第28話

文字数 1,194文字

 ガラガラ……。

 僕が入ってきた内風呂のフロアとは、真逆の方向から扉が開く音が聞こえた。
 一瞬で背筋が凍る。
 現れたのは見慣れた五人。
 そう、ゲーム部の女子たちだ。
 まさか混浴だったなんて! なんだよこの昭和のラブコメのようなベタな展開は!  あいつら混浴だと知っているのかよ!
 湯煙のせいで、向こうは僕に気づいていないらしく、無邪気に会話を楽しんでいる。
 大至急上がろうとしたが、足がもたついてしまい、上手く進むことができない。このままでは早急に見つかってしまいそうだった。
 仕方がないので咄嗟に中央の岩陰に隠れることにした。
「萌恵先輩、また胸が大きくなったんじゃないの?」
 海荷の声だ。
 思わず聞き耳を立てそうになるが、今はそれどころではない。
「私より杏奈の方が大きいわよ。ねえ杏奈?」
「……そ、そんなことないです。麻利絵さんの方が……」
「……ふん!」
「でもやっぱり、こずえ先輩が一番大きいよね」
「海荷さん。大きさの問題ではありません。要はバランスですわよ」
 聞いてはいけないような会話の応酬で、僕のアソコはトンデモナイことになっている。
 しかし、体が限界を迎えているのも事実であり、のぼせ上がるのも時間の問題と言えた。
 五人に背を向けながら、気づかれないように湯煙の中をゆっくりと浴槽の縁へと向かう。
 どうやら話に夢中で、僕の存在には完全に気づいていないようだった。
 ――よし! このままイケる! 
 だが、あと少しというところで、海荷の声がかかった。
「すみません。お姉さん、ひとり?」
 彼女たちのほかには僕しかいないのだから、明らかに自分に向けられたに違いない。
「……ええ、でも、もう上がりますので……」
 裏声を使い、女性のふりをする。かなり不自然だが、それしかごまかす方法がなかった。
 ――このままほっといてくれ! 頼む! 
 しかし、願いは届かなかった。
 最悪なことに、今度は萌恵の声に変った。
「良かったら一緒に話でもしません? もしかして恥ずかしいんですか? 大丈夫ですよ、女同士だし、旅の恥はかき捨てっていうでしょう?」
 『そうですね、ではお言葉に甘えまして』
 ――なんて、ぜってー無理だろ! いっそ殺してくれ!! 
 僕は無言を貫き、湯船の中を移動した。
 だが、水音がすると、肩に柔らかい手の感触が走る。
「そう言わずに。何も遠慮することは――」
 そこで初めて僕の正体に気が付いたらしく、
「きゃあああああああ!!!!!!!!!!!」
 だから言わんこっちゃない。混浴であることをちゃんと確認しなかった僕も悪いが、それはみんなも同じ。むしろ五人もいて誰一人気づかないほうがどうかしてる。
 大混乱となった露天風呂は、僕一人を残し、瞬く間に誰もいなくなった。
 その後の記憶は全くない。
 なぜなら騒ぎを聞きつけた旅館の従業員たちが、湯船に沈む僕を意識のないまま救護室まで運んだからだ……。
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