第27話

文字数 852文字

 物足りない夕食が終わると、今度は入浴の時間。
 僕はトイレで浴衣に着替えると、一階にある大浴場に向かう。
 その前に一度、沼平西校の様子を窺うことにした。
 ゲームの間に足を進めると、扉の前で立ち止まる。
 中に入るわけにはいかないので、聞き耳を立てることにした。

 カタカタカタ……。

 明らかにサターンのコントローラーとは違う。
 さっきの会話から察するに、彼らも同じ大会に出席するはずなので、ゲーム機はサターンのはずだ。
 彼らは何をやっているのだろう?
 あまり長居するわけにもいかず、僕はそそくさとそこを離れた。
 深く考えても

が明かないので、大浴場にきびすを返す。

 暖簾をくぐり浴衣を脱ぐと、タオルを肩にかけながら、浴槽に続く扉を開けた。久しぶりの温泉で嫌が応にも期待が高まる。
 いかにゲーミングチェアと言えど、四時間もぶっ通しでプレイしたら、さすがに肩や腰が悲鳴を上げていた。
 浴槽には他に誰の姿もない。今はシーズンオフだし、こんなマニアックな旅館なのだから、利用客が少ないのもわかる気がする。
 ――メンドクサイ女子たちもいないことだし、少しくらい長湯しても、構わないよな?
 体を洗い、のんびり内風呂につかっていると、ライトアップされた窓の向こうに露天風呂が見えた。
 せっかくの温泉なんだし、入らないという手はない。足が向くのは自然の道理だ。
 ガラガラと引き戸を開けると、柔らかな冷たい風が吹き抜けた。火照った体には実に心地いい。
 そこには誰もおらず、まさに貸し切り状態。
 岩肌の湯船は教室の半分はありそうな、ゆったりとした広さで、中央には巨大な岩の塊が小島のように存在している。
 タオルをたたんで頭に乗せながら、ゆっくりと岩風呂に足を入れる。少しぬるめだが、実際に肩までつかると、むしろちょうどいい温度に感じた。
 ゆっくりのんびり、まどろみを満喫しながら昼間の疲れを癒すのも悪くない。
 見上げると満天の星空。これを独り占めだなんて贅沢すぎる。

 そのうち、のぼせてきたので、そろそろ上がろうとした時――。
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