、残念だった……もとい、ほっとした。ブレザーの上からも、引き締まった肉体や、緩急のあるボディラインがはっきりと分かる。
 何を考えているか分からないようなクールビューティーだが、そこがまたミステリアスで、食指が動きそうになった。
 彼女は僕を見るなり、
「……この前はすまなかった」
 ――自分から謝るなんて、意外と殊勝じゃないか。乱暴そうに見えて、実は礼儀正しい淑女なのかもしれない。この調子だと良い関係になれそうだ。もしかしたらこの部の中で、彼女が一番まともなのかもしれない。
 そこで僕も頭を下ろした。
「僕の方こそ……」
 言い終われないうちに、麻利絵はとんでもない言葉をかぶせてきた。
「急所を狙ったつもりが、外してしまった」
 前言撤回。とんでもなくヤバい奴だった。
 ――な、なにー!? こいつ、本気で僕を殺す気だったのかよ!!
 何も言えない僕は、口をすぼめながら黙りこくる。
 彼女はつんと澄ましながら顎をしゃくり、ゲームのあるデスクを指した。 
 てっきりゲームを始めるかと思いきや、
「……そこの前で腕立て百回!」
 ひ、百回? マジでいってんのかよ。
 どうしようかと手をこまねいていると、麻利絵はハイキックを素振りする。
 まるで腕立てをやらないと、またお見舞いするぞと脅しているようだった。
「……わかりました」
 僕はうつぶせになると、渋々両手を床につけ、腕立て伏せを始めた。
 三十回終えたところで腕がパンパンになり、これ以上続けることができなかった。
「……ふん!」
 仕方がないといった感じで、今度は腹筋百回を言い渡された。
「もう勘弁してくれないか。それよりゲームを……」
 バキッ!!
 どこから出してきたのか、麻利絵は竹ぼうきを両手で構えると、膝蹴りで二つに折った。
「……聞こえなかった?」
 速攻であおむけになると、しびれて力の入らない両手を頭の下に入れ、腹筋を始めた……。

 一時間ほど筋トレをやらされ、ようやくゲームを始めることとなった。
 だが、操作をするたびに罵声が飛ぶ。
「……そこ! タイミングが早すぎる。……右じゃなくて下! ……違う! もう何度言ったら――」
 注意を受けるごとに椅子をガンガン蹴られた。
 そのたびに震え上がり、ゲームどころではない。
 ただでさえ、さっきの筋トレで腕が上がらないというのに、このしごきはあんまりだ。
 まさに鬼教官。これじゃクールビューティーじゃなくてクールヤンキーだ。
「……もし、大会で無様な姿を見せるようだったら、お前も覚悟しておくんだな!」
 麻利絵の瞳が怪しく光る。
 絶対殺されるな、これは。
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