第14話

文字数 660文字

 親父には自分で言うからと、お袋に口止めをし、いつも通りの夕食が始まった。
 僕は少し前に起きだして、近所にあるエルミカ堂というパン屋へダッシュしていた。
 そこであるものを購入すると、妹が帰ってくる直前に帰宅した。

 ダイニングテーブルには父母が並んで座り、それぞれの正面には、僕と彩乃が腰を下ろしている。
 いつにもまして、今日の親父は顔を険しくしていて、機嫌が悪いのがビンビンに伝わってくる。とてもゲーム部の話を切り出せる雰囲気ではなかった。
 お袋は『早く言いなさいよ』とばかりに目で合図を送っていて、心苦しいことこの上ない。
 妹は妹で、親父と同じく不機嫌な空気を漂わせながら、無言で箸を動かしている。もっともコイツの場合、普段からそうなのだから、いつも通りといえばいつも通りだ。
「彩乃、新しい学校はもう慣れたか?」
 親父は妹を斜めに見ながら、こともなげに話しかけた。
「別に」
 どう捉えて良いか分からない返事だが、親父は納得したらしく、笑顔で「そうか、それはよかったな」と箸を進める。
「徳也、お前はどうなんだ?」
 いかにもついでと言わんばかりに矛先を向ける。
 僕の返事は、
「別に」
 彩乃の真似をしてみた。
 途端に箸を下ろし、親父は天板を平手で大げさにたたく。
「なんだその口の利き方は! 親に向かってその言い草、お前には常識というものがないのか!!」
 同じ返事なのにこの変わりよう。関係性の格差が露骨すぎる。ここまで極端な態度を見せる親も、そうはいないだろう。
 早々に夕食を切り上げると、僕は具合が悪いと言って茶碗を下げた。
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